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第3回 4月下旬〜5月


ヤハズエンドウ
(カラスノエンドウ)

レンゲソウ

キンポウゲ

イチリンソウ


ハルジオン

ホウチャクソウ

クマガイソウ

マムシグサ


 
ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ)
 野原,道ばた,田の畦など,日当たりのよい場所に生えるマメ科の越年草です。小葉の先端が矢筈(やはず)状にくぼんでいることからヤハズエンドウと名づけられ,また同じ仲間のスズメノエンドウより大きいので,カラスノエンドウともよばれています。
 茎は,根元から分枝してつる状になり,長いものでは1mにもなります。葉は羽状複葉で,8〜16枚の小葉をつけ,先端は3本に分かれる巻きひげになって,物に巻きついてよじのぼります。
 4月から5月にかけて,葉のわきに,長さ12〜18mmの紅紫色の花を1〜2個つけます。花は左右相称で,正面 から見て,いちばん後ろに旗弁(きべん)という大きな花弁が1枚,中央に2枚の花弁が合わさって船のへさきのような形をしている竜骨弁,竜骨弁の左右に翼弁が1枚ずつ,合計5弁の花弁からできています。このような花のつくりを蝶形花といって,マメ科特有のものです。ソラマメ,ダイズ,シロツメクサ,フジなどの花も蝶形花です。
 竜骨弁の中には,10本の雄しべがあり,そのうち1本だけが離れていますが,あとの9本が樋(とい)状に雌しべを包んでいます。雌しべの子房は,長く平たい形をしていて,やがて果 実になると,豆の莢(さや)になります。ヤハズエンドウの果実は,熟すと黒くなり,中に5〜10個の種子が入っています。ヨーロッパ産のものは全体に大形で,ザードウィッケといわれ,牧草として栽培されています。
 ヤハズエンドウと同じ仲間にスズメノエンドウがあります。花が白紫色で小さく,総状に柄のある花序になるので区別 できます。ヤハズエンドウに比べてずっと少ないです。

 
レンゲソウ
 レンゲソウは,ゲンゲともいわれ,日本の春の田園風景を象徴する花として,昔から人々に親しまれてきました。小学校唱歌の「春の小川」に歌われたり,小学校の理科の教科書には必ず取り上げられてきました。
 根に根粒バクテリアが共生し,空気中の窒素を固定するために,緑肥として田に植えられ,また,蜜蜂の重要な蜜源とされることでもよく知られています。田に栽培された株から種子が逸出するので,田の畦はもちろん,道ばた,土手,野原など,日当たりのよい場所ならば,どこでもレンゲソウを見つけることができました。ところが,化学肥料の利用によって,緑肥としてのレンゲソウの栽培が少なくなってくるにしたがって,野に咲くレンゲソウもだんだん姿を消し,現在では,その姿を全く見かけなくなってしまったという地域もふえています。レンゲソウは日本原産の植物ではなく,古い時代に中国から伝来した植物です。ゲンゲという名は,漢字の「翹揺」の音読みに由来しているとのことです。
 レンゲソウもマメ科の越年草で,葉は根元で分枝し,高さ10〜30cm,葉は奇数羽状複葉で,小葉は9〜11枚,小葉の形は倒卵形で先端が少しへこんでいます。花は10〜15cmの花茎の先に,長さ12〜14mmの紅紫色の美しい蝶形花を7個くらい輪状につけます。その様子が蓮(はす)の花弁のつき方に似ているので,蓮華草(れんげそう)とよばれるようになったのです。岐阜県では,レンゲソウを県花としています。裏作のできない岐阜県では,レンゲソウを作ることによって,土地を肥沃にしたとのことです。

 
キンポウゲ
 キンポウゲは,日当たりのよい山野に生えるキンポウゲ科の多年草で,高さ30〜60cmになります。根生葉は長い柄があり,葉身は掌状に分裂しています。その葉の形を馬の脚の形に見たててウマノアシガタという別 名があります。キンポウゲという名は金鳳花で,本来は,ウマノアシガタの八重咲きのものにつけられた名です。牧野富太郎博士は,キンポウゲ科のことを,ウマノアシガタ科とよんでいました。
 花は,4〜6月に咲き,直径2cm,がく片・花弁ともに5枚,花弁は黄色で光沢があって美しく輝きます。これは,花弁の表層の下にデンプンを含んだ細胞層があって,太陽光線を反射させるためで,昆虫を引き寄せるはたらきをしているようです。雄しべ,雌しべは,ともにたくさんあって,らせん状についています。果 実は球形の集合花で,径5〜7mmになります。
 キンポウゲ属には,タガラシ,キツネノボタンなど湿地に生えるものや,タカネキンポウゲ,ミヤマキンポウゲなど高山に生えるものなどがあり,ときに群生してお花畑の主要な構成員になります。また,ハナキンポウゲ(ラナンキュラス)は,花色が美しく,花壇や鉢植えにして,観賞用として育てられています。

 
イチリンソウ
 イチリンソウは,落葉広葉樹林の林縁や林床に生えるキンポウゲ科の多年草です。早春に茎や葉を地上に出し,4〜5月に直径約4cmの白い花を1個つけます。花が一輪咲くので,「一輪草」という名がつきました。
 根茎が横にはい,ところどころから花茎を出して群生します。葉は3出複葉で,小葉は羽状に深く裂けています。花には花弁がなく,花弁のように見えるのはがく片で,ふつう5〜6枚ですが,写 真に見えるように7枚や8枚のものもあります。がく片は楕円形で白色,裏面 はやや紅色を帯びています。雄しべ,雌しべともに多数ですが,蜜はなく,花粉を食べる昆虫が訪れることになります。果 実は小さくて数が多く,細毛が生えています。初夏になり,雑木林の樹々がすっかり葉を展開する頃には,地上部は果 実を残して枯れてしまいます。光合成を行う期間は,わずか2か月ばかりで,カタクリと同様の生活様式です。
 イチリンソウの仲間には,ニリンソウ,アズマイチゲ,ハクサンイチゲ,シュウメイギク,園芸植物のアネモネなどがあります。

 
ハルジオン
 ハルジオンは,北米原産のキク科の多年草で,1920年頃に渡来しましたが,目に見えて殖えだしたのは戦後のことで,今では日本全国に広がってしまいました。同じく帰化植物であるヒメジョオンによく似ていますが,ハルジオンは4月上旬から咲き始め,5月のゴールデンウィークの頃が盛りとなります。(これに対して,ヒメジョオンは5月上旬に咲き始め,6月になって盛りとなり,発芽期のずれによって10月頃まで開花株が見られる)
 ハルジオンの特徴は,茎が中空であること(ヒメジョオンは中実),葉の基部が広くなり茎を抱くこと(ヒメジョオンは葉の基部は細まり,茎を抱くことはない),花序がはじめ茎ごと下向きにうなだれること(ヒメジョオンもつぼみが下向きに垂れるが,茎ごとではない)などです。
 ハルジオンの花をさらによく観察してみましょう。頭花は径2〜2.5cm,いちばん外側の総苞片は披針形で3列に並んでいます。舌状花は細く糸状で,150〜400個もあり,白色が多いですが,淡紅色のものもあります。舌状花にも冠毛があり,中心の筒状花は黄色です。
 和名は,春に咲く紫苑という意味で,漢字では「春紫苑」,牧野富太郎博士の命名です(ヒメジョオンは「姫女苑」)。

 
ホウチャクソウ
 丘陵,原野の林中に生えるユリ科の多年草です。茎は高さ30〜50cmで直立していて,上部で少し枝が分かれています。葉は卵状楕円形で,長さ5〜10cm,基部は円く,先は尖っています。
 5月頃,枝の端に長さ2.5〜3cmで白色に緑色を帯びた花が下垂します。花の形が,寺院の軒や,五重の塔の四方の軒下に吊るして飾りとする大形の風鈴のような宝鐸というものに似ているところから宝鐸草(ほうちゃくそう)という名がついたのです。
 下垂している花は,一見筒状に見えますが,6枚の花被片(かひへん)が平開しないで筒状に集まっているのです(単子葉植物であるユリ科の花では,がくと花弁の区別 がつかないので,合わせて花被といい,その1枚ずつを花被片という)。花が終わると径10mmくらいの球形の液果 ができ,黒く熟します。
 近縁種に,草高約20cmで,花被片が杯形に半開するチゴユリがあり,同じような環境のところに生えます。

 
クマガイソウ
 クマガイソウは,ラン科の多年草で,山林とくに竹林や杉林に群生します。4月になると,地中を横にはう根茎から,葉をたたみこんだ茎が竹の子のように並んで出てきます。茎の高さは20〜40cmで,扇型をした2枚の葉がほぼ対生状についています。葉は径10〜20cmで,放射状に多数の脈があります。4月下旬から5月に,茎の先端に1個の大きな花を横向きにつけます。花は左右相称で,ラン科特有の花の形をしていますが,唇弁が大きな袋状になり,袋の表面 に紅紫色の網状の脈があります。袋状の唇弁の上部に,内側に曲がる芯柱(ずいちゅう)という雄しべと雌しべが合体した器官があります。
 同じ仲間に,草高が20〜30cmで花の色が紅色のアツモリソウがあります。源平一の谷の戦に出陣した平敦盛が背負っていた母衣(ほろ)に見たてて,アツモリソウという名がつき,アツモリソウよりも大きく,地味な色をしているところから熊谷直実にちなんで,クマガイソウという名がつきました。クマガイソウもアツモリソウも最近は激減して,ことにアツモリソウは絶滅の危機にあります。

 
マムシグサ
 マムシグサは,サトイモ科の多年草で,薄暗い樹林の下に生えます。地下に径5cmほどの扁球形の地下茎があり,春にここから葉をまっすぐに伸ばします。葉鞘が茎のように直立し,紫褐色の斑が,マムシの肌を思わせるので,このような名がつきました。草高は30〜60cm,葉は2個,鳥足状の複葉で7〜15個の小葉をつけます。
 4月下旬から5月にかけて花茎を伸ばし,淡緑色または淡紫色で白い縦すじのある仏炎苞(ぶつえんほう)をもった花をつけます(仏炎苞とは,仏像が背負う火炎状の光背に似ているところからついた名です)。苞の下部は筒状に巻いて花序を包み,上部は葉状となって折れ曲がり,開口部を屋根のように上からおおっています。花序は単性で,雌雄の別 があります。果実は,液果で,穂軸面にトウモロコシの実のようにぎっしりとつき,晩秋に赤朱色に熟します。
 マムシグサは変異が多く,地方によっていろいろ変わったものがあり,分類の難しいグループです。このグループをテンナンショウ属といいます。天南星という中国名からとった名です。苞から長いひも状の付属物を出すウラシマソウ,花序の先が白く球状になるユキモチソウ,苞が武蔵の国でできる鐙(あぶみ)に似ているというムサシアブミ,花序の付属体が仏炎苞から上向きに伸びだす様子を飛んでいるツルに見たてて名づけられたミミガタテンナンショウなども,このグループの一員です。このグループは,一般 に強い毒性をもっていて,中国では薬用植物として使われてきました。



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