小学校生活:地域の人へのあこがれを育てる生活科
京都女子大学准教授
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版) 2022年4月発行より〉
子どもたちが生活する地域には、たくさんの魅力的な人やもの、出来事や場所があります。そんな場所や人を対象にして、自分のまちの勉強をすることができるなんて、生活科って本当に魅力的だと思いませんか?自分のお気に入りの場所や関わりのある人のところに、授業で行ってよいんですよ。それだけでなく、クラスの友達のおすすめで、自分が知らない場所にも行くことができます。そこから地域との新たな出会いが始まります。そして、地域とのつながりや地域を見る目を広げていくのです。それでは、子どもが主体となって学ぶ生活科はどういうものなのでしょうか?
2つの探検活動の「間」を生かす
2年生の生活科の活動に、「まちが大すきたんけんたい」と「えがおのひみつたんけんたい」があります。子どもたちがまちの人たちの笑顔の秘密を、探検活動を通して探っていく活動です。それだけでわくわくしてきませんか?しかも、まちの人のお仕事を体験させてもらっちゃおうというのです。見学をしたりインタビューをさせてもらったりすることはよくある活動ですが、小学校2年生でのお仕事体験です。子どもたちがわくわくしないわけありません。そしてまた、「本気」にならないわけありません。なぜなら、子どもたちだってわかっています。働くということが真剣勝負であるということを。仕事は、お金を稼ぐという意味では経済活動であり、ものやサービスをつくり生み出すという意味では生産活動であり、人と関わったりコミュニケーションをしたりするという意味では社会的活動です。そして、なによりも働く人たちの生活そのものでもあります。そんな生活の一部を自分たちが体験させてもらうというのですから、中途半端な気持ちではできないことを強く感じています。
まち探検では、探検活動を繰り返す中で地域の人との関わりを深めることを期待しています。「まちが大すきたんけんたい」では、地域の人と関わるきっかけをつくり、人となりを知り、関わり続けることへの意欲をもつことができたら大成功だと思います。「えがおのひみつたんけんたい」への下地も十分に耕されていることでしょう。
そして、2つの単元の活動に時間的な「間」があるということが特徴的です。子どもたちが「まちが大すきたんけんたい」の活動で、自らすすんで地域の人との関わりを求めたり、自分の生活とのつながりについての見方や考え方を深めたりするためのチャンスを与えてくれます。生活科では、「生活科から生活化へ」と学びが活用されることが、誕生当時から期待されています。そのためには、時間的なゆとりや長い時間で子どもの学びや成長を捉えることが必要であり、また活動計画そのものも内容だけでなく、繰り返しとゆとりのある時間設定で計画することが必要です。子どもたちが自分で成長するチャンスをしっかりと保障してあげたいですね。「急がば回れ」という心持ちが必要です。カリキュラム・マネジメントの大切なポイントです。
学習材を成長させる
さて、そうすると、これら2つの単元の「間」をどのように指導するかということが、先生方の腕の見せ所かもしれません。「まちが大すきたんけんたい」の活動では、きっといろいろなカードや作品、子どもたちの写真や探検マップなどが生み出され、教室の中に掲示されていくことでしょう。また、子どもたちが関わった地域の人たちの写真や言葉も残されていることでしょう。これらの学習活動を通してつくられてきた成果物を大事にしていきたいです。もちろん、教室掲示で生活科だけが優先されるわけではないですが、ここでつくられたものは「えがおのひみつたんけんたい」の活動の教材にもなるものです。
たとえば探検マップを残しておきます。そうすると、どうなると思いますか。子どもたちの中には探検マップを見ていたり、読んでいたりする子がいるはずです。そんな子に話しかけてみてください。「探検の後、おうちの人と行ってみたところある?」「もう一度行ってみたいところある?」と。朝の会などで、全員に尋ねてみてもいいですね(私だったら、あえて生活科の授業でない時間を選びます)。そうしたら、必ず「お母さんと行ったよ!」「習い事の帰りにお買い物したよ!」「家族と図書館で本を借りたよ」という声が聞こえてくるはずです。そしたら、たくさん褒めてあげてください。さらに、探検マップの中に子どもたちの個人的な経験を書き加えていくのです。はっけんカードや情報カード(折り紙や大きめの付箋紙など)に1~2文程度でまとめた情報を、先生が書いて貼ってあげるのです。子どもたちの生活と授業をつなぎ、子どもたちと地域をつなぐのです。そしてまた、「まちが大すきたんけんたい」と「えがおのひみつたんけんたい」の活動をつないで、子どもたちの意欲をつなぎ、橋渡しするのです。そうすることで、探検マップは単なる作品ではなく、いまだ完結せざる学習材であり続けるのです。単元の活動が終わっても、探検マップを「成長」させ続けるのです。はじめは先生が書いていた情報カードも、子どもたちが自分で書きたくなったり、書くための時間を求めたりするようになったらすてきですね。もしかしたら、自分の家で書いて持ってきてくれるかもしれません。このような姿が見られたら、まさに子どもたちは主体的で対話的に学んでいると言ってよいのではないでしょうか。
子どもの言葉の背景を捉える
さて、このようなことを続けていくうちに、「えがおのひみつたんけんたい」に向けての子どもたちの意欲もすでに高まっています。教科書の単元の扉を使って、活動のねらいを子どもたちと話し合います。すでに子どもたちはまちの人たちとの関わりを楽しみにしていますから、活動の視点をどのように共有するかということがポイントになります。「もっとまちの人のことを教えてもらうためにはどうしたらいいのかな?」と方法について問題提起し、子どもたちの考えを引き出し、見通しを立てていくとよいでしょう。子どもたちの「問い」を育てていくのです。教科書は、子どもたちと活動をつなぐツールになってくれます。
笑顔の秘密を調べた後に教室で話し合ったときの明菜さんの振り返りカードを紹介します。
2年生の子どもなりに、お店の人たちの様子や仕事に対する思いをしっかりと受け止めていることに気付かされます。そんな人たちに「あこがれ」を抱くというのも、生活科らしいとてもすてきな姿だと思いませんか。実は、ここで書かれている「あこがれ」という言葉は、探検の数日前に、本単元と関連的に扱った道徳の時間(資料名「森のゆうびんやさん」)に登場していました。話し合いの中で、「くまさんのようになりたい」という麻里さんの発言に、明菜さんは、「そういうのをあこがれるって言うんだよ」とつぶやいたのです。
そのような背景がある「あこがれ」という言葉が、探検の振り返りの中で改めて登場したのです。明菜さんにとっての「あこがれ」とは、「ハンバーガーショップの店員になりたい」「パン屋さんになりたい」という意味ではありません。むしろ、職業や仕事を通して人を幸せにできる人間になりたいということを意味しているのだと思います。このことは、生活科がまちの人たちの生き方と道徳の学習をつないでいると言ってもよいでしょう。そしてなにより、生活科がまちの人たちへの愛着や信頼へとつないでいるのです。このような生活科が、地域を子どもたちのふるさとへと変えていくのだと思います。