小学校算数:「はてな?」「なるほど!」「だったら!?」をつないでつくる子どもが主役の算数の授業
北海道札幌市立真駒内桜山小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版) 2022年4月発行より〉
子どもが「主役」の授業とは
子どもが「主役」の授業と言われたなら、どのような授業を思い浮かべるでしょうか。こうした言い方をすると、私たちは同じような授業をイメージするように思われますが、実はそうではありません。
ある先生は、教師が目的ややるべきことを丁寧に説明し、しっかりと環境を整えたうえで、子どもが目的に向かって主体的に取り組んでいる授業を想像したかもしれません。
また別の先生は、よく考え抜かれた教材で強い「問題意識」を生み、子どもが意欲的にその問題の解決に向かって臨んでいる授業を想像したかもしれません。
はたまた、子どもが自ら「やりたいこと」を決め、これまでに学んだことを生かして、そこに向かって追究し続けるような授業を思い浮かべた方もいるでしょう。
これらは、いずれも子どもが「主体的」であることには変わりがありませんが、学びの質としては大きく違っています。それは、学びの過程において子どもに委ねられている部分の範囲が大きく違うからです。
近年、目標・目的の設定や、学習内容の選択も含め、できるだけ子どもに委ねる部分を大きくした授業を試みようとする動きが出てきました。それは、こうした授業こそが、「自ら課題を発見し、他者と協働しながらそれを解決していく力」を真に育むことができるのではないかと考えられているからです。
低学年から取り組む、子どもが主役の授業
こうした授業は、理想的には「よさそうだ」と感じる一方、自分の学級で実現することはなかなか難しいと感じる先生も多いと思います。高学年であればまだしも、低学年の児童が対象であればなおさらです。
しかし、子どもが「やりたいこと(目的)」を自ら設定して追究したり、追究の仕方を工夫したりするような授業は、「はてな?」「なるほど!」「だったら!?」の授業構成を意識することで、1学年であっても、十分に実現していくことが可能になるのです。
実際の例を通してお話ししたいと思います。第1学年「かたちあそび」の学習場面です。
(1)「はてな?」を生む
子どもたちは前時までに、お菓子の箱の面を写し取り、いくつかの形を抽出していました。
これらを黒板に貼ったうえで、授業の初めに、子どもたちに「ピタりんシルエットクイズをしよう。」と提案しました。子どもたちからは「え、ピタりんって何?」などといった声があがります。
そんな声を聞きながら『ルール:おなじかたちをつかう』と板書し、例として直角三角形を2枚提示しました。すると、子どもたちからは「ピタりんの意味がわかったかも!」などといった声があがりました。そこで、一人の子どもを指名すると、一方の直角三角形を裏返しにし、斜辺にあたる部分をぴたりとくっつけたのです。
「なるほど!」「意味がわかった!」といった声が多くの子どもたちからあがる一方、「違う考え!」という意見も出てきました。
そこで、一度、上記の図形が「ピタりん」であることを認めたうえで、ルールに『おなじながさのところを、せ中あわせにする』と追記しました。そして、背中合わせの辺の部分を赤く色付けし、『うらがえす』と板書しました。
すると、「裏返さなくてもできるよ!」と、先ほど「違う考え!」と言った子どもたちが、意見を言わせてほしいと訴え始めました。
一人の子どもを指名すると、今度は一方の直角三角形をくるりと回転させ、短い辺どうしでぴたりとつなげたのです。
「ああ!本当だ!」「ピタりんになってる!」
このように、学級全体に「ピタりん」の意味が浸透してきたタイミングを見計らって、「この形では、2種類のピタりんができるんだね。」と、全体に投げかけます。すると、「そう!」という声と同時に「まだできると思うよ!」という意見が出てきました。中には、この発言を聞いて「え!?」と驚きの表情を浮かべ、早速考え始める子どももいました。子どもたちの中に、「この形を使って、他にどんなピタりんができるのかな。」という、「はてな?」が生まれた瞬間です。
(2)「なるほど!」から「だったら!?」へ
ここで、子どもたちに直角三角形を2枚ずつ配り、個々にピタりんを探す時間を取りました。すると、どの子どもも強い問題意識のもと、主体的に追究していったのです。
その途中、子どもが発見した新しいピタりんのシルエットを取り上げ、拡大器とテレビを使って学級全体に提示しました。
「そうそう!それ、私も今見つけた!」「え?それ、どうやって作ったの?」「あ、わかった!できたよ!」
どの子どもも、友だちが発見したピタりんのシルエットをもとにその作り方を推測し、それを再現しようと動き出したのです。このように、他者の考え方を再現して「なるほど!」と納得する姿は、自らの考えを深める子どもの姿といえます。
ここまでの学びは、子どもが強い問題意識をもち、主体的に取り組んでいると捉えることができます。しかし、追究する対象が限定的で、子どもに委ねられた学びとまではいえません。
そこで、このタイミングで、次のように全体に投げかけるのです。
「1つの形でこんなにたくさんのピタりんが作れるんだね。」
これを聞いた子どもたちからは、「他の形でも作ってみたい!」「いろいろなピタりんができそう!」といった声があがり始めました。
直角三角形での学びをもとに、「だったら!?」と、他の形の場合でも考えてみようと子どもたちが動き出したのです。
(3)子どもに委ねる
「では、他の形も使って、ピタりんシルエットクイズを友だちとやってみましょう。」
子どもたちは、自分でピタりんを作る図形を選び、それぞれにクイズを考え始めました。
「もっと難しい問題を作りたいな。」「3枚とか4枚使ったら、もっと難しくなるかも。」「おもしろい形(左右対称)ができたよ!」「こうすれば(いくつかの角を合成すると)、おもしろい問題になる!」
早速、自分が考えるおもしろいクイズを作ろうと工夫する子どもが多く出てきました。
また、互いにクイズを出し合う中で、「だったら、私ももう少し難しい問題にしてみよう。」「その形を使うと、こんなピタりんができるんだ。」「私も、同じようにおもしろい形(左右対称)を作ってみようかな。」と、友だちの考えを取り入れて、更に工夫する子どもが続々と現れてきました。
また、次の時間には2種類以上の形を組み合わせた問題作りに取り組もうとする子どもも出てきました。こうした姿は、「はてな?」「なるほど!」「だったら!?」というプロセスが連続的に発生していると捉えることができます。
このように、「はてな?」「なるほど!」「だったら!?」を授業構成に生かしていくことで、たとえ1学年であっても、子どもが「やりたいこと(目的)」を自ら設定して追究したり、追究の仕方を工夫したりするような授業を実現することができます。
こうした授業では、まさに子どもたちが「主役」となり、そのストーリーをどう紡いでいくのかを、自分自身で決めていくことができるのです。