中学校数学:中学校数学科における探究的な学びの具現化に向けた授業デザイン
秋田大学教育文化学部附属中学校教頭
秋田大学教育文化学部講師
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
はじめに
中央教育審議会(2021)によれば、将来の変化を予測することが困難な時代において、事象から解決すべき課題を見いだし、主体的に考え、多様な他者と協働的に議論し、納得解を生み出すことなどが求められています。そのために、学校教育において、児童生徒の探究的な学びの充実を図ることが必要かつ重要であると考えます。
「中学校学習指導要領解説 数学編」では、課題学習について、探究的な学びの充実を図るために、各領域の内容を総合したり日常の事象や他教科等での学習に関連付けたりするなどして見いだした問題を、生徒が主体的に解決していく学習と位置付けられています。本稿では、その一環として、鐙基倫の前任校である秋田県立秋田南高等学校中等部3年生で実施している「探究的な学習」(標準時数に年間35時間を加え特設授業としたもの)の実践を考察の対象にして、「メディアの情報を実験・分析し、数学的根拠に基づいて評価し自分なりに結果を得ること」、「個別のメディア収集活動とグループ全体の協働による多面的・多角的な発想」、「ゴールを見据えたアプローチの必要性」の3つに光をあてた授業デザインについて考えていきます。
探究テーマ「ビュフォンの針」
あるグループでは、書籍で「ビュフォンの針」について知り、実際にその通りになるか疑問を抱き、「ビュフォンの針」をテーマとしました。
「ビュフォンの針」とは、平面上に間隔dで平行線を引き、長さl(≦d)の針を適当に投げたとき、針が線と交わる確率はに近づくというものです。
はじめに、爪楊枝の長さをa、平行線の幅を2aとして、文献に記載されていた方法で実験を繰り返し、確率がに近づくかを確かめたうえで、平行線の幅を変えて実験を行い、針が線と交わる確率が
に近づくかを確かめました。
次に何を探究するかについて、次のようなグループの生徒と教師との対話がありました。
この後で行った実験は、次のような内容です。
この実験を終えた後に、確率から面積を求めることができることを利用して、モルワイデ図法の世界地図から陸と海の面積比を求めることに挑戦していました。
生徒の学びを振り返って
このグループからは、教師の助言もあり、「ビュフォンの針」の考え方を楕円などの曲線に応用したいという考えが出てきました。そして、まず円に応用して実験的・理論的に分析をし、よい評価が得られたら他の曲線にも活用しようという方針も示されています。
このように、書籍やインターネット等のメディアの情報を集めてまとめるだけでなく、実際に調査・実験をして、そのことについて、分析・評価し、自分なりに結果を得ることが大切です。問題を発展させ、得た結果を統合的に考察しようとすることによって、問題から新たな問題を見いだすことにつながっていきます。
探究テーマ「パラボラの秘密を探る」
このグループの最初の研究テーマは、「ゴミ箱に正確に空き缶を〜放物線がつくる日常生活〜」で、放物線の式や、空き缶の重さや体積と空き缶を投げたときにえがく放物線の関係について調査していました。しかし、発展性がないように感じたようで、調査した放物線をどのように活用していくのかについて、次のように協議していました。
〔班員全員がタブレット端末で、パラボラに球を落下させ、跳ね返ると1点に集まる実験をしているテレビ番組の映像を観ている〕
協議後に、「どこからでも入るゴミ箱」の研究を進めようとしていましたが、予備実験の途中で、ゴミの重さや空気抵抗など、考えるべき要素が多すぎたため、途中で研究を断念しました。度重なる研究テーマの変更で悩んでいたときに、教師から、実社会に役立つことだけを考えるだけではなく、放物線について多面的・多角的に捉えることも研究の一つである旨の助言がありました。助言を受け、グループの生徒たちは、対称軸に対して平行に入射した光は焦点に集まるというパラボラアンテナの原理を確かめるために、傘で作成したパラボラを使った音の実験を行いました。ICTを活用して、音の大きさを計測した結果、焦点に近づくほど音が強くなったことから、音が放物線の焦点に集まっていることを確認しました。
y=ax²のaの値が1、2、3、4、5の場合の焦点の位置の違いを帰納的に推論し、aの値が2倍、3倍、...になると、原点から焦点までの距離が倍、
倍、...になることを発見しました。
さらに、音の聞こえにずれが生じない(放たれた音が焦点に同時に届く)理由を、ある位置から音を出して放物線に反射し焦点に届くまでの距離に着目し、三平方の定理を活用して説明していました。
生徒の学びを振り返って
新たな問題を設定し、調査・研究しても、すべてがうまくいくわけではありません。この挑戦を糧にして問い続けるためには、生徒の個別によるメディア収集活動とグループ全体の協働による多面的・多角的な発想が必要かつ重要です。
このグループでは、教師からアプローチ方法の助言を受け、研究の見通しをもつことができています。探究的な学びにおいて、生徒の主体性にどこまで任せるべきかの判断は難しいですが、教師はグループの興味・関心を理解し、いくつかのアプローチ方法を示すことも必要かつ重要です。
ICTを活用して、放物線の開き方と焦点の規則性を帰納的に推論したり、演繹的に推論したりしています。数学の事象から問題を見いだし、数学的な推論などによって問題を解決し、解決の過程や結果を振り返って、新たな発想につなげています。
おわりに
今回は、はじめにで述べた3つに光をあてた授業デザインについて考えました。この3つに光をあてた授業デザインが、生徒が事象から問題を見いだし、数学的に推論しながらその問題を解決し結果を得ることに加え、得た結果を、統合的・発展的に考察し、新たな問題を見いだす活動の促進を図る契機になっていることがみえてきました。
次代を切り拓く生徒を育てるために、このような探究的な学びを具現化する授業デザインについて、今後も皆さんとともに考えていけたら幸いです。
参考文献
・中央教育審議会(2021)「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)
・文部科学省(2017)中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編