小学校国語:学びに向かう力を支える「積み重ね」と「共有」
神奈川県横浜市立宮谷小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 2023年4月号より〉
年間で取り組む「書くこと」
これらは、学級の子どもや同僚の教員に聞いた「書くこと」における悩みや願いです。同じような悩みや願いをもっている子どもや教員は多いのではないでしょうか。
教科書教材にあるから書く活動を取り入れるというのは、日常的に行われていることです。しかし、書くことを難しいと感じる子どもにとっては、「急に書くことになっても困る」と、国語の時間が来るたびに眉をひそめることになるでしょう。
年間を通して、子どもが書くために必要な力を少しずつ、着実に身につけていくことが理想的です。朝学習や国語の時間の10分程度をミニレッスンとして位置づけ、子どもたちにとっても、授業者にとっても負担にならず、楽しみながら取り組める時間を、ぜひ設けたいものです。
では、このミニレッスンでどのような内容を扱うとよいのでしょうか。ポイントは「負担にならないこと」「子どもが楽しめること」、そして「書くための基礎的な力をつけられること」です。以下は、本学級(3年生)で取り組んだミニレッスンの一部です。
同じ内容を繰り返す、教科書教材の内容に合致するものに取り組む等、学級の実態や学習の進捗状況に合わせてミニレッスンを取り入れています。
ミニレッスンで取り組んだものは、一つのファイルにとじ、いつでも見返せるようにしています。書く活動になった際に、これまでの取り組みをファイルから探し、確認することができ、子どもたちにとっては、「お守り」のような存在です。
このような内容の積み重ねを生かして取り組んだのが、『強く心にのこっていることを』の単元です。
『強く心にのこっていることを』
(教育出版『ひろがる言葉 三下』p.96)から
身近な生活の中から題材を見つけ、中心になる場面を明確にして文章を書くという学習内容です。
何を書くのか(題材の決定)
日記などに定期的に取り組んでいる場合は、その中から「強く心に残っていること」を選ぶことができます。日記などに取り組んでいない場合は、単元に入る前に一定期間、心に残ったことを書きためていけるようにすると、子どもは、自分が書きたいことを見つけやすくなります。同じ「楽しかったこと」でも、心への残り方は違います。そこで、書きためる際には、次のようなイメージマップを使い、伝えたいことがより明確になるようにします。
「強く心に残っていること」を書きためるイメージマップ)
以下は、子どもたちが題材として決めたものの一部です。
ここでは、着眼点のよさを認める声がけを意識しました。具体的には、「これは、あなただけが知っているできごとだね!」や「どんなできごとで、どんな様子だったのか知りたい!」といったものです。
どのような材料を集め、組み立てるか(取材・構成)
イメージマップの活用後、組み立て表を作ります。これらの活動によって、指導事項の「書く内容の中心を明確にし,内容のまとまりで段落をつくったり,段落相互の関係に注意したりして,文章の構成を考えること」(『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』p.101)が達成されることになります。
組み立て表への記述は、3色の付箋紙を使い、そのときの様子・気持ち・会話と書き分けます。ここで重要なのは、読み手を意識することです。「この内容で読んでいる人に伝わるかな」「様子が伝わるようにするためには、どのような言葉を選んだらいいかな」と考えていくことが大切です。そういった考えに至るためには、子どもどうしの交流が欠かせません。イメージマップや、組み立て表を作っている過程の中で、子どもどうしで見合い、質問したり、答えたりする時間を設けるようにすることは、読み手の意識をもてるようになるとともに、自分が書こうとしているものへの自信にもつながります。
子どもどうしで交流している様子
どう書くのか(記述)
以下は、子どもたちが文章を書く際によく使う言葉です。
これらの言葉は、ミニレッスン(「言い換え名人」)で取り上げ、他にどのような言い方があるのか、言い換えによって、どのような意味の違いや印象の違いが生まれるのか確認しました。以下は、言い換えの一例です。
同様に、書き出しや題名のつけ方についてもミニレッスンで確認し、書く際に生かせるようにしました。
教科書には、例として、ペットのカメ太とのできごとが詳しく書かれています。そのよさについて確認するとともに、「では、カメ太の視点で書いたらどうなるだろう?」と問いかけ、一部分の書き換えを行いました。自分以外のものの視点になって書くことのおもしろさに気づき、書く際に生かす子もいたほどです。
子どもどうしが学び合える場
作成途中や、下書きの共同推敲、書き上げたものの交流は、小グループを作り、対面で行うとともに、「ロイロノート・スクール」を活用しました。使ったのは、「ロイロノート・スクール」の「回答の共有」です。提出したイメージマップ、組み立て表、下書き、清書は、全員が見られるようになります。そのようにしたことで、「〇〇さんの気になる!」といった声が本人に伝わり、書くことへの意欲につながりました。また、どのように書いていいか迷っているときに、友達のものを参考にする姿も見られました。
今回も取り入れた「回答の共有」ですが、初めは、見られることに抵抗を感じている子どももいました。しかし、何度か経験していくうちに、「見てもらえると、アドバイスをもらえることもある」「見てもらって感想をもらうと嬉しい」「〇〇さんもがんばって書いていたから、ぼくも最後までやりきろう」といった前向きさに変わっていきました。子どもどうしで共有することのよさや意味を感じられたことが、結果として学習を後押ししたことはまちがいありません。このように、書くことに必要な力を身につけるための積み重ねと共有を通して、学びに向かう力はより高まったと考えます。
【引用文献】
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』