小学校社会:子どもたちが社会との関わりを感じる・考える授業
~6年「わたしたちの暮らしを支える政治」~
東京都練馬区立石神井東小学校主任教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (小学校版) 2021年9月発行より〉
授業で大切にしていること
私が授業を行ううえで、大切にしていることがあります。それは「問題や問いが、どれだけ子どもたちのものとなっているか」です。一方的に大人から与えられた問題や問いに対して、子どもたちはどこか他人事のように考えます。そうならないために、社会科の授業では、①身近な教材を扱うこと、②子どもたちに教材との関わりをもたせることなどに留意しながら授業を構成しています。本実践では、子どもたちも利用していた学童の待機児童問題を取り上げ、それが解決されたという事実から、問題意識を高めていきました。
子どもの素直な反応から授業を構成
「ぼくは選挙に行かなくていい、行く必要がないと思う。」前小単元「わたしたちの暮らしと憲法」の学習を終え、A児が書いた学習感想です。本実践では、この素直な反応を受け止め、社会や政治への関心の低さに着目して教材を選び、一人一人が社会の一員である自覚をもつための手立てを織り交ぜた授業をつくりました。学習を終えたA児は「これから自分たちが関わる政治に、ぼくも興味をもつことが大切だと思う。」と書いていました。最初は無関心だった子どもの変容が、学習感想から伝わってきます。
具体的には、「意識を視覚化する振り返り」「問いを検討する協働的な学び」「社会に参画する場の設定」を主な手立てとしました。順に紹介します。
意識を視覚化する振り返り
授業を振り返り、学習感想を書かせることはよくあります。ただ、「感想を書いてください」という教師の指示では、何を書いていいのかわからない、という声が子どもから聞こえてきます。私もそのような声を聞いていた一人でした。そこで、子どもが考えていること、思っていることを明確にするために、自分の学びをグラフに視覚化することにしました。
どのような項目をグラフで振り返るかは、子どもたちと話し合って決めました。その結果、
・縦軸...思考と参画意識 ・横軸...知識・理解 |
を意図して設定することになりました。縦軸の「自分が関われたか?」は、憲法の学習をした際、18歳選挙権について取り上げていたことで、子どもたちから自然と出されました。
子どもたちは授業を振り返り、まず自分がグラフのどこに位置付くのか考えます。そして、そこに位置付けた理由を振り返りとして書きます。そうすることで、その時間にわかったことやわからなかったこと、どのようなことを考えたのかなどを振り返りに書くことができました。さらに、子どもたちが目に見える形で自分自身の変容を感じることができます。学習中も「何か新しいことを知れたかな?」「自分から考えられたかな?」など、意識や学び方に変化が見られるようになりました。
問いを検討する協働的な学び
~多様な願いを実現するには...?~
待機児童の解消に向けた、国や地方公共団体、区議会などの取り組みについて調べてきたことを、関係図にまとめました。それぞれの立場の取り組みが最終的に「区民(私たち)」に集まり、自分たちの生活を豊かにしていることがわかります。
I 児のノート参照
ここまで「学童待機児童の問題」に着目し、学んできました。しかし、その問題の解決を願う当事者は、区の人口の1%ほどです。立場や年齢が変われば願いも変わります。そこで、多種多様な「残りの99%」の願いを実現していくために必要なことは何か、という問いについて考え、協働的に学ぶ場を設けました。
まず、自分なりに考えをまとめます。次に、少人数で距離を保ちながら交流し、自分の考えにつけたしていきます。最後に、学級全体で考えを広げたり深めたりします。全体で話し合うと「よりよい社会のあり方」について以下の意見が出されました。
【子どもたちの意見】 ・自分たちの町でできたことを他の町でも実現し、より多くの願いをかなえていく。 ・願いの重要度によって、優先順位をつける。 ・政治を進める人(議員など)へ、自分たちの願いを伝える、自分から発信する。 ・今よりも国民が政治に参加していく。 |
個人で考えていた時と比べ、政治の進め方や参画意識を高める必要性についての意見が多く出されました。また、自分のことだけではなく、みんなが幸せになる社会にしていくことが大切であると考えていました。
社会に参画する場の設定
~自分たちの考えを提案!~
学習の最後に、社会科の枠を超えて、実社会で課題に取り組む人たちと関わる時間を設けました。子どもたちから「自分たちから伝える、発信する」「今よりも政治に参加していく」などの意見が出されたことを受けて、実際に区役所や児童館の方をお招きして、自分たちの考えを提案しました。子どもたちは「現在の学童の取り組みの改善策」「中学生の放課後の居場所づくり」の2点をテーマに、様々な意見を交わしながら学び合いました。その結果、
【学童】 ・仕組み(遊び方、場所・時間の使い方)の改善 ・コロナ禍でもできる企画の提案 【中学生の居場所づくり】 ・中学生が学べる、交流できる場の確保(カフェ) |
などの意見が出されました。ゲストティーチャーの方にも話し合うなかで参加していただき、最後には意見も述べていただきました。社会科は人と直接つながることができる教科です。その方々とつながることで、子どもたちは、これまでの学習を「自分のこと」として捉えられるようになりました。
子どもとともに学ぶ楽しさを
学習指導要領の改訂により、6年では「憲法・政治」の学習が1学期になりました。少しでも政治を身近に感じ、興味をもって学ぶためには、子どもたちと関わりのあるできごとや関心の高いできごとを扱うことが効果的です。そういった教材を見つけ出すことは容易ではありませんが、意外とすぐ近くにあることも多いです。まずは、教師が関心をもつことが大切です。今後もアンテナを張り巡らせながら、子どもたちと一緒に「?(はてな)」を見つけ、授業をつくっていきます。