中学校英語:子どもにも世界は変えられる
認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版) 2021年9月発行より〉
私たちは、中学英語教科書『ONE WORLD』3年のFurther Reading 3でご紹介いただいている、児童労働の解決に向けて設立されたNGO「Free The Children(FTC)」のパートナー団体、NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)です。「子どもを助けられるのはおとなだけじゃない」をモットーとする私たちの活動や、学校の先生方対象のプログラムなどをご紹介します。
すべては、12歳の少年からはじまった
1995年4月、カナダのトロント近郊に住む12歳のクレイグ少年が、マンガを読もうと新聞に手を伸ばすと、児童労働廃絶に向けて活動していた12歳の元児童労働者イクバル少年が殺される、という記事が目に入りました。大きな衝撃を受けたクレイグ少年が児童労働について調べていくと、2つのことが気になったといいます。まず、子どもに分かりやすく児童労働のことを解説する書籍はなく、教えてくれる人もいなかったということ。そして、児童労働は子どもの問題なのに、子どもが関わっている団体は1つもなかったということ。
子どもとしてこの問題を見過ごせない、というクレイグの想いに、クラスメート11人が賛同。放課後にクレイグの自宅に集まって活動を始めました。仲間が全員12歳だったことから、グループ名は最初「12人の12歳」に決定。しかし、1週間後に一人が13歳になったことから、グループ名の変更に迫られたという微笑ましいエピソードがあります。その後の話し合いで「子どもに自由を!」という願いを込めてFree The Childrenは誕生しました。
クレイグらは児童労働の廃絶に向けた署名運動を実施することから始めました。しかし、そのような取り組みをするなかで「子どもなんかに何もできない」「難しい国際問題に取り組むのはおとなになってからやればよい」といったさまざまな批判的な声を、子どもからもおとなからも受けたそうです。
児童労働の実情を知り、知識を深めることの必要性を感じたクレイグは、児童労働者に出会うため、南アジアを訪ねることにしました。そこで彼は、予想をはるかに上回る危険かつ過酷な環境で多くの子どもが働いているのを目の当たりにします。親の借金のかたに売られ債務奴隷として働く子ども、炎天下の中で一日中農作業に従事する子ども、早朝から夜遅くまで住み込みでメイドとして働く少女など、さまざまな状況で働く子どもたちに出会いました。彼らの多くが、いつか学校で学びたいという願いを胸に劣悪な環境で働いていました。絶望的ともいえる状況に、クレイグは子どもの自分にできることはないのかもしれないと、悲嘆に暮れました。しかし訪問したインドで、貧しい人々を救う活動を続けてきたマザー・テレサや、2014年にノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティ氏に会い、児童労働の解決には子ども自身が関わることが重要であるとアドバイスをもらい、意識を新たにしたといいます。
カナダに帰国したクレイグは、書籍や動画を通じて児童労働の現状を伝えながら、「子どもにだって、変化を起こす力がある」というメッセージを発信しました。2016年には、子どもだけでなくどんな立場の人も変化を起こせることを伝えるため、団体名をFTCからWEに変更。途上国で学校や井戸、病院の建設や、貧困家庭の収入向上支援を行うなど、国際協力事業に取り組みました。
建設した新しい学校で交流する、日本の中学生とインドの子どもたち
FTC設立から2020年までの25年間で、支援する途上国9か国で1000校以上の学校を建設し、毎日20万人もの子どもが教育を受けられるようになりました。同時にソーシャルビジネス(フェアトレード商品などの販売や、支援事業地を訪問滞在できるボランティアツアーの実施など)を展開し、寄付だけに頼らない組織運営を行いました。
日本でも活動をスタート
筆者は、1997年の米国NGOでのインターン中に、ある雑誌でクレイグ少年の活動記事を目にし、彼の行動力に感銘を受けたのと同時に「子どもは助けられるだけの存在ではなく、自身が変化を起こす担い手である」というFTCのモットーに強く共感しました。周囲との調和が求められることが多い日本社会の中で、世界に目を向け、さまざまな立場に置かれる人々や異なる価値観を理解し、自分たちにできることを考える―そういった子どもたちが増えたら、日本はもっとより良い社会になるのではないかと考え、帰国後の1999年に日本の子どもにクレイグ少年とFTCを紹介するかたちで、 FTCJを設立しました。
FTCJは次の2つのミッションを掲げています。
ミッション①を達成するため、インドやフィリピン、ケニア、エクアドル等での国際協力事業や国内の貧困家庭への支援活動を行っています。またミッション②の実現に向けて、学校や企業、自治体などへの出前授業や主催イベントを通じて、世界の子どもの現状を伝える啓発活動を行うとともに、社会問題に当事者意識をもって取り組めるよう、子どもや若者のチェンジメーカー育成事業を実施しています。加えて、国内外の子どもの権利を守るための政策提言活動、他組織と連携してSDGsの実現を目指すネットワーク事業、途上国の支援地域を日本の子どもたちが訪問し、現地の人々と交流しながら自分にできることを考えるスタディーツアーを行っています(現在は残念ながらコロナのため中止しています)。
FTCJでは、子どもが主体的に活動に関われるように、高校生以下の子どもが無料で登録できる、子どもメンバーの制度を設置しています。さらに、組織や事業運営に興味のある子どもは、子どもアンバサダーや、チームリーダーに立候補でき、選抜されれば就任できます。また、理事に元子どもメンバーが最低2人就任するように役員を選出しています。
クレイグが12歳で団体を設立した事例を日本の子どもたちに伝えると、「社会問題に子どもが関われるなんて思っていなかったけれど、自分にもできることがあると感じた。できることから何かしてみたい!」というポジティブな声が多く聞かれます。主体的にソーシャルアクションを起こした子どもの事例を紹介している団体ブログも、ぜひご覧ください。
中高生による、児童労働の廃絶を訴えるためのウォーク
学校の先生方へ
私たちは、すべての子どもは生まれながらにして子どもの権利をもち、一人の人間として尊重されるべき尊い存在であり、変化を起こす力があることを子ども自身に伝えるようにしています。一方で、「子どもには変化を起こす力はありますが、その芽を伸ばせるかどうかは、周りのおとなにかかっています。」と37歳になったクレイグは言います。日々子どもと向き合っていらっしゃる先生方に感謝するとともに、子どもへのさらなるエンパワーメントのためには、先生をサポートし、連携させていただくことが不可欠であると思っています。国際理解教育や人権教育、英語教材やソーシャルアクションのための教材など、先生向けの教材や授業にご活用いただけるプログラムを用意しておりますので、FTCJウェブサイトをご覧いただけますと幸いです。クレイグや活動についてのご質問もお気軽にご連絡ください。
FTCJウェブサイト
・お問合せメールアドレス:info@ftcj.org