中学校書写:生徒の書字活動と言語表現を連関させる学びのあり方について
東京学芸大学附属小金井中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 2023年4月号より〉
はじめに
国語科「書写」の学習は、教科書教材を用いて実技を行う時間が多くなると思います。それは生徒の書字能力を育成していくため、 大変価値あるものです。
一方で、生徒がさまざまに書字した文字や、可視化された「言葉や言語表現」を、生徒どうしで見合い、批評し合う過程にも、また異なる価値があると考えています。他者の書字や言語表現の意図や特徴をくみ取りながら、その価値や意味、あるいは課題を見いだしていくこと。そして、書字活動と言語表現とを結びつけた新たな学びや理解を広げ、多様化させながら、取り組みの質・量の伸長を目ざしていくことも可能であると思います。
本校における国語科、国語科「書写」の連関
本校では、1~3年の学年ごとに、「
筆者は本校国語科の授業において、
①短詩型文学中興の祖である正岡子規
②盛岡高等農林学校在学中に秩父長瀞に地質調査に赴き、多くの短歌を残した宮沢賢治
③明日香・奈良を中心として多くの歌が残されている万葉集
などを、修学旅行前後の学習に用い関連づけていきます。そして年間を通して、さまざまな行事での経験や学びを、生徒自身が俳句や短歌、万葉集に多く見られる長歌として詠み、掲示物にまとめる指導をしています。掲示物を作成する過程においては国語科「書写」で学習する楷書・行書の書体や、基本点画についての知識、字間や行間、余白に対する意識も念頭において、活動を進める必要があります。そのため、特に俳句・短歌や単元まとめなどを作成する場合、教科書p.36-37「二 楷書と仮名を調和させて書こう 5 学校生活に生かして書く」を用いて、確認を行い、構成・レイアウトを自ら考え、制作していく過程を大切にしています。
授業展開について
ここでは、第1学年で11月に行われた「北総常南修学旅行」と教科の学習を結びつけ、生徒が詠んだ俳句や短歌を、掲示物としてまとめたうえで、話し合い活動を進めた取り組みを紹介します。
授業計画
(1)単元(教材)名
「北総常南修学旅行 俳句・短歌~それぞれの作品・掲示物を味わい、批評し合おう~」
(2)単元(教材)の目標
・楷書や行書の特徴、紙面構成などを意識して、掲示物を書く。
・掲示物の、文字としての書かれ方、俳句・短歌といった言語表現の意味や価値について、それぞれ批評し合う。
(3)学習計画(3時間扱い)
授業の実際
第1時では、この3点を確認したうえで、草稿作りに入りました。その際に適宜、教科書巻末の漢字一覧表を使用して楷書・行書の書き方の例を探し、自分の制作意図にそって選択して、文字の大きさや配列などについて、個々に検討を進めていきました。自分の選んだ文字や言葉について、あえて紙媒体を使用して探す過程は、一見手間がかかるようにも思われますが、時間をかけて探し、発見していくことで得られる実感を、より強くもたせることを大切にしています。
『中学書写』を使用した草稿作りの様子
第2時では、草稿作りを進め、それを踏まえて、筆記具も選択しながら、掲示物の制作を行いました。楷書にこだわって制作を進める生徒もいれば、行書のみを用いる生徒、文字の意味や印象の違いを意識して、楷書と行書を併用する生徒も見られました。
また、行頭や行末を揃えたり、あえて斜めにずらしてみたり、大きく余白をとったりと、発展的な内容ではありますが、短冊や色紙などでの散らし書きに通ずる書き方をしている生徒も見られました。さらに、余白を用いて、俳句・短歌の内容に関わる絵をつけ加える生徒も多く見られました。以上のような過程を経て、書字についても、言語表現においても、生徒の個性を生かした掲示物を制作することができました。
楷書のみの作例 |
楷書・行書の作例 |
第3時では制作した掲示物を用いて、意見交流し合う場面を設けました。付箋を交換し、意図や思いを共有しながら、それぞれコメントを返す形をとっています。書字の意図や工夫に対するやりとりに加えて、俳句や短歌に対する感想やアドバイスもやりとりする場面としました。
これは、ときに国語科の学習と国語科「書写」の学習が結びつき共存することを生徒に実感させる場面としたかったからです。「言葉や言語表現」にさまざまな思いや意図があるからこそ、書字する際にも多くの工夫が生まれ、書字の工夫がさまざまになされるからこそ、できあがった掲示物に一人一人の個性が見出されるということを実感させます。国語科と国語科「書写」の授業で、それぞれの柱となっている「言葉・言語表現」と「書字」が、連関したり一体化したりするからこそ、生徒の学びや理解も、より広がり多様化していくのだと思います。
意見交換の様子
おわりに
教科での学習や学校でのさまざまな行事を通して、俳句や短歌を生徒自身に詠ませるという取り組みは、多くの学校ですでに実践されていると思います。俳句や短歌といった「言語表現」として制作したものを、掲示物の形をとって書字するだけではなく、それぞれの制作過程に意図や工夫が存在することを意識させ、適宜関連づけたり、一体化したりしながら、批評や価値づけする過程を設定していくことによって、国語科「書写」の授業のあり方を多様化させていくことができるのではないでしょうか。本稿をその一例として、「書字」と「言葉・言語表現」をとおして、生徒の学びを広げる一助としていただければ幸いです。