飲食店の営業は感染拡大時にまず「禁止」となり,のちに「テイクアウトとデリバリーのみ可」となり,その後ようやく「店内での飲食も可」となった国が多かったようです。そんな中,珍しいデリバリー方法でお客さんを楽しませたのが,ウィーンの超高級ホテル。なんと「馬車でデリバリー」をしたのです! この馬車,主に外国からの観光客に「オーストリア帝国時代の華やかな雰囲気を味わえる」と親しまれていたのですが,国境封鎖の影響で「商売あがったり」となりました。とはいえお客さんがいなくても,馬たちは運動させなければいけません。そこで「馬車でデリバリー」の話が馬車組合のほうから持ち込まれたそうです。 どの家に馬車でデリバリーするかは,事前に伝えなかったとのこと。お客さんの反応は最初「えっ!」とビックリして,そのあと破顔一笑。高級料理をデリバリーしてもらって優雅に楽しもうとしていたところに,まるでマリア・テレジアや皇妃エリーザベトの時代のような馬車で運ばれてきたのだから当然でしょう。「食」は「カラダの健康」に大切なもの。でも「ココロの健康」にも欠かせないものだということを,このコロナ禍が教えてくれた気がします。 人命はもとより,このコロナ禍で私たちは本当に多くのものを失いました。いや,私が住むオーストラリアやニュージーランドなどのように「ほぼ終息した」と思われ,日常生活を取り戻していた国々でも再度感染拡大があるようなことから考えると,今後も多くのものを失いかねません。コロナとの闘いはいつ終わるのか,まだ誰にもわかりません。まさに未曽有の危機にぼうぜんとなり,途方に暮れるのがあたりまえなのかもしれません。 ただ,私は知っています。私たち人間には知恵があることを。その知恵で,人類は幾多の危機を乗り越えてきたことを。私は信じています。私たち現代に生きる人間は,過去の危機を乗り越えてきた先人たちに負けない知恵と勇気をもっていることを。 コロナ禍を機に,働き方や医療制度などさまざまな問題が浮き彫りになっています。教育界においては,効果的なリモート学習にすぐに移行できなかったことも,今後,また別の疫病の流行があるかもしれないということを考えれば,課題の一つといえるでしょう。 見つかった課題の多くは,今まで隠れていたものが顕在化したものだともいえます。「これを機に」と考えるか,また蓋をしてしまうか,選ぶのは私たちです。「転んでもただでは起きない」ならぬ「コロナでもただでは起きない」。私自身はそんな合言葉を胸に,未来に向かって歩んでいきたいと思っています。観光馬車でデリバリーオーストリア5巻頭エッセイ特集 コロナ禍を生きる
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