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提言「はじめてのGIGAスクール実践」(中編)

東京学芸大学准教授 高橋たかはし じゅん

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東京学芸大学教育学部・准教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー(2020年~)。教育工学,教育方法学,教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年~),文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員(2019年),文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年),文部科学省「学校業務改善アドバイザー」(2017~2019年)等を歴任。

3. まずは先生が慣れること。それを授業に生かそう

新しいことが多くありますので,まずは先生が慣れるところから始めるのが重要です。いきなり授業で使うのではなく,まず業務の中で使ってみましょう。その際,

・試しに,使ってみる

・よかったら,続けてみる

・ダメだと思ったら,やめてみる

これくらい楽な気持ちで,どんどん業務で活用している地域が成功しつつあるように思います。授業で子どもに一人一台端末を活用させる前に,先生自身が職員会議や教員研修で一人一台端末,クラウドをフル活用してみて,そのメリットや限界を身体的に理解することが重要です。

現在のクラウドサービスは,機能が多岐に及んで,使い勝手のよいものが多く,業務でも授業でも同様に使えるくらい完成度が高いと思っています。従来のICTサービスは専門的な部分もありましたので,学校では子ども用ソフトや教育専用ソフトを活用することが一般的でした。しかし,今やスマホなどで子どももICTに慣れてきていますので,一般的な大人用のソフトでも上手に使えます。先生にとっても,わざわざ教育専用ソフトの使い方を覚えて,習熟して,指導法を考えるのは大変です。ふだんから業務に使っているソフトを授業でそのまま使えるのであれば,指導法の研修だけで済みます。例えるならば,子どもの成長に合わせてサイズを変える「バイオリン」から,大人と同じ楽器で最初から練習する「ピアノ」を使う時代になった,といえます。

子ども用ソフトや教育専用ソフトの活用も効果的ですが,子どもたちが卒業したあとも役立てやすいノウハウを学べるという意味でも,汎用のクラウドサービスをまずは活用してみてはいかがでしょうか。

4. 基本的な操作・情報活用スキルを指導する

「子どもは使っているうちに自然とICT の操作を覚える」というのは,よい考えではありません。試行錯誤しながら「なんとなく使える」ようになるだけのことで,ワープロで行頭を確実にきれいに揃えるとか,表計算ソフトで関数を使って効率的に計算するとか,データサイズを意識するとか,そういったことは指導する必要があります。一度指導すればずっと使えるスキルですので,適切な発達段階で指導していきましょう。

本学の2年生188名へのアンケート結果では,パソコンが「とても得意」と回答した学生はわずか2.1%で,最も多かったのは「どちらかといえば不得意」で54.3%でした。現在の大学生が,義務教育段階でいかにICTスキルを学んでいないかを示していると思います。新学習指導要領の総則によれば,コンピュータ等の情報手段の基本的な操作の習得は小学校で行うことになっていますし,その後も,技術・家庭や総合的な学習の時間などで学んでいくことになっています。

このような現状を踏まえると,まずは最も土台となる「ICT環境整備」に続いて,学習に向かう姿勢づくりや情報モラル・情報セキュリティといった「学習習慣・規律」に関わる指導が必要となります(図1)。その次に,文字入力やワープロ・表計算ソフトの活用といった「ICT操作スキル」の学習が必要となるでしょう。そのうえで, ICT操作スキルを発揮させつつ,情報を収集したり,整理・分析したりする「情報活用スキル」や,学習指導要領の総合的な学習の時間に示されているような「順序づける・比較する」といった「考えるための技法」を指導していくことになるかと思います。これらは,情報活用能力のうち,特に基盤となる部分に位置付くと考えられます。

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図1 授業でICTを円滑に活用するための基礎的なスキル等

こうした基礎的なスキル等を学びつつ,実際の各教科の授業でもICTを活用していく,という両輪走行が必要かと思います。スポーツに例えれば,図1にあるようなスキル等の学習は「筋トレ」や「ミニゲーム」であり,実際の授業でのICT活用は「試合」や「大会」といえるかもしれません。両者を上手に組み合わせることで強くなります。

5. 情報のデジタル化や情報共有から,「活動」共有へ

最初のICT活用は,とにかく情報のデジタル化です(図2)。文字をキーボードで入力する,デジタルカメラで撮影する,端末画面で手書きしたものをデジタルデータとして保存するといった活動がこれにあたります。これらを保存して,再利用するのが最も基本的な活用です。

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図2 「情報」のデジタル化や「情報」共有から,「活動」共有へ

続いて,こうして保存したデータを,先生や子どもの間で共有することになります。例えば,お互いのデータを共有して学習状況を把握するなどして,その後の学習に生かしていくことが考えられます。図画工作で作った作品を写真に撮って保存しておき,翌年度以降に後輩がそれを鑑賞し,創造の幅を広げていくといった活用も考えられます。

ただし,このあたりまでは従来の環境でもできたことですので,「なぜICTを使うのだ,紙のほうが早いではないか」という議論になりがちです。それが,図2で「無」のスタートから「ICT活用」に向かう矢印が少し右下がりになっている理由です。

その先には,一つのワープロや表計算のデータを複数人で共同編集するとか,チャットで常に情報共有ができるとか,カレンダーでスケジュールが共有されるとか,クラウドの特徴である「情報」共有が極めて活動に近いところで行われる「活動」共有の段階があります。この段階には「気がついたら,そうなっていた」ということが多く,そうなるには,先生自身がこうした活用に慣れていることが基本となります。前述のとおり,現在のクラウドサービスは操作は簡単なのですが,従来のICT活用のイメージからは概念の転換が求められますので,まずはクラウド活用に慣れていく必要があります。「活動」共有の段階,すなわち「デジタルトランスフォーメーション」は,クラウドに慣れている人が引き起こせる領域になります。

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