小学校国語:学びを支える情報端末の活用
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭
〈小学校教科通信 2021年5月号より〉
目的ではなく手段であること
GIGAスクール構想により一人一台の学習者用情報端末の配布と高速大容量の通信ネットワークの整備が進められています。
学校現場において、情報端末を活用しながらどのように学びを深めていけるのかを考えていくことが、これからの課題だと思います。そこで大事なことは、情報端末を使うことが目的なのではなく、学びを支える手段として情報端末を活用するということです。情報端末ありきの授業構想や、情報端末を使うための学習になってしまわないように十分に気をつける必要があります。
もちろん情報端末を学習で活用できるようにするためには、操作技術を習得する段階は必要です。しかし、そのためだけの学習に陥らないように留意することが肝心です。
思考の外化を促す
学習において、自分の考えを見えるかたちで表出することが重要な思考活動です。考えたことを話したり書いたりして表出することで、思考を整理していくことになります。ノート等の紙媒体に書く場合とタブレット等を活用する場合では、それぞれのメリット・デメリットがあると思いますので、学習活動に合わせてその効果を考えて選択することが重要だと思います。
例えば、作文を書くときのことを考えていきましょう。作文を書く段階では、何度も書き直しが容易にできるタブレットを活用することは有効です。推敲する段階では、書いたことを残しておくことで、より比較・検討が可能になることを考えると、紙媒体にもよさがあります。
また、書字が得意ではない子どもたちにとっては、タブレットを使用することで書くことへの抵抗感を和らげることができ、取り組みやすくなる場合もあります。個別最適化の一つとして柔軟に取り入れることは、子どもたちの学習へ向かう意欲を高めることにもつながります。
協働的な学びを支える
学習の過程において、友達と考えを共有することで、自分の学びを広げたり深めたりすることができます。タブレットを上手に活用し、協働的な学びをより効果的に支援することが可能になります。紙媒体で共有しようとする場合は、共有できる範囲が限定されてしまったり、時間差が生まれたりしてしまいます。しかし、授業支援システムを導入することで、一斉に、かつ瞬時に共有することが可能になります。また、友達の思考過程を確認することもできますので、子どもたちは必要に応じて自分の考えを広げる機会を得ることができるようになります。
例えば、本校ではMetaMoji ClassRoomを導入して授業で活用しています。
おすすめの本を紹介する読書活動では、本の表紙をタブレットで写真に撮り、Word等に貼り付けて紹介文を書きます。文字入力は、キーボードでも手書きでも可能です。あらかじめ作成しておいたクラスのフォルダにアップロードすると、子どもたちはクラス全員分のおすすめの本を、手もとで一気に確認することができます。
教師は、全員の作業状況を画面で確認することが可能ですので、操作に困っている子どもを見落とさずに助言したり、参考にしてほしい書き方を効率的に全体へ共有したりすることができます。
読んだ本の感想を日常的にアップロードすることで、読書カードの代替になります。自分自身の読書歴として過去に読んだ本を振り返ることもできますし、クラス内で情報を共有することで、「私もこの本を読んでみたいな。」と新しいジャンルの本に興味をもったり、読書の幅を広げたりすることにもつながるでしょう。
本校の教師が実践した活用事例を紹介します。物語文の読みの学習で、初発の感想や問いに対する自分の考えを共有する場面で活用していました。
座席表型のシートに自分の考えを書き込んでいきます。座席表型のシートを使うことで、誰がどんな意見をもっているのかをすぐに確認しやすくなります。意見が可視化されますので、話し合いをする際に役立ちます。違う意見をもっている人にその理由を聞くなど、子どもたち自身が相手や内容を選んで質問することも可能になります。
これはあくまでも一例ですので、学習の目的や内容によって、共有する内容とタイミングは十分考慮したいところです。また、その効果は吟味する必要があります。タブレットではなく、ノートに記述した場合のほうが豊かな意見を表出できる場合も大いにあります。目的を達成するための手段として、より効果的な方法を考えて、授業を構想していくことが大切です。
「自分の学び」を探求
コロナ禍でこれからの生活も不安定な状況が続くことが予想されます。子どもたち自身が自分の学びを継続できるようなシステムを校内で整備することも重要だと思います。
本校では、休校やオンライン授業が続くなかで、Microsoft Teamsを活用した課題の提出や自力学習を支援できる環境を整えました。
オンライン授業で俳句やショートエッセイ等の課題について説明し、Teamsで課題を提出します。
Microsoft Teamsを活用した課題の提出とフィードバック
Teams上でのフィードバックは、タイムリーにコメントを返すことができますので、子どもたちのやりがいにもつながります。
投稿機能を活用すると、質問したり意見交換をしたりすることもできます。与えられたタイミングではなく、自分が必要なときに自ら探求していく姿勢を育てることにも役立つと考えています。子どもたち自身が自分の学びを探求したり継続したりできる場として授業支援システムを活用し、教師が支えていくという「もの・こと・ひと」の環境づくりが重要です。
ともに学び、支える教師
デジタルネイティブである子どもたちは、教師よりもいち早く操作を覚え、情報をつかむことに慣れているかもしれません。慣れない情報端末を活用して新しい学びを創り出すことは容易ではありませんが、まずはやってみようという姿勢が教師に必要です。操作技術や知識を教えるといった従来型の授業ではなく、思考が活性化され議論が生まれるような学びを創っていくことが大切です。