まつざわりょう新宿区立牛込第二中学校校長 松澤 亮道徳「県内在住者です」ステッカーから現代のいじめを考えるの視点教科 このようなステッカーがある。大手通販サイトで販売しているのも見たことがあるし,似たようなものを自治体で交付しているというニュースもあった。 コロナ禍において,感染拡大に地域差が生じ,県をまたいだ移動の自粛を求められたことが発端だった。感染が拡大している地域から人が来ることに不安や恐怖を感じ,県外ナンバーをつけている車を攻撃する,「県外ナンバー狩り」と呼ばれる行為が多発し,社会問題となったのである。県外ナンバーをつけているというだけで,暴言・あおり運転・投石などの,嫌がらせという枠には収まらないほどの被害を受けることもあったそうだ。仕事の都合や,転居したばかりでナンバーの変更がまにあわないなど,事情のあるかたがたが,県外ナンバー狩りにあうのを防ぐためにこのステッカーを車に貼るのだそうである。 人の移動によって感染が拡大するのを恐れる気持ちはよく理解できるとして,このステッカーの存在意義には議論の余地があるのではないか。我々教員は,どんな言い分があったとしても,いじめはしてはいけないと教えてきた。確かに,「県内在住者です」と示すことによって周囲に安心感をもたらすという効果は考えられる。しかし,そもそもの問題である「県外ナンバー狩り」から身を守るためのステッカーをつくるという方向性に,なんだかぶつけようのない思いをもつのは私だけだろうか。 もしコロナ禍がなかったら―。当然県外ナンバー狩りなんてものは存在しなかった。ひょっとしたら,コロナ禍が,自分を守るために他を攻撃するといった人間の本性を炙り出したのかもしれない。 そこまで考えて,この問題を中学生ならどのように考えるか,ということに強い興味をもち,道徳の内容項目:B-9 相互理解,寛容ねらい:コロナ禍が生み出した社会問題を通して,いじめについて深く考え,いじめに立ち向かおうとする態度を育てる。 前提として,「いじり?いじめ?」(教育出版『中学道徳1とびだそう未来へ』)を授業で扱っておく。この教材は,日常のさまざまな行為について,いじりなのかいじめなのかを考え,それらには本来境目がなく,誰でもいじっているつもりでいじめてしまう可能性があることを考えさせるものである。この教材を通して生徒たちは,「いじり」というその場の楽しげな雰囲気のなかで,意識していなくても加害者になってしまう危うさを実感することができる。 本時での問いは次の3つ。 ◎の中心発問では,「あるほうがよい」「ないほうがよい」の両方の視点から,そう考える理由や,ではどうしたらよいか,ということを考えるように補足する。 ステッカーについて多角的に考えたうえで,最大の問題である「県外ナンバー狩り」=いじめにどう立ち向かうかを考えさせることとする。授業を計画した。県外ナンバー狩りをいじめと定義し,そのうえで,このステッカーについてどう考えるかという授業を展開しようと思ったのである。道徳授業「現代のいじめを考える」授業をやってみて…◯ このステッカーはなんのために使うと思いますか。◯ どうして県外ナンバーは嫌がられるのでしょうか。◎ このステッカーについてどう思いますか。県内在住者です県内在住者です県内在住者です県内在住者です8教科の視点 道徳特集 コロナ禍を生きる
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