交響曲を鑑賞教材に 2020年はベートーヴェン生誕250年のアニバーサリー・イヤーです。彼の作品は,かつて鑑賞共通教材であった「交響曲第5番」をはじめ,さまざまな楽曲が教科書の教材として取り上げられてきました。今回は古典派の交響曲にスポットを当て,ソナタ形式のよさやおもしろさなどを取り扱う鑑賞指導を考えてみたいと思います。 鑑賞教材の定番となっている「交響曲第5番(通称「運命」)」第1楽章は,コーダ(終結部)をもつソナタ形式となっています。一般的な鑑賞の学習では,リズムの動機やソナタ形式を聴取したり,音楽の構造を捉えながら曲想の変化を感じ取ったりして,自分なりの音楽や演奏に対する価値意識を考えるものです。リズムの動機が楽曲全体で反復されることは聴き取りやすいのですが,ソナタ形式による楽曲全体の構成を聴き取るとなると少々難易度が上がるのではないでしょうか。そのため,第一主題の印象的なモチーフを手がかりに「提示部+展開部+再現部+コーダ」の各部分を捉え,曲想の変化を感じ取りながら学習を進めることになります。 【図1】を参照いただきたいのですが,実はこれは「交響曲第5番」ではなく,モーツァルト作曲「交響曲第40番」第1楽章の構成です。こうしてみると,提示部のリピートやコーダの存在なども含め,楽曲全体の構成に強い共通性があります。そこで「交響曲第5番」第1楽章で学んだことを生かし,『ソナタ形式の別な交響曲を聴いてみよう』として鑑賞することが考えられます。生徒の実態に応じて『提示部』一回めの終わりで再生をポーズにし,これをもう一度くり返すことを説明してから『提示部』のリピートを聴取させ,同様に展開部・再現部・コーダに入る直前で構成を確認しながら聴取します。その後,改めてそれぞれの第1楽章を比較鑑賞することで,共通性や固有性,よさやおもしろさなどを考える学習を計画することが考えられます。 ベートーヴェンとモーツァルトの作品を比較するという,これまでになかった鑑賞の学習を提案しましたが,ベートーヴェン・イヤーにちなんで他のソナタ形式による彼の作品と比較鑑賞することも可能でしょう。また,指導なさる先生のお気に入りのソナタ形式の作品を教材に用いるのも楽しい授業になるでしょう。美しいデザインに隠された黄金比音楽数学( )は小節数【図1】提示部展開部再現部コーダ(1)~(100)(101)~(163)(164)~(244)(245)~(299)1.61811.6181.61811季節教科〜芸術の秋〜Autumn Column北海道教育大学准教授 谷地元 直樹やちもとなおき 数学は美術と関係がないと思われがちですが,美しいデザインには数学が潜んでいることに気付いていますか。その有名な例として「黄金比」があります。 黄金比とは,線分を a , b の長さで 2 つに分割するときに,a:b = b:( a + b ) が成り立つように分割したときの比 a:b のことです。正確な黄金比は円周率と同じように小数点以下が限りなく続き,1:1.618…となります。ここで理解しておきたいのは,人間が最も美しいと感じる比率がおよそ5:8ということです。 黄金比を用いた代表的な歴史的建造物として,古代ギリシャのパルテノン神殿がよく知られています。ピラミッドやパリの凱旋門,美術品では,ミロのヴィーナスやモナリザなどもあります。 そのほか,私たちの身のまわりにも黄金比が用いられています。例えば,名刺やクレジットカードの縦横のサイズ,グラフィック・デザインなどにも活用され,私たちがよく知るApple社やGoogle社のロゴ・デザインにも黄金比を見いだすことができます。 黄金比は,美しい調和を生み出す重要な要素として世界的に知られていますが,日本では「白銀比(大和比)」という法隆寺の金堂や五重塔などの木造建築に古くから使われている美しい比率があることも紹介しておきます。これを機に,身近にある美しい比率たちを探してみてはいかがでしょう。パルテノン神殿ミロのヴィーナス20 季節×教科 数学・音楽
元のページ ../index.html#20