中学校音楽:作曲家が語る新しい合唱教材
作曲家
作曲家
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 2023年10月号より〉
「Bright Future」の歌詞を初めて読んだときにイマドキの歌詞だなと感じました。歌詞がもつ「答えがない感じ」が、生徒がもつ探究心や好奇心に寄り添ってくれるのではないかと思っています。
生徒たちにとって、この曲がこれからの時代--Bright Future〈明るい未来〉を作る原動力になってくれれば嬉しいです。
演奏のポイント
(1)前奏
演奏するときは、イマドキのポップスを思い浮かべていただけると、表現のイメージがしやすいかもしれません。最近の音楽を聴いていると、明るさと暗さの狭間のような響きが多く聴こえてくると思います。この曲の前奏も、長三和音と短三和音が組み合わさった9の和音で始まるので、そんなイマドキの雰囲気を演出してください。
(2)練習記号A
12小節め「― ture」の音に下降するグリッサンドの指示をしています。これは、ピッチの変化をしっかり表現するように......という意図ではありません。「― ture」の音は、短い音価が割り当てられていますが、しっかりと残響が残るように歌ってほしいなと思い、このような指示をしました。力まずに投げかけるように歌えば、自然とピッチは下降すると思います。
(3)練習記号B
このセクションから長調に転調するのでディヴェルティメントのようにリラックスして歌ってくれればいいなと思います。「輝く未来を〜」という歌詞で始まりますが、レガートで歌うのではなく、「か・が・や・く・み・ら・い・を」というようにノンレガート気味に歌ってください。伝統的な歌唱方法から逸脱していると思うのですが、イマドキのポピュラー音楽では多くみられる歌い方だと思います。現代の音楽シーンでは、この歌い方がもはや一種の文化になりつつあるのではないかと考えています。
(4)練習記号D
「何が待っているのだろう~」を16分音符で歌うのは難しく思えるかもしれませんが、歌詞のリズムを見てみると「なにが・まって・いるの・だろう」という風に3×4のリズムになっています。言葉のリズムを意識すると歌いやすくなると思います。
(5)練習記号F
この曲の山場なのですが、大げさな表現はせずにテンポを一定にキープして演奏してください。
音楽の授業は生徒の決断力を育む
日常を振り返ってみると、私たちはなにごとにも決断することを繰り返して生きていると思います。それは、音楽をするときも同じです。目から得る楽譜の情報や耳から得る音の情報をインプットしつつ、演奏行為=アウトプットを行う。これは、決断の繰り返しからなっています。
音楽科は、音楽を材料にしてどのように情報をインプットし、どのようにアウトプットするかということをたくさん経験できる教科だと思います。この経験が生徒の決断力を養い、日常生活のさまざまな決断場面に生かされればいいなと考えています。
―鷹羽 弘晃―
桐朋学園大学や附属の音楽教室などで、ソルフェージュを中心に音楽教育に携わる。NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲(「手紙」「Yell」)の編曲を手がけたほか、NHK-FM「ビバ!合唱」のナビゲーターなど、多方面にわたる活動を展開している。
「七色のツバサ」は、生徒の皆さんが自身の翼を大きく広げ、それぞれの輝く未来をつかみ取れる人になってほしい、との願いを込めて作曲した楽曲です。森由里子さんが書かれた歌詞には、「果てない明日へ 未来へ向かえ」とあります。この言葉こそ、本楽曲の中心をなすものであり、私が楽曲に込めたメッセージでもあります。
さて、昔から優れた音楽はたくさんありますが、あえて最近の音楽と昔の音楽との違いを述べるとすれば、ビート感と躍動感の違いだといえましょう。1拍めと3拍めに強拍をもち、古くから親しまれてきた楽曲をルーツとする高揚感のある旋律をもつ音楽から、2拍めと4拍めに強拍をもち、西洋で培われた文化をルーツとするビート感と躍動感のある音楽へと少しずつ変化してきました。
「七色のツバサ」は、ビート感と躍動感の要素と、高揚感のある旋律の要素の二つを併せもった楽曲です。歌うことをとおして、心の奥に感動の火を灯し、自らの課題に立ち向かっていける心を育むための教育素材たり得るよう、作曲した楽曲です。
演奏のポイント
(1)練習記号A
●ビート感と躍動感のあるリズムの表現
Aメロにあたるこのセクションでは、ビート感と躍動感をいかに創出するかがポイントです。歌唱の際は、各音をマルカート気味にするとともに、声色の明るさや元気のよさを重視してご指導ください。
一例として、楽曲中の11小節めを解説いたします。この部分の歌詞「あるから」を歌唱する際は、それぞれ「あ」と「る」の間に8分休符を、「る」と「か」及び「か」と「ら」の間に16分休符を取るようにしてください。休符の長さを正確に取ると、なおよいかと思います。
音の入りをマルカートでキッチリ明瞭にするだけでなく、歌っていない、休んでいる間の休符の長さを正確にすることにより、いっそうビート感と躍動感のあるリズムの表現を高めることができます。
(2)練習記号B
●登りつめていく高揚感のある旋律の表現
サビにあたるこのセクションをご指導される際は、登りつめていく高揚感のある旋律を、美しくレガートに表現させてください。男女の各パートが互いに力を発揮し、ともに協力し合いながら、各々の目標に向かいまっすぐに駆け上がっていく姿を想起できるような、歌唱表現を目指してください。
一例として、サビ冒頭のユニゾンからの流れを取り上げて説明いたします。女声パートが先行し低い位置から旋律を形成し始めますが、まさに成功の可否を握るのはその後に現れる男声パートです。29小節めのユニゾンで音楽的な頂点を結実させることができるように、音程を正確に、力強く、美しく歌唱させてください。
登りつめていく高揚感のある旋律の表現は、「七色のツバサ」の真骨頂ともいえる部分で、最も重要なメッセージを含む部分です。「果てない明日へ 未来へ向かえ」という歌詞が、一人でも多くの生徒の心に響き、将来への不安を乗り越える力になれたら......そして、そのために日々ご尽力されている先生がたのご指導の一助となれたなら、作曲者として喜びに耐えません。
―小林 啓樹―
東京都出身。約15年間に渡り株式会社バンダイナムコゲームスのサウンドクリエーターとして勤務したのち、2014年に独立。大型テーマパークや、ワールドワイド向け各種ゲームタイトルへの楽曲提供など、業界やジャンルを越え幅広く活動している。
本楽曲以外にも、森由里子さんと小林啓樹さんのコラボレーションにより生まれた合唱教材「青の彼方」が 混声合唱曲集music jam SENIOR 4 に収録されています。
「Bright Future」「七色のツバサ」の楽譜と音源は、Music Jam Cloud のラインアップとしてインターネットを通じて販売しております。