小学校音楽:子どもが主体となる音楽授業のあり方
筑波大学附属小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版) 2022年4月発行より〉
授業デザインのマイナーチェンジ
新年度を迎え、新しい子どもたちとの音楽科の授業が進んでいることでしょう。私も本校に勤めて12年めになりますが、新年度の4、5月はわくわくするものです。
さて、今回は音楽科の授業デザインを大きく変えるのではなく、自動車のあるメーカーが毎年行っているように、授業デザインのマイナーチェンジをご紹介いたします。ちなみに、マイナーチェンジとは、「細部の小規模な変更」というようです。
日直さんが挨拶をするあたりまえをチェンジ
授業の開始といえば、日直さんが「これから2時間めの授業を始めます」と号令をかける姿が目に浮かびます。私も本校に着任する前までは、そのような日常を過ごしていました。そこで、私がマイナーチェンジしたことは、音や音楽を通して授業を始めることでした。チャイムが聴こえてくると、「さあ、はじめましょう」とか、「さあ、行きましょう」と言って、次のフレーズをピアノで奏でるようにしています。
楽譜
上記の楽譜のように、全部で三つのパターンを使い分けています(楽譜には① ②のみ表示)。これら三つのパターンは、こちらから一方向的に伝えるのではなく、4月の授業冒頭に子どもたちと一緒に、どのような動きが合うのかを考えていくようにしています。そこで、次のような尋ね方をしています。
実際には、① ~ ③の順で弾いていきます。どの学年、どのクラスで試しても同様の結果になるのですが、指導者が「この音は立つ音です」というように一方向的に伝えるのではなく、これくらい些細なことに対しても子どもたちに考えさせる場を提供することが必要だと考えます。
私の授業では、「①立ちましょう」「②座りましょう」「③???」としています。③は有名ハンバーガーチェーンのCMで聴く、ミュージックロゴですね。① ②だけでなく、③のように子どもが笑顔になるような遊び心を取り入れることも大切なのです。
言葉の選択をマイナーチェンジ
音楽科の授業で、指導者がよく発する言葉は、以下のようなものが考えられます。
音楽科は「技能教科」と位置づけられることもあり、「歌うことができる」「楽器を演奏することができる」というように、授業の中心を「技能」に関する資質・能力に据えてしまうことがあります。もちろん、人生を幸せに生きていくためには、「ある一定の技能」も必要です。しかし、「技能」に関する資質・能力にスポットをあて続けると、「技能」に関して苦手意識をもっている子は、音楽科の授業がつらい時間になってしまいます。私は、できるかぎり「できる人」と尋ねるのではなく、「挑戦してみたい人」という言葉を選択しています。まずは「挑戦」についてです。これは主観になりますが、「挑戦」という言葉には、どこか「前向きさ」を感じます。逆に「できる人」という言葉には、その言葉の裏に「できない人」という言葉が付きまとっている気がします。
次に「してみたい人」に関してです。こちらも言葉の選択に際してのこだわりがあります。それは「挑戦したい人」ではなく、「挑戦してみたい人」としている点です。後者には、「挑戦してみたいけれど、実際にはできない子がいてもいい」という意味を含んでいます。技能的にできる、できないという判断基準ではなく、その子が「挑戦してみたいかどうか」を尋ねることで、「学びに向かう力、人間性等」も少しずつ育てていくことにつながると考えています。
授業の様子
歌唱共通教材に関する「尋ね方」をマイナーチェンジ
歌唱共通教材(以下、共通教材)は、小学校学習指導要領(平成29年告示)には、各学年4曲の全24曲が掲載され、歌唱教材として取り扱うことと示されています。しかし、授業時数との兼ね合いやバランスのよい学びを考えると全24曲の全てに対して「深い学び」を実現することは難しい状況にあります。したがって、「楽曲を数回歌って学びを終える」ような授業の姿もあるのではないかと想像します。三つの資質・能力に改まった指導要領をきっかけに、その学ばせ方をマイナーチェンジしてみてはいかがでしょうか。
そのマイナーチェンジを端的に表すならば、「歌う」を中心に置くのではなく、「楽曲と子どもが関わり合いながら」学び進めていくためのチェンジです。さらに言うと、指導者が一方向的に「この曲は○○のように歌ってみましょう」と伝えるのではなく、共通教材に対しての子どもの「みえ方」を大切にして授業をデザインするということです。 それでは、「春の小川(3年)」を例にあげて、その実践を紹介していくこととします。
これは、音楽の構造に関して目を向けるための尋ね方として有効です。春の小川の旋律を見ると、「a-b-c-b-」になっています。子どもたちは実際に旋律を聴いたり、楽譜に目を向けたりしながら、「3段め(9-12小節め)は、必ず教えてほしい」となります。そして、「全て4分音符でできていること」や「3段めだけ旋律の雰囲気が異なること」に自ら気付いていきます。
この尋ね方は、本校教諭の髙倉弘光氏も同様のことをしています。ここには「一つの正解」はありません。子どもは感性を働かせながら、そして、自己のイメージや感情と結びつけながらさまざまな考えを生み出していきます。そこで伝える言葉がけは「ここでの正解は、音楽と自分自身の中にあればいい」ということです。
この尋ね方は、「思いや意図」をもつことにつながるような尋ね方です。ここで子どもたちが選ぶ言葉は、「さらさら」「小川」「こぶな」「優しく」「美しく」などです。そして、それらの言葉を「歌を通してどのように表現すると相手に伝わるのか」を考えていくと、「自然で無理のない歌い方」の実現にも近づくのです。
「春の小川」板書の一部
さて、今回は授業デザインのマイナーチェンジを三つの視点からご紹介しました。子どもが音楽活動の楽しさを体験することができるようなマイナーチェンジ、先生方も新年度を機会に考えてみてはいかがでしょうか。