ICT機器が効果を発揮するには,子どもが端末の操作に習熟していることが重要になります。OSやアプリの操作方法が分からず,データの扱い方も知らない状況では,本来の観察に集中できず,端末の操作に掛かり切りになってしまいます。限られた時間の中で端末を効果的に用いるためには,必要最低限の操作を習得していることが前提となります。 また,機器自体の不具合も発生します。動画撮影等では保存中にフリーズしてしまうことや,バッテリーが切れてしまうこともあります。端末によってはネットワーク上でのデータ管理となり,通信環境が不安定になることもあります。繰り返しできない実験においては,複数の班でデータを共有するなど,対策が必要です。こういった問題は,導入される端末の入れ替え等により改善されていくものと思われますが,現状では注意が必要です。 さらに,ICT機器とノート記述の併用方法が課題であると考えられます。2015年のOECDの報告では,コンピューターの導入と科学の理解度の向上は結び付いていないと示されており,むしろ理解度は低下しているとも言われています。この原因として考えられることは,ノートの記述が疎かになっているのではないかということです。ICT機器を用いると,調べ易くイメージし易いため,分かったつもりになってしまい,調べ方やまとめ方が充分に身に付かず,知識の概念が曖昧となっている可能性があります。ICT機器の活用はノート記述の補完的役割であることを意識していく必要があると考えられます。 ここまで紹介してきたように,「流れる水と土地」を学習するにあたって,ICT機器の活用は大きなメリットを有していると言えます。一方で,限られた時間の中で使用することには様々なデメリットもあります。この点に留意して最大限に活用する方法を模索していくことが重要だと考えられます。 グーグルアースで確認した上流と下流での川原の石の形状の違いを考えるモデル実験では,リサイクルガラス原料の発泡石(リサイクルガラス製防犯防草石など)を用います。削られる前後で画像を撮影しておくと,形状がどのように変化したか比べやすくなります(図3)。 傾斜と雨量の問題に対しては,山頂部と平野部の条件を必要最小限にまで整理することから始めます。条件をクリアできる実験道具について教科書を基に考えます。土砂のモデルは,黒土と珪砂を1:1で混ぜると実際に近い造形で再現できますが,黒土の含水率から繰り返し実験をすることが困難です。珪砂のみであれば繰り返し実験が行えますので,様々な条件で確かめられます(図4)。さらに,ここで動画を撮影すると,築山流水のモデル実験と同じように再生速度を変えたり,始めと終わりの変化した部分だけを比べたりすることができ,仮説の検証がしやすくなります。 ここまでの実験で分かったことを整理していくと,河川の成り立ちと社会科で学んできた治水方法が深く関係していることに気が付きます。インターネット上では近年の水害に関する情報が大量に公開されているので,水害の原因と流れる水の働きを関係付けながら調べ学習が進められます。地域の河川の歴史などを調べることは,治水を生活の中で見直すきっかけになるのではないでしょうか。 このようにICT機器を効果的に活用してモデル実験と実際の河川のスケールを行き来する思考を繰り返すことは,時間的・空間的な視点を獲得していくことにも有効であると考えられます。ICT機器の課題おわりに図3 発泡石の削られる前(左)と後(右)図4 傾斜と雨量に関するモデル実験7デジタル時代の学びのカタチー教科の視点 理科特集
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