中学校音楽:新時代の表現活動
~ICTの有効的活用方法を探る~
カリタス女子中学高等学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (中学校版) 2022年4月発行より〉
私の勤務校では、配信機能を用いた学習支援アプリを使用して授業を展開しています(本校はiPadを導入しています)。コロナ禍でのオンライン授業が始まった頃は、どのように音楽の授業を展開すれば良いか試行錯誤の連続でしたが、発想を変えることで、オンライン授業においても生徒は熱心に取り組むようになりました。学習支援アプリ(ロイロノート)を用いた、その実践例をご紹介いたします。
オンライン授業でのリコーダー学習
リコーダーの授業は飛沫があり、一斉に生徒が介する場では取り組みが難しい楽器ですが、オンライン授業で演奏する分には、飛沫を気にすることなく演奏できます。「今だからこそ」積極的に活動できる楽器だと考えました。
教材は、著作権による保護期間が終了している「Happy Birthday to You」とし、知人の作曲家に頼んで4パートに編曲してもらったものを使用しましたが、編曲を含めて使用する教材の著作権については注意する必要があります。著作権法第35条で示されている事項について、生徒が十分に理解しているとは言い難いためで、私は毎時間注意を重ねるようにしています。
教材の楽譜
生徒には次のように課題を提示しました。
編曲上の工夫
前半8小節がヘ長調、後半8小節がト長調で、アルト・リコーダーの初級者がつまずきやすい「ファ♯」や「シ♭」、サミングの必要な高いドやレが使われています。また、曲が後半へと進むに従い、演奏の難易度も上がっていくようになっています。生徒は本楽曲を知っているうえに、この楽曲に対するイメージを持っています。よって、曲の後半で演奏の難易度が上がっても「最後まで吹きたい。」という気持ちになり、自然に指使いやタンギングを知りたがり、練習にも集中していきました。
転調による曲調の変化やその効果についても、自然に感じ取ることができるように編曲されています。転調の前後で使用されている音が変わるため、生徒は調ごとの構成音の違いに気づくことができ、知識としても転調について知ることができるようになっています。
ロイロノートで演奏のレベルアップ
この課題は、教員による各パートの模範演奏をロイロノートを使って生徒に送信し、その音源を参考に生徒は練習します。これまでの対面授業では、教員が一度範奏すると、あとは生徒が教員の範奏を思い出しながら練習するという取り組みのかたちになっていましたが、端末があることで、生徒が何度も範奏を確認しながら、自分が演奏できない部分を確認することができます。
生徒が自宅でオンライン授業に取り組む中で、具体的な指使いやタンギングの仕方、音や旋律のイメージといった質問を生徒から随時チャットで受け付け、必要に応じてリアルタイムで指導しています。そして、授業の終わりに各生徒が演奏できたところまでを端末に録音し、感想を記入したカードとともに教員まで提出します。
「高い音が鳴らない。」
「楽しかったから全てのパートを演奏した。」
といった感想が実際に寄せられました。教員はそれぞれの生徒の録音を聴き、良かったところと改善点をロイロノートのカードに記入し返信しています。演奏の学習履歴を記録することができ、生徒が自分の成長を実感できるのがとても良いです。提出された演奏は4小節程度のものから、最後まで演奏されたものまでありましたが、一人一人の学習の達成状況に応じた個別学習が可能なので、次回の提出の際にはレベルアップした演奏の録音が提出されます。
上の画像はある生徒とロイロノート上でやりとりしたカードです。この生徒には譜面の途中に矢印で示したように、パートをまたいで演奏するように指示しました。このように演奏する部分をカスタマイズすることで、メロディを演奏することも可能です。
コメントを記入したカード
生徒が演奏し提出した音源を聴き、赤字で示したようなコメントを返信しました。
一人でアンサンブル体験
更にもう一つ、ICT端末を使用することでアンサンブルを一人で体験することも可能です。
これは「レベル4(誰でも)アルト・リコーダーで他のパートも吹く。」の発展です。録音した音源は、再生速度を変えられるので0.6倍速などを選びゆっくり演奏することができます。各生徒のレベルに合わせたアンサンブルが可能なので、どのレベルの生徒でも取り組むことができます。また、このアンサンブルは個人での取り組みとなるので、アンサンブルがうまくいかないことを自分の課題として捉えることもできます。多くの生徒が、最初は0.6倍速の再生速度で演奏していましたが、最後には本来のテンポで演奏できるようになっていて、ICT活用の有効性がアンサンブル学習でもみられました。発展として別のアプリを使い録音データを編集することができる生徒は、全パートの重ね録りをして「一人アンサンブル」として完成した演奏作品を提出することもできます。更にICTの活用を模索しているところです。
課題
最後にオンライン学習の課題について少しだけ述べたいと思います。一人で学び続けられる生徒は、個別で学ぶことのできるオンライン学習の有効性を享受することができます。しかし、自立的な学習が難しい生徒にとっては、こういった取り組みはやや難しい様子でした。
自宅でのオンライン授業では、生徒の周りに一緒に活動をしている友達がいません。音楽をしていても共感や協働している感覚が得られず、モチベーションを上げるのが難しかったようです。また、いつもならもらえる友達からのちょっとした援助がないので、授業中は教員の援助が継続していてないと、つまずきが解消できない様子もみられました。更に、自宅の環境によってはリコーダーの演奏をすること自体が難しい場合もありました。
課題はありますが、生徒が登校できない時に「学びを止めない」という意味では、オンライン学習に取り組む意義は大きいと感じています。引き続き、オンライン学習の可能性をより研究して、生徒にとって必要な時に必要な支援ができるようにしていきたいと思っています。