小学校音楽:デジタルツールを用いた音楽学習の取り組み
信州大学教育学部准教授
〈小学教科通信 2021年5月号 ウェブ版より〉
はじめに
2020年は、新型コロナウイルス感染症対策として、大学の授業のほとんどがオンラインで実施されました。手探りで授業を行う日々が続きましたが、オンライン授業の良さや、今後に活用できそうなデジタルツールを見いだすことができました。本稿では、教育学部における実践の一部をご紹介します。
「Zoom」によるオンライン授業
Zoomでの授業は、試行錯誤の日々でした。歌声やピアノの音が雑音と認識されてしまい、うまく演奏している音が拾われなかったり、タイムラグがあるためアンサンブルができなかったりと、実技演習には困難が多いことが判明しました。その中で、リコーダー演習はうまく進んだ点がありました。大教室の講義では、教員のお手本の運指が見えにくかったり、大人数のリコーダーの音が鳴り響く中で練習しなければならなかったりしていましたが、オンラインでは、教員と受講生が一対一のような形で進むため、「家庭教師の先生に習っているみたいでわかりやすい」という肯定的な意見がありました。さらに、個人練習の時間に、「静かな部屋の中で、一人で集中して練習することができた」という声もありました。実技発表会は、初の「動画提出」で行いました。あらかじめスマートフォンなどで各自のリコーダー演奏を録画し、授業時にZoom のブレイクアウトルーム(グループ・セッション機能)を活用して、個々の動画発表と感想を述べ合う場を設けました。「何度も録画し直して納得いくものを提出することができた」「いろいろな人の演奏を聴いて、個々の音色やリズムの取り方がこれほど違うものかと驚いた」など、演奏を録画しながら自身の表現を高めたり、動画の鑑賞を通して個々のよさや表現の違いを読み取ったりしている姿が見られました。オンライン授業では、他者と音を合わせることは困難ですが、個々の技能の向上や鑑賞活動には有効であると感じました。
画面越しにリコーダーの運指を解説
動画ソフトを用いた作品づくり
体のいろいろなところを打って音を出すアンサンブルについて、今年度は、遠隔アンサンブルによる動画作品を作成することにしました。動画編集ソフトは、Wondershare Filmora(フィモーラ)が主に使用されました。このソフトでは、複数の動画を組み合わせて、一つの画面上で再生することができます。
受講生は、コロナ禍にて音楽の新たな表現方法を学ぶ機会になる、と張り切って作品づくりに挑んでいました。音源を聴きながら個々で撮影し、それを動画編集ソフトで組み合わせていきました。授業欠席者が無料電話アプリで授業時の話し合いに参加したり、授業外でも自分たちで無料テレビ会議アプリを開いてアイディアをまとめたりするなど、遠隔での協力体制を取りながら課題を進めていました。ぴったりとタイミングを合わせることが難しく、編集する上で多少のズレが生じてしまうという困難な面もありましたが、「皆で話し合いながら作り上げるのが楽しかった」「予想以上の作品に仕上がり、大きな達成感を感じた」などの肯定的な感想が多く見られました。今後も、遠隔アンサンブルの可能性を探っていきたいと感じています。
Filmoraを使用した遠隔アンサンブル作品
「Scratch」を用いたプログラミング
小学校でもプログラミング教育がスタートし、Scratch※を用いた実践も広まってきているようです。音楽とプログラミングの関係について、授業で紹介することにしました。
まず始めに、音符や休符は、長さの割合によって別々の記号で示されており、これらを組み合わせてリズム・パターンや旋律をつくることができる、という音楽のきまりの基本的なことを示しました(図1)。4分音符を「1」とした場合、付点4分音符は「1.5」という数値で示すことができます。8分音符ならば4分音符の半分の長さになるので「0.5」で、16分音符は「0.25」となります。こうした長さの割合について知ると、「音楽って意外と数学的な考え方でできている」ということに気づくことができます。
図1. 音符と休符『新版小学校音楽科教育法』教育出版
2018年、p.182に筆者が加筆(編集部にて一部表を作成)
上記の考え方に基づき、Scratch にて音を設定していきます。Scratch の音を挿入する機能においては、低音から高音に向けて、黒鍵を含めて連続した数字が振られており、各音について長さや音色を設定できるようになっています。
ごく簡単な具体例として、クマ・鳥・雲のアニメーションと音を連動させたものを紹介します。
一匹のクマがのっしのっしとゆっくり歩いている様子について、低音のド(36)・ソ(43)の4分音符(1)でマリンバの音を当てはめ、足音をイメージしたリズム・パターンとしました。続いて、鳥が楽しげに鳴きながら飛んでいる様子について、中音域ミ・ミ・ソ・ソの8分音符(0.5)のエレキギターの音を設定しました。空に白い雲が風に揺られて進んでいる様子について、高音域のソ・ラ・ソ・ラで16分音符(0.25)のオルガンの音をあてはめました。クマ・鳥・雲の各アニメーションについて、「次のコスチュームにする」という機能を追加しておくと、動きのバリエーションを増やすことができます。さらに、「もし端についたら跳ね返る」「回転方法を左右のみにする」「繰り返し」などの機能を設定し、 スタートボタン(旗印)を挿入して完成です。
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図2. Scratch の画面
今回は、低音域・中音域・高音域の音を各アニメーションにあてはめ、さらに、4分音符・8分音符・16分音符の違いがわかりやすい事例を提示しました。Scratch は、たとえ読譜や記譜があまり得意でなくても、楽器演奏が苦手でも、直感的に音楽づくりに取り組むことができるツールであると感じました。
おわりに
新型コロナウイルス感染症予防対策として、飛沫感染の可能性がある歌唱や合奏などの活動が制限されてきました。こうした中で、デジタルツールを活用した新たな音楽学習の形を模索していくことにより、改めて、音楽の楽しみ方やよさに気づくことができました。
※Scratch は、MIT メディア・ラボのライフロング・キンダーガーデン・グループの協力により、Scratch 財団が進めているプロジェクトです。https://scratch.mit.edu から自由に入手できます。