小学校国語:系統性のある授業で考える力を育む
早稲田大学系属早稲田実業学校初等部教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.6 2024年4月号より〉
国語で思考力を伸ばすには
国語という教科は何を学ぶのかがはっきりしません。算数なら「計算ができるようになった」、社会なら「都道府県の特徴を知ることができた」というように、その時間に「これを学んだ」というものがはっきりしています。もちろん国語でも「漢字を覚えた」「主語・述語の関係を理解した」というはっきりしたものがあります。授業参観などで言語事項の単元を扱う教師が多いのは、その1時間で何を学んだかが保護者のかたにわかりやすいからではないでしょうか。
そうした知識とともに学びの中で伸ばすべきものが思考力です。私は、思考力は主に8時間や10時間扱いといった、配当時数が多い単元の中で、子どもたちが関わり合い、考える時間が生まれる中で伸びてくる力だと考えています。また、その考える力を積み重ねていくのは、各学年のどのような教材を扱うかという「横の目線」に加えて、1~6年の教材のつながりを見る「縦の目線」、教材の系統性を意識することも大切になってきます。
低学年教材を使用した土台作り
国語の学習に限りませんが、子どもたちが主体的に考えようとする場面は、一つは知らないことを知りたい、わからないことを理解したいと思ったとき、もう一つは自分が正しいと思っていた意見が友達とずれていたときです。授業の中でそういった場面を作ることができれば、主体的に考える時間が自然と生まれてくるのではないでしょうか。
そうはいっても、子どもたちが自由気ままに意見を出し合って「みんな違ってみんないい」で終わってしまっては、わざわざ教室に集う意味がなくなってしまいます。
そこで私は、話し合い、考える土台を作るために、どの学年の担任になっても、国語の文学教材では『おおきなかぶ』、説明文教材では『はたらくじどう車』(ともに教育出版「ひろがることば 小学国語」1年)を使い、短い時間でその学年までに身につけておくべき知識・技能をクラス全員で確認するようにしています。
教室の掲示板を使って、学習したことを振り返ることができるようにしておきます。
文学教材であれば「登場人物」や「中心人物」「場面」など、説明文教材であれば「段落」や「はじめ・中・おわり」「話題提示」「具体例」などです。「登場人物の気持ちを考えよう」といっても、子どもたちの中で「登場人物」や「中心人物」の定義に違いがあれば、話し合うことはできません。これらの言葉の定義をクラスで共通して認識しておくことで、話し合いの土台が共有できるようになります。クラスのきまり(学習用語や読み進め方)を全員が理解したうえで話し合うことができれば、より対話的に、より深く学べるのではないでしょうか。
5年生の『大造じいさんとがん』を学ぶ前に、短時間で『おおきなかぶ』の授業を行いました。
このように、低学年の教材を使って共通理解を図り、話し合いの土台を作っていきます。
「心情曲線」を使って考える時間を作る
私は昨年(令和5年)度5年生の担任をしていました。直近では文学教材『大造じいさんとがん』の学習を行いました。教育出版の教科書では、この教材の単元のねらいは「物語のやま場を見つけ、読みを深めよう」となっています。「やま場」は「中心人物の気持ちが大きく変わる場面」だと共有しておくことで、子どもたちは自然と中心人物の気持ちの移り変わりを考えていくことになります。今回は、考えることを楽しみながらねらいに迫るために、学級の全員が話し合いに参加するてだてとして『おおきなかぶ』でも取り扱った「心情曲線」(登場人物の気持ちの変化を視覚的にわかりやすく線で表したもの)を用いました。
登場人物の気持ちがいちばん動いている場面を探すわけですから、子どもたちは自然と言葉一つ一つにこだわりをもって読むようになります。すると、初読では飛ばしてしまった言葉に立ち止まって考えられるようになります。
例えば『大造じいさんとがん』にも登場する「なつく」という言葉。自分の飼っている金魚がえさを食べることを「なつく」と考える子どももいれば、長年飼っている犬が、自分とだけお風呂に入ることを「なつく」と考える子どももいます。それぞれがわかっているつもりになっている言葉も、よく聞いてみるとそれぞれの思う定義が違っています。ここで考える時間をとり、それぞれの考える「なつく」という言葉の意味をやり取りする中で、お互いの考えが共有され、「おとりのがんはよほどのことがない限り、口笛を吹けば大造じいさんのもとへ戻ってくる」という共通認識ができていきます。
また、「心情曲線」を考えていく中で『大造じいさんとがん』という作品の特徴でもある「情景描写」も考えることができました。この言葉(情景描写)がなくても意味は通じるけど、なぜわざわざ「青くすんだ空」「空が真っ赤にもえて」という表現が出てくるのだろうと、子どもたちと考えてみます。子どもたちにとって感じ方はさまざまです。「青い空」からは「清々しい」「スッキリした」「曇りのない」など、「赤い空」からは「戦いに燃えている」「やる気に満ちている」「闘争心あふれる」などといった言葉が出てきます。いずれもよい発想です。答えは一つでないとわかると、しだいに複数の意見が出てきます。そして、ある子どもが「大造じいさんの気持ちと関係があるように見える」と気がついたところで、これが「情景描写」であると新しい学習用語を伝えました。子どもたちが「登場人物」や「心情曲線」という既習のてだてを使ってじっくりと考える時間をとり思考した結果、「情景描写」という新しい学習のてだてを得ることができました。
同じ「情景描写」でも、感じることはさまざまです。一見同じに見える意見の微妙な違いや、全く同じように見える意見のちょっとした重なりを価値づけることで、多様な考えを引き出していきたいと思っています。
「情景描写」という言葉だけを教えるのであれば5分もあれば十分ですし、タブレットなどを使えば定義を調べることは簡単です。しかし、思考を伴った学習用語はてだてとして生かすことができます。教師が系統性をもって授業を行うことで、国語で学んだ考える力が、次の単元の学習や、休み時間の友達との関わりにつながります。そして日常生活の中で生きたと実感したとき、子どもたちは少しずつ主体的に楽しんで考えるようになるのではないでしょうか。
『おおきなかぶ』と並列して掲示しておくことで、学んだことを生かして話し合いながら考える場面が、自然に増えるように工夫しています。