小学校国語:「自分ごと」として受け止める国語の授業づくりを目ざして
埼玉県さいたま市立中尾小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
「子どもが主役」になるとは
今号のテーマでもある「子どもが主役」になるということは、学習を「自分ごと」として受け止め、見通しをもち、必要な能力を獲得することであると捉えています。ここでは、『ひろがる言葉 小学国語六上』のパネルディスカッションの単元で行った授業を紹介します。
パネルディスカッションの授業をどう組み立てるか
本単元での評価は以下のように設定しました。
【知識・技能】 情報と情報との関係付けの仕方、図などによる語句と語句との関係の表し方を理解し使っている。 (〔知識及び技能〕(2)イ) 【思考・判断・表現】 「話すこと・聞くこと」において、互いの立場や意図を明確にしながら計画的に話し合い、考えを広げたりまとめたりしている。 (〔思考力、判断力、表現力等〕Aオ) |
さらに、教科書の「ここが大事」には次のような記載がありました。
立場を決めて話し合う ・目的に合わせて資料を示すなど、自分の考えが伝わるように表現を工夫して話す。 ・たがいの立場をはっきりさせながら、計画的に話し合う。 ・たがいの意見を比べたり関連づけたりしながら聞き合い、考えを広げたりまとめたりする。 |
これを受けて、(1)立場を明確にして話し合うことと、(2)自分の考えを伝えるために、目的に合わせた効果的な資料を用意することがパネルディスカッションの授業を行ううえで大切だと捉えました。
そこで、学習者が主体的に取り組めるようなテーマを設定し、立場を明確にすることで、学習者が授業の見通しをもって取り組むことができるのではないかと考えました。
また効果的な資料を用意するために、一人一台支給されているタブレット端末を活用することで、学習者が自分の立場を明確に示すための資料を作成することができるのではないかとも考えました。
これらを踏まえ、学習者と話し合いながら学習の流れを設定していきました。
~単元の学習の流れ~ ❶ パネルディスカッションについて知る ❷ パネルディスカッションにおける主張を決める ❸ パネルディスカッションに向けた準備をする ❹ パネルディスカッションをする |
以下、立場を明確にして話し合うために行った授業の実際と、学習者がタブレットを活用し、パネルディスカッションに向けて準備をした活動について記していきます。
(1)立場を明確にして話し合うために
今回、より学習者が「討論をしたい!」と思えるようなテーマを考えたところ、学習者から「自分たちが通っている中尾小学校をテーマにしたい」という考えが出てきました。そこで単元名を「More change 中尾小」とし、学校をよりよく変えていくためには、どんな取り組みが必要かを考えていくことにしました。
学習者は4月に「図に表して考えよう」の学習で、考えや意見をまとめる方法として、さまざまな思考ツールを学習しました。それを踏まえ、下のようなピラミッドチャートを活用し、考えを明確にし、どんな資料を用意すれば自分の考えをより相手にわかりやすく伝えることができるかを考えていきました。
下に提示した学習者は、学校をよりよくするために、「そうじ中のむだなおしゃべりをなくす」という主張を考えました。それを主張するために、委員会で実施した「もくもくそうじキャンペーン」で集計したチェックカードや、委員会の担当の先生へのインタビューなどを資料として用意しようと考えていることがわかります。
(2)タブレットを活用し、討論に向け準備をする
本単元では、主体的に学習に取り組む態度の評価を以下のように設定しました。
【主体的に学習に取り組む態度】 話し合いに向けて粘り強く活動に取り組み、学習の見通しをもち、自分の考えが伝わるように資料を作成したり、討論の練習に取り組んだりしている。 |
自分の主張が決まったら、次にピラミッドチャートの一番下に書いた資料を準備しました。この準備時間は3時間設け、下のようなチェックシートを用意しました。
学習者は自己の学習を調整し、その時間に何の学習をするかを選択することで、パネルディスカッションに向けてよりよい準備時間にすることができていました。
次に、この3時間の準備時間に学習者がタブレット端末を活用し、どのような活動を行ったかについて記していきます。
まず、共同編集作業により複数人の学習者が1つのファイルに同時にアクセスし、作業を行える「Microsoft PowerPoint」を中心に発表資料を作成しました。同じテーマで主張をする学習者どうしが集まり共同で資料作成などを行うことで、効率よく資料を作成することができていました。また、これとは別に、ベネッセの「ミライシード」の「オクリンク」の機能を活用し、発表資料を作成している学習者もいました。共同編集を行う中で、的確な資料を作成しようと数人で意見を交流したり、効果的な図やグラフなどの資料を作成したりしていました。
PowerPointの活用 |
共同編集作業の様子 |
また、タブレットの動画撮影機能を活用し、先生方へのインタビューを行っている学習者もいました。休み時間などに意欲的に先生方のところへ出向き、自分が思う学校の課題に対して、意見をもらっている様子が見られました。
インタビューの様子 |
動画を確認する様子 |
さらに学習者は、資料の作成が終わったあと友だちと声をかけ合い、タブレットを活用し自分が発表している様子を動画で撮影していました。撮影した動画を何度も見直し、ピラミッドチャートを修正したり、それをもとに作成した第1発言の原稿を書き直したり、資料を提示するタイミングを練習したりしていました。何度も練習し、より相手に伝わるように考えている学習者の様子から、学びを自己調整し、よりよい第1発言を目ざしている姿が見られたと考えています。
動画を確認する学習者 |
第1発言を練習する様子 |
授業者は、これらのタブレット端末を使った学習の様子や、第1発言の練習を行う学習者の姿を、机間指導や学習計画表の振り返りから見取り、評価をすることができました。活動を選択し粘り強く活動に取り組む様子は、自己の学びを調整している姿が見られ、多くの学習者が主体的に活動しているのがわかりました。
本実践では、自己の学びを調整する場を設けたとともに、パネルディスカッションに向けた準備を通して「自分が通う学校をよりよくするためには何が必要か」ということについて考えを深めたり広げたりすることができたと考えています。「自分ごと」として受け止められる授業を展開するために、日々の教材研究や学習者の実態把握が重要になります。それを今後も意識し、学習者が「やってみたい!」「楽しい!」と思える国語授業を目ざしていきたいです。