小学校生活:「わたしの」関わり、気付き、こだわりが輝く生活科のために
~ICT「も」便利に
東京学芸大学准教授
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 2023年10月号より〉
生活科の本質であり続けるもの
生活科は、具体的な活動や体験を通して、学校や家庭、地域の人々や自然を「自分との関わり」でとらえ、気付きの質を高めることによって、自立し生活を豊かにしていくことを目ざす教科です。創設以来、学習指導要領の目標も、書きぶりの変容はあるものの、そのことは一貫しています。子どもたちが思いや願いをもって具体的な活動や体験に没頭し、繰り返し対象に関わることがなにより重要な学び方となります。だからこそ、子どもたち一人一人の『関わり』やその中での『気付き』、そして『こだわり』が輝くように支援したいものです。
ICTは豊かな体験を阻害するものではない
ところで、GIGAスクール構想により、一人一台の端末が配布され、高速通信ネットワークやクラウドが活用できる環境が各学校にほぼ整ってきました。ただ、生活科は具体的な活動や体験を重視する教科であるため、ときおり「デジタル機器などのICT活用とは親和性が低いのではないか」「自然や人との直接的なふれあいやそこでの豊かな気付きがおろそかになるのではないか」などの懸念の声が聞こえてくることがあります。はたしてそうでしょうか。もちろん、端末上で操作ばかりするような活動をするのだとしたら、生活科の理念から外れています。しかし、うまく活用すれば、子どもたちの活動をむしろ豊かにする大変便利なものです。低学年として端末操作の技能がまだ十分でなくとも、写真や動画撮影、手書き入力、その保存、共有程度であれば、手順を覚えてすぐに活用できるようになります(もちろん多少の個人差はありますが)。それだけでも、子どもたちの便利な文房具として、また教師の支援としてさまざまに活かすことができるのです。後に具体的な活動を想定して例示していきますが、大枠としては、以下のような活用ができます。
つまりICTはうまく利用することによって、子どもたちの具体的な活動や体験における『関わり』『気付き』『こだわり』の輝きを残したり、それを伝え合ったりすることを支える道具になりうるのです。
では、具体的な活動をもとに考えてみましょう。
ゴムを飛ばして遊ぶ子どもたちが
学習指導要領の内容「⑹自然や物を使った遊び」では、ゴムを使って、おもちゃの一部や輪ゴムを飛ばして遊ぶ活動が実践されることがあります。子どもたちが没頭して対象(ゴムやそれを飛ばすための材料や用具)と繰り返し関わり、気付きを得、こだわりをもって活動していくためには、教師が環境を整備することが大切な支援となります。いろいろな大きさや太さのゴム、それを飛ばすことに使えそうな割りばしや木の棒などの材料をなるべく多様かつ大量に準備しましょう。簡単なゴムを使ったおもちゃの作り方なども、子どもたちがいつでも自分の端末を使って、見たいときに動画で見られるようにしておくのもよいですね。また、心おきなく飛ばせる場を提供し、安全に遊ぶための注意事項を確認しましょう。
さて、そのような環境の中で見られる子どもたちの活動は実に愉快です。どちらが遠くに飛ばせるかの競争を始める子どもたち。より遠くに飛ばすために、ゴムの種類を変える子どもたち。太いゴムが飛ぶと思って自信満々で飛ばしたのに、予想外に飛ばずに首をかしげる子ども。それならば小さければよいのだと思い、小さなゴムを使ったのに、やはりあまり飛ばずにまた首をかしげる子ども。伸ばし方の問題なのかと、動作を変える子ども。ゴムを飛ばすおもちゃの大きさや形の改造をはじめる子ども......。さまざまな活動が起こり、その中でゴムの力や性質に対する気付きの質が高まっていきます。まさに自分の生活(遊びという大切な生活行為)を工夫し、そのおもしろさや不思議さに気付き、楽しんでいる姿です。
一見、ICTとは無縁のように思える活動ですが、ここでもICTは大いに役立ちます。例えば以下のように活用することができます。
このように、子どもたちのゴムやゴムを使ったおもちゃへの『関わり』『気付き』『こだわり』を記録・共有することで、「わたし」の輝きを振り返ったり伝え合ったりする喜びを味わうことにつなげたいものです。
「わたしのアサガオ」を育てる中で
学習指導要領の内容「⑺ 動植物の飼育・栽培」では、ほとんどの学校で1年生はアサガオを育てる実践が行われているのではないでしょうか。一人一鉢のアサガオを育てる......それを「作業」のようにやるのはとてももったいなく、また生活科の理念から外れることになります。全国には、子どもたちが「わたしのアサガオ」にこだわって関わることができるように、多様な活動の工夫や環境を準備する素敵な実践があります。
例えば、「あなたのアサガオの種さんが好きそうな鉢はどれかな。選んでみよう」といって、複数の色や形の鉢を準備している実践があります。みんな同じ栽培セットの鉢を使うことも多いですが、学校で多様かつ多数の鉢を一度準備し、次の年も下の学年に譲っていけば、可能な実践です。支柱も同様です。つるが伸びてきたら機械的に支柱を立てさせるのではなく、「つるが伸びて踏まれそうだよ。かわいそう」と子どもが思って声をあげるから、教師は支柱の存在を知らせるのです。支柱も複数の色や手ざわりのものを用意しておき、「あなたのアサガオさんがつかまりたそうな支柱を選んでいいよ」と伝えれば、子どもは自己決定していきます。「わたしのアサガオが喜びそうな鉢」「わたしのアサガオの種から出た双葉の形」「わたしのアサガオが好きそうな支柱」「友達のアサガオとはよく見ると違う葉の大きさ」「はじめて咲いたわたしのアサガオの花」「今日は3つ咲いた」「今日はたくさん咲いた」「ちょっとずつ茶色になってきた」......それらは「わたしのアサガオの成長物語」であり、「わたしのお世話物語」です。子どもたちはアサガオとの関わりの中で、たくさんの思いや願い、気付きをつぶやき、また文字で表現するでしょう。スケッチをするのも素敵です。そのようにして、他の誰でもない「わたし」が、「わたしのアサガオ」へのこだわりを高めることによって、それがかけがえのない生命をもっていることや成長していることを実感していきます。
このような植物を育てる実践においても、ICTは子どもたちの活動や振り返りを豊かにする道具になります。例えば以下のような活用です。
このように、「わたし」や「わたしのアサガオ」を振り返ったり、家族や教師にその『関わり』『気付き』『こだわり』を伝えたりすることにICTを活かし、育てることや学びの喜びを味わってほしいものです。
ICT「も」活用した二つの事例を紹介しました。ICTは豊かな活動や体験を阻害するものではありません。使い方次第で、子ども一人一人が自身の学びを豊かにするために役立つ道具になります。各現場で工夫し、大いに活用されることで生活科の輝きがさらに増すことを願っています。