小学校道徳:道徳科とデジタル ―タブレット端末を用いた道徳科の授業例―
新潟青陵大学教授
〈小学教科通信 2021年5月号 ウェブ版より〉
はじめに ― 一人一台端末の時代の到来 ―
GIGAスクール構想が本格化し、全国の小・中学生一人に一台、コンピュータやタブレット端末が与えられるという時代が到来しました。その目的を端的に述べるならば、世界標準となってきている「授業の中でのコンピュータの利活用」を促していこうということです。
これからの時代、道徳科においてもICTを有効に活用した授業の展開が必要となるでしょう。
「二つの意見」をもとにタブレット端末を活用して交流を促す授業の構想
ところで、従来の道徳授業では、指導案レベルでは意見の対立を想定していたとしても、実際の授業では、児童の話し合いの流れによって議論の内容が左右されることは否めません。また、意見についても、教師が想定していたものが必ずしも児童から出てくるとは限りません。さらに、意見を出すだけで時間を費やし、十分な検討ができないまま授業が終わってしまうことも少なくありませんでした。
こうした問題点を克服するため、私が新潟県の中越道徳教育研究会(以下、「中道研」とする)の先生がたとともに開発してきたものが、「『二つの意見』を用いた道徳授業」です。この道徳授業の大きな特徴は、教師があらかじめ作成しておいた道徳的価値を含む「二つの意見」を、児童に提示したうえで検討していくという点にあります。「二つの意見」を用いた道徳授業の基本的なパターンは以下のとおりです。
[a] 教材を提示する(教材を読み込む)。 [b] (教師があらかじめ用意した、道徳的価値を含む)「二つの意見」を提示する。 [c] 相違点や共通点など、「二つの意見」の関係を考える。 [d] 自分の考えをまとめる。 |
さて、道徳授業を含めた児童相互の意見交流の場面で用いられる方法としては、クラス全体であろうと、グループごとの活動であろうと、「話し合い」などの直接的なコミュニケーションによるものが中心です。また、模造紙やミニホワイトボードをグループごとの活動でのツールとして使用する場合も多いですが、クラス全体で共有する場合には文字が小さく、見にくくなることが難点でもあります。
そこで、「二つの意見」を用いた道徳授業をもとにしながら、中道研の先生がたと以下のようなタブレット端末の活用方法を構想しました。
❶ ワークシート(付箋)に記入した自分の考えをカメラ機能で撮影する。 ❷ クラウド上に写真をアップする。 ❸ クラウド上の友達の写真を閲覧したうえで、 自分の考えを見直す。 |
この方法を構想した平成30(2018)年度当時は、GIGAスクール構想という言葉もない時代でした。キーボードなどを使うのではなく、付箋に書いたものをクラウド上に写真でアップするというのは、小学校低学年でも無理なく操作できる方法として、中道研の先生がたと考えたものです。
タブレット端末を活用して交流を促す授業の実際
ここでは、タブレット端末を活用した道徳授業の一例を紹介します。
令和元(2019)年11月13日
新潟県加茂市立石川小学校 志田美代子教諭 小学6年生対象
「ひきょうだよ」(教育出版『小学道徳6 はばたこう明日へ』)
本時のねらいは、「『ひきょうだよ』とたかひろさんに言われた『ぼく』の気持ちを考えることをとおして、たとえ『いじめはいけない』『いじめを止めよう』という気持ちがあっても、実際に行動に移さなければ、いじめる側や傍観者と同じであることに気づき、いじめに対して強い意志で立ち向かおうとする態度を養う」というものです。
実際の授業では、学習のテーマとして「いじめを止めるには、どのような心があればいいか」を児童とともに考えたうえで、「『ぼく』は自分の何が『ひきょうだ』と考えたのだろうか」と問うたあと、用意しておいた次の「二つの意見」を教師が提示しました。(「石井さん」、「川瀬さん」は教師側が設定した架空の人物です。)
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そのうえで、自分は「二つの意見」のどちらに近いかを考えるという活動に進みます。具体的には、
❶ 自分の考えに近いほうを選び、その理由を付箋に書く。 ❷ 自分の考えをタブレット端末で写真に撮り、 クラウド上にアップする。 ❸ アップした児童には、友達の考えを見させ、 自分の意見と比較させる。 |
という活動を行いました。
この授業で使用したタブレット端末は、二人に一台の状況ではありましたが、❸の場面において、児童がアップされた写真を閲覧するのにかかった時間は、5分ほどでした。
このことは、一人一人の意見を音声情報として順次確認していく方法よりも、大量の文字情報を確認する方法のほうが短時間で処理することができるということを意味すると考えられます。
授業はその後、教師の意図的な指名、色チョークを使用した構造的な板書等によって、全体での共有が行われていきました。
そして、「『助けよう』だけではなく、『助ける』と思って行動する心が大切である」というまとめのあとに、今日の学習の振り返りを黄色の付箋に書いてアップするという活動で授業を終了しました。
おわりに
今後は、一人一台の端末が使用可能となります。それと同時に、キーボードなども標準で実装されることでしょう。端末の活用については、今後も新たな方法を模索していく必要があると思われます。