生徒たちは,校長が授業をするというので緊張して待ち構えていた。7月末の授業だったが,「夏だけに緊張の夏ですね。」などという軽口もたたけないほど,私も緊張していた。4人班や3人班で話し合うルールを確認しつつ,ステッカーを提示する。裏がマグネットになっていて金属に貼れる,というヒントだけを与えて,「〇このステッカーはなんのために使うと思うか」を話し合わせた。 生徒たちは,活発に考えを述べていった。 「冷蔵庫に貼ってもしかたないだろ。きっと車だよ。」 「自粛期間に遠くへ行かないためじゃない?」 「県をまたいだ移動をする時に嫌がらせをされないため。」という意見が出たので,嫌がらせには暴言・あおり運転・投石などがあったようだと補足した。 「〇どうして県外ナンバーは嫌がられると思うか」については,上記の流れから「県外から人がたくさん来ると感染が拡大するかもしれないから。」という意見が出た。これで,議論する下地が整った。 中心発問「◎このステッカーについてどう思うか」については,まず自分の考えをワークシートに記入してから話し合いをする。ワークシートには中心発問と,振り返り,感想の欄だけあればよい。 しかし校長として初めての授業が楽しく,またいいところを見せようと張り切ったため,この段階で残り25分であった。校長,がんばりすぎだ。 前提がしっかりと押さえられていたため,生徒たちはスイスイと書いた。「あるほうがよい」「ないほうがよい」,それぞれの視点で意見を書けるように記入欄を分けておき,時間があったらもう一方の視点で考えるように促した。 話し合いは大変活発であった。生徒たちは多角的に考えた結果,あるほうがよいともないほうがよいとも,決着がつかなかったようである。例えば「県外ナンバーが嫌がられるのはしかたないこと。でも嫌がらせは辛いのでステッカーはあったほうがいい。」「ないほうがいい。どこに住んでいるかで差別されるのはおかしい。一人一人の考えを変える必要がある。」など,授業中にうなってしまうほど深い。 ただ,どうしても被害を受ける側の立場で考えることが多く,意図せず加害者になってしまうという視点が少なかったことが課題である。 最後に,振り返りとして「現代のいじめに対してどんなふうに立ち向かおうと考えるか」と問いかけ,自分の考えを書かせた。代表的なものを示す。 一つのステッカーから,これだけ話し合うことができるというのは,大きな発見だった。学活などで扱ってもいいし,今回のように既存の教科書教材を下地にして授業をしてみてもよい。 コロナ禍は我々に深刻なダメージを残した。しかしその中でも学ぶことはできる。子どもたちに明るい未来を感じた。 生徒の感想道徳授業「現代のいじめを考える」授業をやってみて…●やる側にならないようにするには,いつも冷静な気持ちを保ち,我々はたとえ違う県でも同じ日本に住んでいるということを忘れないようにする。●県外県内関係なく一つの国として心を一つにすることが大切だと思います。ですが,岩手などからしたら,東京の車が来たら怖いと思います。だから相手の立場になって話したり行動したりする必要があると思います。9教科の視点 道徳特集 コロナ禍を生きる
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