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第5回 7月下旬〜9月

 今回は,7月後半〜9月一杯にかけての花のきれいな野草を選びました。


ウツボグサ

シシウド

カワラナデシコ

オミナエシ


ウマノスズクサ

センニンソウ

コマツナギ

オグルマ


 
ウツボグサ
 ウツボグサは,日当たりのよい山野の草地に生えるシソ科の多年草です。花穂の形が,矢を入れる靱(うつぼ)に似ているところからついた名です。茎は四角形で,高さ10〜30cm。葉は卵状長楕円形で,長さ5cm内外で対生します。
 夏に茎の先端に長さ3〜8cmの花穂をつけます。花は紫色の唇形花が密集して夏草の中で,ひときわ目だった美しさです。夏も深まると,花穂が枯れて黒っぽくなります。その様子から夏枯草(カコソウ)という別 名もあり,漢方では,この花穂を乾燥して利尿薬として用います。
 花の美しさと,薬草としての効能からよく知られた野草で,俳句にも詠まれています。

    (もや)こめて遠森かくす靱草   富安風生
    靱草ここより渓へ道わかつ   品川玄子

 
シシウド
 シシウドは,山地の斜面 や,林縁に生えるセリ科の大形の多年草です。茎は太く直立し,高さは1〜2mになり上部で枝を分かちます。
 葉は,2〜3回三出羽状複葉で,葉柄の基部が袋状のさやとなって茎を抱いています。8〜11月に枝の先端に大きな花序を傘形に広げ,花火が開いたように小さな白い花をたくさんつけます。このような花のつき方を散形花序といい,セリ科の特徴となっています。果 実は楕円形で偏平,両側に翼があります。
 日本の特産種で,本州から九州に広く分布しています。和名のシシウドは,ウドに似てきわめて粗大なので,イノシシが食べるのに適したウドと見たててつけられたのでしょう。ただし,ウドはセリ科ではなくウコギ科です。
 セリ科には,セリをはじめ,ミツバ,ニンジン,ボウフウ,パセリ,セロリなど食用になるものが多いのですが,猛毒で有名なドクゼリは,セリ科の多年草です。

 
カワラナデシコ
 各地の山野に生えるナデシコ科の多年草です。茎は叢生して直立し,高さ30〜80cm,緑色で隆起した節があり,葉は茎の節から出て対生します。葉は線形あるいは披針形で,長さ3〜9cm,基部は節を抱きます。
 夏から秋にかけて,枝の先に淡紅色の美しい花をつけます。萼(がく)は円筒形で,長さ3〜4cm,基部に小さな苞(つと)があります。花弁は5個で,縁が深く糸状に裂けて,とても優美に見えます。
 カワラナデシコという名は,河原などに生えるからついた名ですが,ナデシコ(撫子)とも呼ばれます。その可憐な美しさは,秋の七草の一つにあげられ,古くから多くの人に愛されてきました。万葉集にはナデシコを詠んだ歌が二十六首もあり,「野辺見れば撫子の花咲きにけり わが待つ秋は近づくらしも」などとうたわれています。
 ナデシコの仲間には美しいものが多く,カーネーション,セキチクなどがあります。

 
オミナエシ
 オミナエシは,日当たりのよい草原に生える多年草で,オミナエシ科の代表格です。
 茎は高さ60〜100cm。葉は対生で羽状に深く裂けます。8〜10月に茎の先に黄色の小さな花をたくさん集散花序につけます。一つ一つの花は合弁花で,花冠は5裂します。
 オミナエシという名は,花が黄色い粟(あわ)飯のようなことから女飯(おんなめし)が転じてつけられたものです。オミナエシに対して花の色が白いオトコエシは,女飯に対して米飯をたとえた男飯が語源と考えられています。オミナエシの花の姿を美しい女性にたとえて,漢字で女郎花と書きます。秋の七草の一つにも数えられ,万葉集にも多く詠まれています。
 また,この花の由来について次のような伝説があります。
 「昔,平城天皇の御時,小野頼風という人が男山に住んでいたが,京の女と契り,その後女を棄てて独り故郷の近江の国へ帰った。女は契りを信じ,恋しい人のいる近江の八幡に尋ね行き,頼風のことを問うと,ある人が答えて,『頼風にはこのほどめとった女房があるようだが,そこへ行きたもうのか』といった。女はこのことを聞いてうらめしく思い,着ていた山吹がさねの衣を投げすてて川に身を投じて死んだ。この山吹の衣がその後朽ちて,そこから一本の草花が生えた。これが女郎花である。」
というものです。謡曲「女郎花」もこの物語を脚色したものです。このようにオミナエシは,日本の文学と結び付いてよく知られ,生け花や盆花にも用いられていますが,独特の悪臭があります。漢方では,オミナエシの根を乾燥したものを「敗醤(はいしょう)根」といって,排膿性利尿薬として用います。
 オミナエシ科の植物には,オトコエシ,ツルカノコソウ,ノジシャ,キンレイカなどがあります。

 
ウマノスズクサ
 ウマノスズクサは,原野,林縁,山間の茶畑などに生えるつる性の多年草で,ウマノスズクサ科の代表です。茎は緑色で,最初は直立しますが,上部は蔓(つる)となって他物にからみながらのぼります。葉は卵状長楕円形で基部は心形,基部の両端が耳状に広がります。
 花は緑紫色で葉腋に1個つき,長さ3〜4cmで花弁を欠き,萼(がく)片がラッパ状に合着して筒状に湾曲し,基部が球形に膨らんでいます。この長い筒状の花は,花粉を媒介する昆虫が内部に侵入したとき,簡単に外に出られないで,内部で動きまわることによってうまく受粉できるようになっているのです。
 果実は熟すと基部から6裂し,同じように6裂した果柄の糸で垂れ下がり,その形が馬の首に下げる鈴に似ているところから,ウマノスズクサという名がついたのです。
 ジャコウアゲハの食草で,植えておくとジャコウアゲハが飛来して産卵します。

 
センニンソウ
 センニンソウは,日当たりのよい土手や林縁などに生えるキンポウゲ科のつる性の半低木です。
 茎は長くのびて分枝し,5小葉からなる羽状複葉を対生します。小葉は柄が長くのびてまき髭(ひげ)状に他物に巻きつき上へのぼります。花は,8〜9月頃,枝の先端や葉腋から三出集散状の花序につき,白色で上を向いて全開します。花弁がなく,萼(がく)片が4枚で花弁状になります。雄しべは多数,雌しべも多数で子房は細長く,花柱に細毛があり,花後花柱が3cmほどに伸びて,銀白色の長毛が羽毛状に密生し,種子の散布器官となります。センニンソウ(仙人草)という名も,この毛を仙人の髭に見たてたのでしょう。
 センニンソウの仲間には,ボタンズル,ハンショウズル,カザグルマ,園芸植物のテッセン,クレマチスなどがあります。この仲間は,いずれも有毒ですが,一方,薬用植物としても利用されています。

 
コマツナギ
 コマツナギは,野原や土手,海岸の草地などに普通 のマメ科の草本状の低木です。茎が丈夫で馬をつぐほど,という意味で,「駒つなぎ」という名がつきました。
 茎は高さ60〜90cm,多数の枝を分かちます。葉は互生して,短い葉柄をもつ奇数羽状複葉で,小葉は7〜11枚です。7〜9月に,長さ4mmほどの淡紅色の小さな花を密につけます。豆果 は細くまっすぐな円筒形で,長さ2.5〜3cm,一つのさやの中に3〜8個の種子が入っています。
 コマツナギの花は,虫がとまると,その重みで翼弁と竜骨弁が下がって,隠れていた雌しべと雄しべが飛び出し,虫の体に押しつけて送受粉を行います。下がった花弁は元に戻らないで,もう花には蜜がないということを虫に示す信号となっています。ところが,コマツナギの花にはもともと蜜がないので,この信号は,まやかしということになります。

 
オグルマ
 オグルマは,田の畦(あぜ),川岸など湿った場所に生えるキク科の多年草です。北海道から本州,四国,九州,朝鮮から中国まで分布しています。
 葉は無柄で互生し,広被針形から長楕円形で鋭頭。夏から秋にかけて茎の上部で分枝し,先端に1個ずつ,径3〜4cmの黄色の花をつけます。中心の筒状花も,まわりの舌状花も黄色で,美しい野草です。
 和名のオグルマは「小車」で,花の形を車に見たててつけられた名です。



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