―学校ライブを始めたきっかけを教えてください。 2003年に千葉県のホールで,相田一人さん(詩人相田みつをさんのご子息)の講演会の前座でライブをさせていただいた際,観覧に来ていたある中学校の先生が声をかけてくださったのです。 乳がんで亡くなった母をテーマにした歌「天使の舞い降りた朝」に感動された先生は,自分の生徒にこの歌を聴かせたいので,学校に歌いに来てほしいとおっしゃいました。その後すぐ,道徳の授業の一環として学校を訪れ,ライブをさせていただきました。これが学校ライブ,そして「歌う道徳講師」の活動の始まりです。―印象深かったエピソードを教えてください。 活動を開始して10年を超えた頃から,学校ライブを見た当時の小中学生が大人になって,僕のSNSなどに声を届けてくれるようになりました。 ある日僕のホームページに1本のメールがあって。その子は社会人1年目で,なかなか会社に馴染めず,仕事に行くのが辛い日々を送っていたそうです。そんな時,夢の中でどこかで聴いたことがある歌が流れてきた。朝目覚めてすぐにその歌詞をネットで調べたら,小学生の時に学校ライブで聴いた,大野靖之の歌だと思い出したそうです。涙が止まらなくなり,そして「もう少しがんばってみよう。その朝は笑顔で仕事に行けた。」と,メールをくれました。僕も感動して泣きました。 学校ライブでは,生徒たちはたくさん笑い,たくさんの感動の涙を見せてくれます。また形には見えないけれど,こういう子たちもたくさんいるのかもしれない。そう思えて自分も勇気が出ました。インタビュー―学校ライブを続けている,原動力はなんですか。 大好きな歌をみんなに聴いてもらえるということ。ライブをとおして,子どもたちにはなにか一つでも人生のヒントにしてもらえたり,悩んでいる心を少しでも軽くしてあげられたらと思いますが,なによりたくさんの“お客様”に大好きな歌を聴いてもらえるということは,ミュージシャンとしてこのうえない喜びであると,幸せをかみしめて活動してきました。 SNSが中心となってきている近年の音楽シーンの中で,直接音楽が届けられる学校ライブは,なんてすばらしいんだろうと思います。コロナの影響でライブ自体が難しい状況ですが,事態が収束し,学校ライブがたくさんできることを願っています。 今は,子どもたちには命あること,健康でいることをどうか大切にしてほしい。生きてさえいれば,また夢を追い続けることができます。そして,「この状況だから」とすべてをあきらめるのではなく,その中でできる最善の方法を見つけて,歩んでいきましょう。僕もできることは多くはないですが,模索しながら精一杯活動していきたいと思います。 大野靖之さんは,命,夢,家族といったテーマを歌う作風から “歌う道徳講師”と呼ばれ,全国の小・中・高校での学校ライブを17年間にわたって続けています。教育出版『中学道徳3 とびだそう未来へ』では,大野さんの学校ライブをモチーフにした教材を掲載しています。大野さんにお話をうかがいます。歌う道徳講師 大野 靖之さん ~学校ライブにかける思い~大野靖之(おおのやすゆき)1982年生まれ,千葉県出身のシンガーソングライター。2005年にメジャーデビュー。これまでに行った学校ライブは1000回を超える。教科書作成の現場から道徳 19教科書作成の現場から 道徳
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