小学校英語:子どもたちとともにつくる授業
~「Go To トラベル」のCMづくりの実践から~
大阪府岸和田市立城内小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
もくじを眺めて教材研究
2021年の4月、教職22年目にして外国語専科に。早速、教材研究のために、『ONE WORLD Smiles』のもくじを眺めていました。「さぁ、この1年でどんな実践をしようかなぁ。何かおもしろいことはできないかなぁ。」外国語科の授業者として至福の時間ですよね。小学校を卒業するまでに、外国語科でどんな力をつけさせたらよいかを考える時間でもあります。
真っ先に頭に浮かんだアイデアが、5年生のLesson 6「Where do you want to go?」(行ってみたい都道府県を伝えよう)と6年生のLesson 5「What country do you want to visit?」(行きたい国)での異学年交流です。今回は、この異学年交流の実践を中心に、授業者としての腕の見せどころを5つ紹介したいと思います。
本実践では、5年生は行きたい都道府県の魅力をアピールし、6年生は行きたい国の魅力をアピールする「Go Toトラベル」のキャンペーンCMをつくり、互いに視聴しました。子どもたちが真剣にCMを撮影する姿や、笑顔を見せつつ恥ずかしそうに完成したCMを見る姿が印象的でした。本誌で子どもたちの生き生きとした姿をお見せすることができないのが残念です。
5年生と6年生の教科書を並べて教材研究
授業の向こう側にある思いや願い
外国語科は、今回のように最終課題に向けて仲間と取り組むプロジェクト型の実践活動を設けることによって、授業がダイナミックになり、子どもたちがより主体的に学ぶことができる素敵な教科だと思います。大切にしたいのは、授業の向こう側にある教師の思いや願いです。単に"Where do you want to go? "や"What country do you want to visit? "の表現が言えるようになることが目的ではなく、この単元を通じて、5年生には、「6年生ってすごいな。」6年生には、「5年生には負けられない。」と互いに刺激しあいながら、相手意識をもってCMづくりに取り組んでほしいと考えました。
子どもたちとともに授業をつくる
<授業者としての腕の見せどころ その1>
~教科書をどう使うのか ①~
教科書のそのままの流れで、授業を進めることは可能です。それだけでもかなり魅力的な授業になると思います。ですが、目の前の子どもたちの実態に合わせて授業を工夫していくことも私たちの仕事であり、醍醐味でもあると考えています。
プロジェクト型の実践を行う場合は、授業の時間の大部分を子どもたちに委ねます。相談の時間、練習の時間、撮影の時間、振り返りの時間などです。では、教科書をどのように扱っていけばよいのでしょうか。本プロジェクトの場合は、各授業の前半の時間で教科書にあるLet's Listen※1やLet's Think※2などの一部に取り組みました。教科書に授業を合わせるのではなく、授業(プロジェクト)を充実させるために教科書を活用するというイメージです。
※1:各単元にかかわるさまざまな内容を聞き取り、確認する活動。
※2:コミュニケーションや、言語・文化について思考を促すコーナー。
<授業者としての腕の見せどころ その2>
~教科書をどう使うのか ②~
例えば、5年生の名所・名物マップ(教科書pp.72-75)の活用法として、各時間の授業の最初にクイズをしました。最初は、私やALTがデモンストレーションとして、それぞれの行きたい都道府県がどこかを当てるなどのクイズを出題します。そして、単元が進むにつれて、子どもたちからクイズを出題させるようにしました。単元末には、外国語に苦手意識のある子どもでも、グループ内でのクイズの出題ならできるようになりました。この「外国語に苦手意識のある子どもができるようになること」が、とても大切だと考えています。
<授業者としての腕の見せどころ その3>
~はじめ良ければすべてよし?~
単元の導入で、子どもたちの心を鷲づかみできるかどうかで、その後の子どもたちのモチベーションが変わってきます。今回のプロジェクトでは、外国語専科である私とALTがつくったCMを子どもたちに見せることから始めました。
とにかく二人(私とALT)が楽しそうにCMに出演している様子を見てもらうことが目的でした。「先生~、これまじで俺らもするん?はよやろ~!」と予想以上に子どもたちは食いつきました。
<授業者としての腕の見せどころ その4>
~グループでCMを作成する意味~
グループで何かをさせると、必ず意見の違いが生まれます。まず、どこの県や国のCMをつくるかで意見が対立することもあります。でも静かに見守ります。「どうやってグループ内で納得解を生み出していくのか」「グループ内の心理的安全性は確保されているか」という視点で見て回ります。普段からペア学習・協働学習に慣れているクラスであれば、意見の違いは大きな問題にはなりません。プロジェクトが子どもたちにとって魅力的であれば、小さな課題は乗り越えられます。今回の実践では、都道府県や国の魅力をアピールするという明確な目的があることが最重要だと思います。
<授業者としての腕の見せどころ その5>
~何をどのように評価するのか~
「どうやって評価していますか。」とよく聞かれます。前提として、子どもたちを評価するために授業をしているわけではないということです。担任として外国語活動の実践をしているときは、子どもたちの気づきに驚き、がんばりを励まし、できたことを子どもたちと喜びあっていればよかったのですが、教科となるとそういうわけにもいかないようです。
しかし、前提は変わりません。評価するためではなく、子どもたちに言葉(英語)の力をつけるために授業実践を行い、その力がついたかどうかを評価するのです。そのために、特に重視したいのは、授業中の行動観察です。CMを視聴する相手のことを意識して、内容や表現方法を考えているかということです。プロジェクトの結果よりも、その出来上がる過程を大切に評価しています。もちろん、振り返りが大切であることは言うまでもありません。
単元を終えた6年生の感想
目の前の子どもを信じる
授業者として、子どもたちに授業の主導権を委ねるということには、多少なりとも不安が伴います。「本当に、子どもたちに委ねてしまって大丈夫か」「時間は足りるのか」「あの学びに向かいにくい子どもはどう動くか」など、さまざまな不安が頭をよぎります。学びに主体的になるということは、子どもたち自身が学ぶ楽しさを体感して、生涯にわたって外国語を学んでいこうとする態度に繋がっていくと考えています。また、この学びの楽しさをさまざまな教科で味わうことが、真の生きる力に繋がっていくと思います。
まずは、目の前の子どもを信じる。これが子どもが主役の授業づくりへの第一歩になるのではないでしょうか。