教科書作成の現場から 手のひらに収まるくらいの小さな世界を,すべて手作りで制作している先生の意外なお言葉から,インタビューは始まりました。「まずは,表現したいストーリーがあって,素材と物語とを結び付けていきます。そのためには,この素材とか方法は使えるかなと。」なるほど。表紙から飛び出し,今にも動き出しそうなキャラクターたちの秘密はそこにあるのでは?制作秘話を編集部が伺いました。―表紙では教科書本文に登場するひな子ちゃんと太一くん,コアラのこうくんが,書写にまつわる活動を楽しんでいます。この子たちをとおして,どんな世界観を描こうと構想されましたか。 編集部から書写学習のお話を伺い,各学年でのカリキュラムに関連した内容を考えました。毛筆が始まるのは3年生,筆記用具の選択は5年生など。それをベースに,「こうくんはこんなことをしそう」などと,構想をふくらませていきました。 今,小学校でも,海外につながる子が多いとききますが,こうくんはオーストラリアから転校してきて,1年生ではみんなに自己紹介,2年生ではエアメールを書いて……など。教科書ではお行儀よく学習をナビゲートしていますが,表紙ではちょっとやんちゃに楽しんでほしいと。―硯のサイズや洋服のコーディネートなど,小さな世界に夢中で見入ってしまいます。制作の際にご苦労されたことをおきかせください。 「苦労=楽しみ」だと思っています。制作過程の苦労はありますが,完成したときの達成感は大きいです。撮影現場に人形などをセットすると,舞台ができあがっていくような臨場感があります。セットしてみるとしっくりこなかったり,カメラアングルやレンズの選び方も大きく影響したり。カメラを通すと肉眼で見たときと違うこともあります。「手芸は得意ではないんですよ。」書写人形作家 わたなべ ちよみ 先生「書く」にまつわるストーリーから始まるものづくり ―「小学 書写」表紙,作成秘話――編集部が作成に苦労したミニチュアの書き初めにもご注目ください。原寸大で書いたものを縮小しています。先生は,手で作ることと,デジタルとの関係について,どうお考えですか。 アナログは,「情報量が密」なんです。人形の洋服ひとつとっても,1枚の布に歴史やストーリーがあります。例えば,4年生の表紙のケーキのクリームは,「コチニール」という食用の色素を使っているので,食べられそうなクリーム感が出ているでしょう。アナログだと素材から「感じる」部分は大きいと思います。作り手の情熱を感じるところも大きいです。今後,デジタルとアナログが融合した表現は興味深いですね。―アナログの情報量や素材感は,書写学習にも通じるところがあります。 たしかに。書写では,まずは整った字形を学習するようですが,その先は書につながり,書き手の人となりの情報が伝わってきますね。―最後に,小学校の先生にひとことお願いします。 ギャラリーでは,人形制作などのワークショップを開催していますが,子どもたちは自分が作りたいものを見つけると,夢中で制作に没頭します。子どもの「○○したい!」意欲を大切に伸ばしてあげてください。―先生のギャラリーで作品を拝見していますと,「○○したい!」気持ちがぐんぐん高まりそうです。本日は貴重なお話をありがとうございました。わたなべ先生のウェブサイトhttp://www.chipsdoll.com/ 17教科書作成の現場から 書写
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