中学校英語:チャリティーイベントを企画してオンライン広告を作成しよう
~「タスク」の要素を授業に~
筑波大学附属中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 2023年4月号より〉
はじめに
『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編』に掲げられている育成すべき資質・能力の3つの柱の1つに、「思考力・判断力・表現力等」があります。英語においては、「具体的な課題等を設定し、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて」英語で理解したり、表現したりすることを通して、これらの力を身につけることができるように指導することが求められています。ここで示されている「具体的な課題」を考える際に私たちにヒントを与えてくれるのが「タスク・ベース」の発想です。タスク中心の教授法(Task-based language teaching, 以下TBLT)に関する詳細は本稿では割愛しますが、「思考力、判断力、表現力等」を育成する授業を推し進めていくうえで、タスクは私たちの大きな助けになってくれます。
本稿では、『ONE WORLD English Course 2』のLesson 7 The Gift of Givingにおける筆者の実践例を紹介します。タスクの要素や発想をヒントにして、単元末活動に一工夫を加えました。
「タスク」とは?
Taskを英和辞典で引くと「課題」という語義が載っていますが、TBLTにおけるタスクの意味合いは、下記のように少し狭いものとなっています。
タスクの要件(引用文献②)
この要件のうちの2つめと3つめは、思考・判断・表現を評価するうえでも重要なポイントです。評価の際には、文法や言語形式の使用を限定することなく、目的・場面・状況に応じて課題に取り組ませ、「~することができる」という能力記述文で評価することがふさわしいとされています。後述のとおり、本実践の単元末タスクは言語ではなく内容に焦点を当てており、単元で扱った受動態の使用を必須にしていません。また「オンライン広告」の作成を課し、成果を示すことができるように工夫しました。
実践紹介
(1)概要
本実践における単元計画は以下のとおりです。
本単元の扉ページには、"What can we do to help people in need?"といった、単元全体の内容に関わるBig Questionが掲げられています。単元によっては、これを単元冒頭で生徒に投げかけることで、それ以降の学習を意味づけるような工夫をすることもできます。しかし、本単元はパートを追うごとにこの問いの核心に迫っていく流れになっていると考えたので、あえて明示的な発問はせずに、本文内容を理解していく過程でBig Questionへと自然と思考が促されるように各パートの扱い方を工夫しました。
学校によっては、1パートを2時間かけて進めることもあるかもしれませんが、本校では1パート1時間の進度が基本です。「これでは文法の定着が心配だ」という声を聞くこともありますが、教科書本文にはターゲットとなる文法事項が必ず含まれています。本文を聞いたり、読んだりする中で複数回ふれることができるので、その過程で文法の定着は促せると考えています。また、そうすることで生じた時間を発表活動に費やすことが可能になり、アウトプットを通じた定着を促すこともできます。
各パートの指導手順は、英語授業における基礎基本に忠実な流れをとっています。まず新出文法事項のOral Introductionを行い、Explanationの後に口頭による反復練習をします。次に、教科書本文導入のためのOral Introductionをした後、ListeningまたはReadingを通じた本文理解を促すQ&AやExplanationをして、音読と再話等の活動を行います。
(2)単元末タスクの導入
本単元のBig Questionは、「困っている人をどのように助けられるか」という抽象的な問いだったのですが、生徒はthe Santa Runやアメリカでの心理実験の結果を知ることを通じて、他者を助けることの方法や意義を学ぶことができました。その成果を生かしつつPart 2で扱った題材を踏まえ、「チャリティーイベントの企画立案者として、多くの人に参加してもらえるようなオンライン広告を作ろう」というタスクを単元末に設定しました。
「なぜオンライン広告なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。タスクを考えるうえで重要な観点の1つに、タスクの"「現実性」(real-worldness)"(引用文献③)があります。数年前に同じタスクを実施しようとしていたら、生徒が紙でポスターを作成し、時間に余裕があれば口頭でプレゼンテーションする形式をとっていたかもしれません。しかし、ICT化が進んだ現代社会で実際に私たちが目にする広告の多くは紙媒体ではなく、スマートフォン等の画面上でのデジタル広告です。また、学校におけるICT化もこの数年で劇的に進んでおり、文部科学省の推進するGIGAスクール構想により、全生徒がICT端末を所持していることから、生徒自身がデジタルでアウトプットすることも容易になりました。授業内のタスクを日常生活にできるだけ近づけることで、生徒がこのスキルを授業外でも生かせるようになると考えています。私たちがオンラインで目にする広告には音声が入っていることも多いことから、今回は以下のように指示をしました。
(3)プレ・タスク
企画を立案する最初の一歩として、本校で導入しているオンライン上のプラットフォーム、ロイロノート・スクールで、"Who needs support?" という問いについてのブレインストーミングを図1のように行いました。ブレインストーミングを経てどのような支援が必要なのかを検討したのち、具体的にチャリティーイベントを企画するために、次の5つの視点を与えました:①イベント名、②開催目的、③実施場所、④開催時期、⑤イベントで行うこと。
図1 ロイロノート・スクール上での意見共有
(4)ポスト・タスク
生徒がICT端末で作成したオンライン広告は、ロイロノート・スクールで図2のように相互共有することができます。
図2 オンライン広告の共有
どのオンライン広告も見た目だけでなく内容もすばらしく、現実性が高いものも数多くありました。お互いの成果物を共有する時間には、「これはすごい!」「参加してみたいな」という声が生徒から自然に聞こえてきていました。
最後に
こうした自由度の高い活動を行うことに不安感や抵抗感をもたれる先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、基礎基本を大切にした日々の授業で培った土台があれば、生徒はそれまでに身につけた知識・技能や自らの発想力を生かしてタスクに取り組み、学校外でも生きる汎用性の高いスキルを修得することが可能になるでしょう。その積み重ねこそが、未来の課題に立ち向かう力を生徒に身につけさせる授業なのではないでしょうか。
【引用文献・参考文献】
①文部科学省:『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編』(2017)
②加藤由崇ほか共著:『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル―教室と世界をつなぐ英語授業のために』三修社(2020)
③松村昌紀:『タスク・ベースの英語指導―TBLTの理解と実践』大修館書店(2017)