小学校理科:子ども自らが考察できるための段階的な指導
帝京大学教育学部准教授
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版) 2022年4月発行より〉
はじめに
教師は、子どもから問題を見いだしたい時に、ある事象を見せて「何か気が付いたことはありませんか。」と声かけすることはないでしょうか。また、思考が停止している子どもに対して、「よく考えてごらん。」と声かけすることはないでしょうか。このような声かけの結果として、本来気付いてほしい問題とはかけ離れた子どもの発言となったり、さらに思考が停止したりすることがあります。角屋(2019)によれば、問題を見いだすためにはズレのある2つの事象を提示し、それらを比較することによって問題を見いだすことができると述べています。また、その違いが起こる原因(要因)は、何と関係しているのかのように、関係付けて思考する「すべ」をもたせること、または既習事項に似たようなことがないか、関係付けて思考する「すべ」などをもたせることが大切であると述べています。すなわち子どもたちから、「問題を見いだしたい時」にどのような思考をすればよいのか、「よく考える」とは何かと関係付けて考えればよいかなど、思考の道筋を身に付けさせることが大切であると解釈できます。
さて、理科学習の考察についてはどうでしょうか。「考察を書きましょう。」と教師が声かけをしても、多くの子どもは教師の意図した考察を書くことはできないでしょう。これでは、何をすることが考察であるのか具体的な指導がなされていないからです。木下(2016)によれば、子ども自身に考察を導出させる指導が十分に行われていない傾向があると述べています。そして考察を導出する学習活動を行うためには、教師は仮説を子ども自らに立てさせる指導を丁寧に行う必要があると述べています。
これらのことから、まずは教師が考察ではどのような指導を行うことが「考察」であるのかを明確にする必要があります。そして、具体的な手立てで子どもに指導する必要があると考えます。本稿では、子どもにどのような指導を行えば、どのような考察ができるようになるのかについて、検討していきます。
どのような指導をすると、子どもは考察できるようになるのか
前述しましたが、子どもにとっては、教師の指導が無ければ何をすることが考察することになるかは分からないでしょう。つまり、教師は考察指導を段階的に行うことが大切です。そこで、次の3つについて指導を行いました。
(1)考察の書き方の提示 |
(2)教師による助言 |
(3)グループ学習における交流 |
まず(1)「考察の書き方の提示」については、初期の段階では子どもに対して穴埋め式の考察の書き方を提示し、考察に書くべき項目を示しました。
<初期の段階での考察の指導項目> |
① 結果の言語化 |
④ 関係性の確認 |
⑤ 自分の予想との比較 |
(※①、④、⑤は、図1と対応している。) |
この指導により、次のように子どもが考察しました。
<中期の段階での考察の指導項目> |
中期の段階では、考察での記述項目を増やすとともに、穴埋め式から項目提示式に移行しました。
① 結果の言語化 |
② 再現性の確認(他の班の結果も加味) |
③ 実験方法の振り返り(結果が違う班の原因も検討) |
④ 関係性の確認 |
⑤ 自分の予想との比較 |
図1 考察の書き方(項目提示式)の例
なお、「考察の書き方の提示」は、単元によって、もしくは問題によって、修正を加えて複数回の配布をしました(図1参照)。次に、(2)「教師による助言」においては、教師は子どもが考察を書く際に、つまずきのある子どもへの支援や、前の考察文への振り返りのうながしや問題や仮説との整合性についての指導を行いました。考察する際の視点を与えることで、子ども自らが考察する一助となるようにしました。最後に、(3)「グループ学習における交流」においては、考察の交流を行いました。これにより友達の考察記述を聞きながら、自分の考察の加除・訂正を行える時間の確保をしました。特に考察をどのように書いたらよいのか不安な子どもにとっては、友達から学ぶ、真似をするという意味において大変有効でした。
「ものの燃え方と空気」の授業実践
令和2年9月~10月に、小学校第6学年を対象として「ものの燃え方と空気」の学習を行いました。単元学習計画を表1に示します。
表1 単元学習計画
第1時では、火のついたろうそくに、底のある集気びんと底のない集気びんをかぶせた様子を同時に提示しました。底のある集気びんの中にあるろうそくは消え、底なしの集気びんのろうそくは消えないことから、集気びんの中の空気と関係があるのでないかという考えを見いだしました。
第2時では、空気の入れ換えがなくなったので、ろうそくが消えたのではないかという仮説が立てられました。その仮説に基づいて実験を行いました。実験後の子どもの考察は、図2の通りです。考察の書き方に沿って事実や考えが記されていることが分かります。また、考察文の追加や修正が行われていることが分かります。最後には、自分の予想との比較がなされ、結論を見いだすことができています。
図2 子どもが書いた考察の例
なお、図2は考察指導の後期の段階であり、自分が書いた前の学習の考察を参照して記述している姿も見られました。このように、段階的な考察の指導と繰り返しにより、子どもたちは考察できるようになります。
参考文献
角屋重樹(2019)「改訂版 なぜ、理科を教えるのか」文溪堂
木下博義(2013)「理科の観察・実験における小学校教師の考察指導に関する研究」日本教育工学会論文誌Vol.36、No.4、 pp. 439-449