「中学教科通信」2021年5月号
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 GIGAスクール構想によるICT環境整備は,コロナ禍のために3年の計画が1年に短縮されました。リモート授業やPCの持ち帰りが繰り返し話題になったこともあり,「コロナ禍に対応するためにGIGAスクール構想が行われている」と感じる先生がたもいらっしゃるかもしれません。しかし,これはコロナ禍以前からの計画です。ここで,改めて背景を振り返ることを通して,実践への見通しをもちたいと思います。 GIGAスクール構想の背景としては,・新学習指導要領への対応・ICT環境整備の自治体間での格差の解消が,主にあげられると思います。 新学習指導要領の総則において,情報活用能力が言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられたり,各教科の目標・内容等でも,さまざまな箇所にICT活用が前提となる記述が見られたりしています。これらは,世の中が,素手のみで仕事をするのではなく,ICTも上手に活用して仕事をするようになったことと対応しています。  それ以外に,なぜこうした記述が新学習指導要領で必要になるかといえば,わが国は,さまざまな国際調査において,ICT活用が含まれると低位になることがあげられるでしょう。例えば,OECDの国際成人力調査という成人を対象とする学力調査(2011〜2012年実施)によれば,日本は「読解力」や「数的思考力」は1位ですが,「ITを活用した問題解決能力」となると10位です。また,同じくOECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)の2018年調査では,「読解力」の得点・順位が有意に低下しましたが,この理由の一つに,コンピュータを利用したテストであったことがあげられています。1.なぜ「GIGAスクール構想」なのかはじめてのGIGAスクール実践東京学芸大学 高たか橋はし 純じゅん 東京学芸大学教育学部・准教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー(2020年〜)。教育工学,教育方法学,教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年〜2021年),文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員(2019年),文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年),文部科学省「学校業務改善アドバイザー」(2017〜2019年)等を歴任。つまりわが国は,大人も子どもも,鉛筆と紙を使うのであれば負けないけれども,ICTを使うと負けてしまう,ICTという道具を上手に使えていない,という状態になっているのです。ICTが上手に使えないというのは,そもそも環境整備が充分ではなく,自治体間で格差があるという問題にも起因します。学校のICT環境整備は,地方自治体の責任において整備が行われることとなっています。しかし整備状況には都道府県によって差があり,教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は,1.8人から6.6人までと開きがあります(2020年3月文部科学省調査)。これは小・中学校も含めた数値ですが,義務教育としては心配になるほどの地域間格差があり,新学習指導要領の総則においても「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え」と記述されるに至っています。教育目標などを記述する学習指導要領にあって,ICT環境整備に言及されるというのは異例ともいえ,強い危機感の表れであったと思います。 それらに対応し,平成30(2018)年6月「第3期教育振興基本計画」において,「学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度整備」といった目標が示されました。続いて,令和元提言2デジタル時代の学びのカタチー提言特集

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