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第4回 6月〜7月中旬


ニワゼキショウ

コヒルガオ

ホタルブクロ


ドクダミ

ノハナショウブ

イワタバコ


 
ニワゼキショウ
 ニワゼキショウは、土手、道ばた、庭など日あたりのよい場所に群生するアヤメ科の多年草です。茎の高さが10〜20cmと低いので草苅りのよく行われるところに生えます。葉が石菖(セキショウ)の葉に似ていることと、庭に生えるので庭石菖という名前がつきました。昔から日本に生えていたものではなく、北米原産の帰化植物で、明治20年(1887年)頃渡来し、今では日本全国に野生化しています。
 花被は、内花被3、外花被3の6個で、花の色は淡紅紫色または白色で、紫のすじが入っています。果 実は径3mm程度の球形で紫褐色を帯びて光沢があり、中に細かい種子が多数入っています。
 ニワゼキショウ属は、アヤメ科のうちで最も大きな属で、約80種もあり、そのうち日本に帰化しているものは、ニワゼキショウのほかに、ニワゼキショウよりも大きい、茎の高さ30〜60cmにもなるオオニワゼキショウ、花の色がルリ色で、茎の高さが20〜50cmになるルリニワゼキショウがあります。いずれも花は集散花序につき、花序は葉状の苞に包まれています。花期には、苞から1つずつ花が出て、1日でしぼみますが、次々と花が出て咲きます。茎がおしつぶされたような平らな形をしているのも独特です。

 
コヒルガオ
 ヒルガオよりも、花も葉も小形なのでコヒルガオと言われます。ヒルガオよりも多く、日あたりのよい野原や道ばた、道路の植えこみなど身近かなところで見つけることができます。ヒルガオ科の多年草で、地中に白色の長い地下茎があります。花はロート状で、うすいピンク色、朝10時頃から開き、名前のとおり昼間も咲き、多くは、その日のうちにしぼみます。花柄の上部にちゞれた翼状部があることが特徴です。
 コヒルガオの花を正面からよく見ると、中心から放射状に5本の条があるのがわかります。これは、5枚の花弁が合着してできた合弁花であることを示しています。
 ヒルガオ科の植物は、5枚の花弁が完全に合着した合弁花で、葉は互生し、茎はつるになるものが多いのです。アサガオは言うまでもなくヒルガオ科です。サツマイモもヒルガオ科で、暖地ではアサガオに似た小さな花をつけることがあります。
 源氏物語に出てくる夕顔の花は、ウリ科のユウガオで、白い花ですが大きな果 実ができ、干瓢(かんぴょう)を作るので知られています。朝顔市などで、夕顔の名で売られているものは、ヒルガオ科のほうのヨルガオのことで、直径10〜15cmのアサガオ型の白い花が咲きます。

    昼顔やレールさびたる旧線路  寺田寅彦

 
ホタルブクロ
 ホタルブクロは、明るい林縁や崖地に多いキキョウ科の多年草で、6〜7月に大きな鐘状の花を下向きにつけます。花の色は、白色から濃紅紫色まで変化に富んでいます。ホタルブクロという名は、螢袋で、ホタルの出る頃に咲く袋状の花ということからついたという説や、捕まえたホタルを、この花に入れたという説があります。また、この花を上向きに軽く握り、もう一方の手で上からいきおいよくたたくと、パンと大きな音をたてて破れるので、トッカンバナとよぶ地方もあります。
 短い地下茎があり、ここから長い柄のある根生葉(こんせいよう)を出し、やがて高さ30〜80cmの茎を直立し、上部に枝を分けて花をつけます。花が大きく目立つので人気のある野草です。人の目につくということは、花粉を運んでくれる昆虫にとっても重要なことです。ホタルブクロから見れば、人間より昆虫のほうが大切で、人は、いたずらに花を摘んだり、根ごと堀りとったりする有害無益な存在でしかないのです。
 ホタルブクロを訪れる昆虫は、主にハナバチの類です。ハナバチは、つりがね状の花の中にもぐりこみ、花粉を身体につけて運んでくれます。ホタルブクロの花の大きさも、ハナバチのもぐりこみに適合した大きさなのです。

    かはるがはる蜂吐き出して釣鐘草  島村はじめ

 
ドクダミ
 ドクダミは、どこにでもある多年草です。林の縁や、人家のまわりなど、やや日蔭地を好み、白い地下茎を長くのばして群生します。地上茎は、高さ20〜50cm、ハート型の葉を互生します。梅雨の頃に花をつけますが、4枚の花弁のように見えるものは、花を包む総包片で、総包片が開くと、その中心から穂状の花序が立ち、ルーペで観察すると、3本の雄しべと、1本の雌しべだけの小さな花がたくさん集まっていることがわかります。花弁はありません。開花期には、この白い総包片が高山植物のゴゼンタチバナを見るような美しさがあります。
 茎や葉に特有なにおいがあります。実は、このにおいの成分にすぐれた抗菌力があって、昔から薬草として利用されてきました。子供の頃、できものができると、この葉をあぶって貼ると早く治った体験があります。
 ドクダミという名前も“毒矯(た)め”からきています。また十種類の効能があるというので十薬(じゅうやく)という名前があります。
 ドクダミは、湿地に生えるハンゲショウとともにドクダミ科に属します。

    十薬を抜きすてし香につきあたる  中村汀女

 
ノハナショウブ
 ノハナショウブは、日本では北海道から九州まで、山野の明るい草原や湿原に生えるアヤメ科の多年草です。葉は剣状で、中央の脈が太く目立ちます。6〜7月に茎の先に、径10cmほどの赤紫色の花をつけます。花は、いちばん外側に、萼に相当する大きな外花被片が3枚垂れ下がり、内側に花弁に相当する幅約1cm、長さ約4cmの内花被片が3枚直立しています。雌しべの先は3片に分かれています。分枝の裏側の先端に柱頭があります。
 雄しべも3本で、3片に分れている花柱の下側に沿ってついています。花は虫媒花で、1花の寿命は約3日です。
 ノハナショウブは、園芸植物のハナショウブの原種で、江戸時代にさかんに品種改良が行われました。ことに大名の間でハナシショウブを栽培することが流行したので、栽培技術や品種の改良も、主に武士によって行われ、江戸系、熊本系(肥後系)、伊勢系の三つの系統が生まれました。
 江戸系は天明年間(1781〜1789年)に、松平定寛と、その子松平左金吾によって多くの品種が作られました。茎や葉が丈夫で、花茎が高くなるのが江戸系の特徴です。
 熊本系(肥後系)は、江戸系のものが、藩主細川氏によって熊本に送られて改良され、鉢植えで鑑賞するように、丈が低く、花は大輪で花被片が大きく垂れ下がり、色彩 の豊かなものが作られました。
 伊勢系は、伊勢松坂の武士、吉井定五郎によって改良され、やや小形で葉が細く、外花被が大きく互いに深く重なり合うものが作られました。

 
イワタバコ
 イワタバコは、福島県以南から九州、台湾、中国大陸の南部にわたって分布するイワタバコ科の多年草です。日陰の岩壁などに着生し、大きな葉を垂れ下げる姿から、岩に生える煙草のようだ、ということで、イワタバコの名がついたのです。
 葉は膜質で光沢があり、葉脈のあるところがへこんで、しわのあるように見えます。葉は、はじめは柔らかいのですが、しだいに厚みを増して貯水のはたらきをもつようになり、雨の少ない時にも枯れることなく生活を続けます。冬は、葉が径2cmほどの丸い塊になって越冬します。6〜7月に葉のわきから花茎を出し、紅紫色の美しい花をつけます。花冠は合弁花で、先端が5つに分かれています。イワタバコ科の植物には美しい花のものが多く、セントポーリア、ストレプトカルプス、グロキシニアなど園芸植物があります。



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