2020年は,新型コロナウイルス感染症対策として,大学の授業のほとんどがオンラインで実施されました。手探りで授業を行う日々が続きましたが,オンライン授業の良さや,今後に活用できそうなデジタルツールを見いだすことができました。本稿では,教育学部における実践の一部をご紹介します。デジタルツールを用いた音楽学習の取り組み信州大学教育学部准教授 桐きり原はら 礼あや はじめに Zoomでの授業は,試行錯誤の日々でした。歌声やピアノの音が雑音と認識されてしまい,うまく演奏している音が拾われなかったり,タイムラグがあるためアンサンブルができなかったりと,実技演習には困難が多いことが判明しました。その中で,リコーダー演習はうまく進んだ点がありました。大教室の講義では,教員のお手本の運指が見えにくかったり,大人数のリコーダーの音が鳴り響く中で練習しなければならなかったりしていましたが,オンラインでは,教員と受講生が一対一のような形で進むため,「家庭教師の先生に習っているみたいでわかりやすい」という肯定的な意見がありました。さらに,個人練習の時間に,「静かな部屋の中で,一人で集中して練習することができた」という声もありました。実技発表会は,初の「動画提出」で行いました。あらかじめスマートフォンなどで各自のリコーダー演奏を録画し,授業時にZoomのブレイクアウトルーム(グループ・セッション機能)を活用して,個々の動画発表と感想を述べ合う場を設けました。「何度も録画し直して納得いくものを提出することができた」「いろいろな人の演奏を聴いて,個々の音色やリズムの取り方がこれほど違うものかと驚いた」など,演奏を録画しながら自身の表現を高めたり,動画の鑑賞を通して個々のよさや表現の違いを読み取ったりしている姿が見られました。オンライン授業では,他者と音を合わせることは困難ですが,個々の技能の向上や鑑賞活動には有効であると感じました。「Zoom」によるオンライン授業画面越しにリコーダーの運指を解説 体のいろいろなところを打って音を出すアンサンブルについて,今年度は,遠隔アンサンブルによる動画作品を作成することにしました。動画編集ソフトは,Wondershare Filmora(フィモーラ)が主に使用されました。このソフトでは,複数の動画を組み合わせて,一つの画面上で再生することができます。 受講生は,コロナ禍にて音楽の新たな表現方法を学ぶ機会になる,と張り切って作品づくりに挑んでいました。音源を聴きながら個々で撮影し,それを動画編集ソフトで組み合わせていきました。授業欠席者が無料電話アプリで授業時の話し合いに参加したり,授業外でも自分たちで無料テレビ会議アプリを開いてアイディアをまとめたりするなど,遠隔での協力体制を取りながら課題を進めていました。ぴったりとタイミングを合わせることが難しく,編集する上で多少のズレが生じてしまうという困難な面もありましたが,「皆で話し合いながら作り上げるのが楽しかった」「予想以上の作品に仕上がり,大きな達成感を感じた」などの肯定的な感想が多く見られました。今後も,遠隔アンサンブルの可能性を探っていきたいと感じています。動画ソフトを用いた作品づくりFilmoraを使用した遠隔アンサンブル作品10デジタル時代の学びのカタチー教科の視点 音楽特集
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