小学校算数:子ども一人一人が輝く算数授業
東京都港区立御田小学校主任教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 2023年10月号より〉
「子ども一人一人が輝く算数授業」とは
「子ども一人一人が輝く算数授業」とは、「自分らしい学びが保証されている授業」だと考えます。自分の考え方や表現方法、自分の経験を生かす場があり、その子だからこそ言えることやできることが表出する授業ともいえます。自分らしい学びを目ざすには、子ども自身が学びたいことや学ぶ方法を自己決定することが大切だと考えます。自己決定をとおして、一人一人の学びに個性が生まれるからです。また、一人一人の個性が表出するからこそ、他者と協働するよさが生まれるのではないでしょうか。
しかし、算数科は系統性が強いため、自分らしく学ぶことが一見難しいように思えます。だからこそ、問題解決の過程において、教師が明示的に数学的な見方・考え方を顕在化させることが重要です。
では、一人一人が自分らしい学びを大切にしつつも、数学的な見方・考え方を育てていける授業は、どのように行えばよいのでしょうか。それには、子どもが自分事として向き合える問題や子どもにとって切実な問いが必要だと考えています。自分事の問題や切実な問いと向き合うからこそ、一人一人が自分らしい学びを表出させることができるからです。
本稿では自分事の問題や切実な問いに向かうために、子どもの日常生活を題材にした授業を紹介します。
子どもの日常生活を題材にした授業づくり
日常生活を題材にした授業のつくり方は2種類あると考えています。1つは、「教師が指導事項を教えるために、日常生活の中で適した問題場面はないか」を考える授業デザインです。例えば「広さ」の学習であれば、「どちらが広いかを知りたくなる問題場面はないか」「広さを数で表す問題場面をどう設定するか」「広さの比べ方を話題にするには、どんな問題場面がよいか」などが考えられます。
もう1つは、「子どもの日常生活の中にある問題を探し、それを解決するために算数を用いる場面はないか」を考える授業デザインです。子どもにとって日常生活のリアルな問題を扱うため、算数以外の解決方法を用いる可能性もあります。そのため、教師は日常生活の問題を算数の問題に置きかえて考えられるように授業を工夫する必要があります。
前者は指導事項が先にあり、後者は問題場面が先にあります。本稿では後者の授業実践となります。
実践事例 1年「氷鬼の鬼決め」
(1)氷鬼の鬼決めに潜む子どもの問題
実践を行った学級では、休み時間に氷鬼をして遊ぶ子が多く、鬼決めの場面では、子どもたちは感覚的に鬼の数を決めていました。そのため、鬼の希望者によっては、鬼の数が多すぎたり少なすぎたりする場合がありました。鬼決めについて不満をもっている子はいますが、氷鬼で遊ぶことに時間を使いたいため、問題があまり表面化していません。
しかし、氷鬼についてのアンケートを実施すると、一人一人がさまざまな思いをもっていることがわかりました。子どもたちは、以下の6つを問題だと捉えています。
① 、②、③については、ルールの設定やマナーについて話し合うことで解決できると考えられます。
一方、④、⑤、⑥については、算数を使って解決するよさが見いだせる問題だと考えました。鬼と逃げる人の数の関係を考察する過程において、図や数などを使って考えることが期待できるからです。
以上のことから、「氷鬼の鬼決め」を題材とした授業を構想し、実践しました。
(2)鬼の数とその理由について話し合う
本実践は「10人で氷鬼を楽しむには、鬼を何人にすればよいかな?」を解決する過程において、参加人数や走る速さに着目して、鬼と逃げる人の関係を図や数を使って考えることをねらいにしました。
子どもたちに問題を投げかけると、A児が上の図をかきながら「僕は5対5がいいと思う! だって半分だから。1対1で対決ができるもん」と発言しました。A児は走ることが苦手なため、自分が楽しむためには鬼の数が5人必要だと考えたと予想されます。この発言に対して、「鬼と逃げる人の数が同じだとすぐ捕まっちゃうよ」「5人とか半分にできないときは、どうするの?」と意見が続きます。そこで、教師から「じゃあ、みんなは鬼が何人ならちょうどいいと思うの?」と発問し、自力解決に入りました。
記事下部で提示しているように、子どもたちからはさまざまな考えがあがりました。
子どもたちは、鬼の数は2~5人がよいと考えていますが、同じ鬼の数でも、その理由や数学的なアイデアはさまざまでした。
集団検討では、一人一人が考えた鬼の数とその理由を話し合う中で、「対応の考え」や「重みづけの考え」など、子どもが働かせた数学的な見方・考え方を顕在化させ、それぞれのよさを共有しました。
(3)鬼の決め方の変化
本実践後、氷鬼の鬼決めの場面において、鬼の数やその決め方に変化がありました。実践前は、鬼の数を感覚的に判断し、じゃんけんで決めていました。しかし、実践後は、鬼と逃げる人がそれぞれ1列に並び、鬼の希望者の数と走る速さを考慮し、話し合いで鬼を決めようとする姿が見られました。例えば、「足が速いから鬼は2人でもいいと思う」「走るのが苦手だから、もう少し鬼を増やしてくれない?」などの話し合いが行われています。日常生活の問題を算数で解決し、自分らしい学びが表出された1つの事例といえます。
おわりに
本実践では、一人一人が輝く算数授業を構想するにあたり、子どもの日常生活を題材にした授業を構想し実践しました。氷鬼の鬼決めは、子どもにとって自分事になる問題であり、切実な問いだったからこそ、一人一人が自分らしい学びを表出できたと考えています。実際に氷鬼をする場面を想定して考える姿や、自分や友達の走る速さに着目して考える姿などが見られたからです。今後は、日常事象を数学化するうえで、何を捨象し、どの程度算数の内容を扱うかをさらに検討していきたいと考えています。
▼ 子どもたちのノートとそこからみえた数学的なアイデア
【参考文献】
・西村圭一:『数学的モデル化を遂行する力を育成する教材開発とその実践に関する研究』東洋館出版社(2012)