小学校書写:地域に届け!思いをポスターにのせて
~感染症対策を「自分ごと」と捉える探究活動~
港区立港南小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (小学校版) 2021年9月発行より〉
探究をつくる
「児童が解決したい社会的課題は何だろうか。」
学習を進めるうえで、一番頭を悩ませたところです。この実践は、前任校(江戸川区立南小岩第二小学校)の6年生の担任時に行いました。私は、学校が設定した総合的な学習の時間で育てたい資質・能力を念頭に、児童をよく観察し、日常会話や行動から、児童は何に興味があり、どんな課題だと本気で解決に向けて取り組むのだろうか、という点を探りながら探究課題を決めています。しかし、この学年の児童は約3か月間の休校期間を経て、6月から分散登校で新年度が始まったため、ゆっくり児童を観察し、対話しながら探究課題を決めている時間がありませんでした。
そのなかで、探究課題を「健康で安全な生活を創造するための取り組み」としたのは、楽しみにしていた学校行事がなくなった悲しみ、感染症に対する不安を感じるなかで、健康的な生活を送る重要性を再認識することができた児童たちが多いのではないだろうかと予測したからです。そこで、この困難な状況でも、地域の感染症対策のために行動している人との関わりをとおして、児童が地域に誇りを感じ、地域貢献する姿を想定して、休校期間中に学習計画を構想しました。
学校が再開され、分散登校が終わったころに、普段の生活や社会の様子から「解決したい」と思うことを児童と一緒に話し合いました。児童には本気で課題解決に向けて取り組んでほしいという思いから、すぐに結論を出さず、少数意見も含めて自分たちの課題について話し合いました。「学級全体で取り組むべきか」「実現可能か」「楽しそうか」など、さまざまな視点を与えて話し合い活動を行いました。この全員で合意形成をする手順が大切です。少数の意見のなかに宝物となる視点が残されていることはよくありますし、「誰一人も置いていかない」という学級経営の根幹に関わる方針を児童は体験的に学ぶことができるからです。話し合いの結果、予想通り、課題は「感染症から、安心・安全なくらしを守る」に決まりました。
教科や既習事項、地域と学びをつなぐ
課題が決まり、具体的に感染症対策について何をするのかについて学級全体で話し合いました。ここでは国語「パネルディスカッションをしよう」の単元と教科関連ができました。教科書にあるテーマを「感染症対策」に変え、感染症対策についてできることをパネルディスカッションしました。発表する際には、インターネットや本だけではなく、新聞や医療関係者へのインタビュー、自分たちで実験をしてみることなど、さまざまな方法で情報を収集し、友達に思いが伝わるように内容を整理して発表しました。さらに児童は、今までの総合的な学習の経験から、ポスターを使って地域のかたへ伝える活動を考えました。
ポスターにまとめる前に、より多くの人たちに見てもらうためには、 対象を誰にして、 どこに掲示をするのかを問いかけました。新聞を使って調べていた児童の「感染者が多い20~30代の人に伝えたい。」という意見から対象が決まり、掲示場所は、より多くの人に知ってもらえるように最寄り駅や中学校、コンビニエンスストアに決めました。掲示を依頼する際には、3年生の国語で学習した手紙の書き方を参考に依頼状を送りました(図1)。
図1 ポスター掲示のための依頼状
ポスターで思いを伝える
また、指導計画として、意図的に書写の硬筆の授業が同時期になるように設定しました。相手に効果的に伝えるために「文字の太さ」や「ていねいさ」に注目させたかったからです。伝えたい思いが高まっている児童にとって、書写での学びが効果的に伝える手段としてつながり、目を輝かせながら熱心に学ぶことができました。そこで、ポスターを書き始める前に、「文字の大きさ」「ていねいさ」「文字の太さ」について視点を与え、児童とルーブリック表を作りました(表1)。その表をもとに、ポスター制作にも取り組み、完成したポスターは、最寄り駅や中学校、コンビニエンスストアに掲示することができました(図2)。掲示した中学校やコンビニエンスストアにアンケートをとると、「バランスがよく、読みやすい。」「丁寧で伝わりやすい。」という評価をいただきました。
表1 ルーブリック表(書写の教科書を分析して児童が作成)
図2 JR小岩駅に貼られたポスター(パンフレットを貼り合わせて作成)
このように、伝えたい思いに沿って、表現の場と表現方法を用意することで、身につけた知識を意識的に活用する児童の姿が見られます。あらかじめ、書写の硬筆学習からルーブリック表を作っておくことで、児童自らが目的に合わせて、自分のパフォーマンスを高めることができます。自己評価の基準が明確なので、自然と質の高いものができあがります。
教科横断型学習のメリット
これらの学びは、児童から自然発生的に生まれてきたものではありません。ましてや教師が指示し、レールを敷いた学習でもありません。事前に児童の振り返りから予測し、既習事項や年間計画から関連した事項を同時期に学習できるように計画したものです。地域のかたへ伝える活動については児童からの案だったので、即座に連絡をして許可をとり、綿密な打ち合わせをしました。
計画的な授業づくりは時として、こちらのねらいを上回ることがあります。児童の伝えたい思いは、ポスターにとどまらず、「ゆうちょ財団主催の『名言はがき等コンクール』に出展して、思いを全国に伝えたい。」と広がりを見せます(図3)。丁寧に課題をつくり、児童の思いを育ててきたので、ここでも自発的に教科関連学習になりました。教師は何も言わずとも、書写で学習した「文字の大きさ」や「ていねいさ」「文字の太さ」といった書写的な工夫を取り入れたのです。このように、意図的に教科横断的な学びをすることにより学習効果は高まり、いつでも滑らかに使える知識や技能として身につけることができるのだと考えています。
図3 児童作例(はがき)