「小学教科通信」2021年5月号
17/20

 3年生の教科書p.32に,バイオリニスト諏訪内晶子さんの写真を掲載しています。撮影は音楽写真家,木之下晃先生によるものです。木之下先生は,国内外の音楽家やホールの撮影で知られ,写真へのこだわりの強かった指揮者カラヤンから専属カメラマンの打診を受けたこともあるそうです。 先生ご自身から伺って印象的なのは,デジタルカメラが一般化した平成の時代にもフィルムでの表現にこだわったこと,そしてゲネプロ(演奏会場で本番前に行うリハーサル)ではなく,演奏会本番での撮影にこだわったことでした。撮影時のシャッター音を避けるため,多くの演奏会ではゲネプロ時に撮影を行いますが,「ゲネプロと本番では,不思議なほど撮れる写真が違う」と,できる限り本番での撮影にこだわった木之下先生。Bunkamuraオーチャードホールやサントリーホールなどに撮影用の窓が設けられたのも,先生とホール側との関わりの中で生まれたことだそうです。「心おきなく本番中にシャッターがきれるようになった」と笑っていらっしゃいました。「撮影した写真から音楽が聴こえる」と,国内外で高く評価された先生ですが,数年前に急逝され,現在はご家族が貴重なフィルムの管理やデータ化に取り組まれています。生前に「現像などフィルムでの表現工程にこだわってきたけれど,フィルムは劣化する。良い形をできるだけ留めるために,一つ一つ丁寧にスキャンしてもらっている」とおっしゃっていました。 教科書にはバイオリニスト庄司紗矢香さん(6年生p.29)など,他にも先生の撮影された写真を掲載しています。写真から,演奏会の豊かな空気が子どもたちへ届くことを願っています。 編集部では,研究のために教科書の教材となる生きものを育てています。令和2年4月から使用されている教科書作成にあたって,とんぼのやごを2匹飼育しました。 毎日お世話をしていると,最初は気持ち悪いと思っていた餌のアカムシにも愛着を感じるから不思議なものです。対象を自分との関わりで捉えることを大切にする生活科を体感する日々でした。自分たちで育てたやごを撮影しようと計画していたところ,事件が起きました。ある朝出社すると,やごが1匹いなくなっていたのです!私たちが来る前に飛び立っていました。巣立ちがうれしい反面,残った一匹の羽化を撮影したいと欲を出してしまい,ペットボトルで作った住処を日当たりのよい場所に出しました。しかし,日中の暑さに耐えきれなかったのでしょうか,羽化することなく,やごは死んでしまいました。飼育は悲しいことに遭遇することもありますが,子どもたちが生きものと真剣に関わる体験にチャレンジしてほしいと願い,教材づくりをしています。教科書作成の現場から写真から音楽が聴こえる木之下晃アーカイヴス木之下晃 先生撮影:齋藤亮一音楽写真家 木之下晃先生の思い出子どもたちと同じ目線での教科書作り17教科書作成の現場から 音楽・生活連載

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る