小学校書写:児童が主体!課題解決型の書写学習とICT活用
江戸川区立第四葛西小学校主任教諭
〈小学教科通信 2021年5月号 ウェブ版より〉
はじめに
突然ですが、みなさんご自身が小学生だった頃に受けた「書写」の授業はどんなものでしたか。
「書写」の学習のイメージといえば、
・先生が太筆に水を付けて水書板に書いてみせる。
・「手本をよく見て、形を真似て書きなさい。」「私語は禁止。」などと言われて、黙々と練習する。
・先生のところへ持っていくと、朱墨で直されたり、よくできたと大きな花丸をもらったりする。
......浮かぶのは、そんな光景でしょうか?
書写は課題解決学習
「書写」の授業における「ICT 活用」ときいたときに、なかなか実際のイメージがわかないかたもいらっしゃるかもしれません。それには、多かれ少なかれ、今もこのような授業の流れが学校現場に残っている状況が関係しているのではと考えられます。
私は書写の研究会で授業を見たり、自分が授業者となったりする機会も多くありますが、授業後の協議会で必ずといっていいほどきくのが、「書写でも話し合いの活動をするのですね。」や、「このように児童自身が課題を見つけていく書写の授業は初めてみました。」というようなお声です。
すでに実践されている先生も多いとは思いますが、お手元の書写の「教科書」をあらためてご覧になってみてください。課題解決型の書写学習をスムーズに進められるような構成になっています。
書写の授業の基本的な流れ
❶ 学習のめあてを知る ❷ 試し書きをする ❸ 基準を確認する ❹ 試し書きと教科書の文字を比べて、気をつけることを見つける(自己 ❺ 気をつけることを確かめる(課題把握) ❻ 練習する ❼ まとめ書きをする ❽ 自己評価や相互評価をする ❾ 学習したことを他の文字でも確かめる ❿ 学習を振り返り、日常生活に広げる |
指導書の解説や学習指導案などにも、流れが詳細に載っています。書写の授業の進め方に悩まれているかたでも、イメージをもちやすいと思います。
一斉学習での効果的な提示
現在でも、教室に電子黒板、実物投影機など、大型電子提示装置が整備されている学校は多いと思います。これらと、教師用のPCがつながっていれば、まず一斉学習において、さまざまなコンテンツを児童に提示することが可能です。
第3学年『力』の毛筆の学習を例にします。この単元では「折れ」と「はね」の筆使いを学びます。学習指導要領でも書写において字形だけでなく運筆の指導が重要であるということが明記されています。
その日の学習のめあてや基準文字(手本)を確認する際(❶❸)に、ただ教師が初めからポイントを伝える単純な形にするのではなく、例えばあえて『力』の一画めが「折れ」でなく「曲がり」のように書かれている文字を提示します。その際、デジタル機器で該当箇所を拡大して意識づけることもできます。
そして、どのように直せば文字が正しく整うかを話し合う活動を取り入れ、このあとの自分の課題を見つける活動が確実にできるように理解を深めさせていきます。児童はその際、「『曲がり』ではなく『折れ』のようにするんだよ!」と、字形について気づいたことを喜々として話してくれるでしょう。この話し合いでポイントを確認した児童が、自分の試し書きと教科書の文字を比べ、「折れ」の部分に課題を見つけたとき(❹)、それを解決するためのめあてをもって練習するには、運筆についての理解も大切になってきます(❺❻)。
そこで実物投影機などを用いて手元を大きく映し出し、実際の運筆の様子を視覚的に見せることは、筆使いを理解させるうえで大変有効になります。
ただ、「教師が書いて見せなければ」と思うと、「私は筆を持って書くのが実は苦手で......」と尻込みされるかたもいらっしゃるかもしれません。
そこで、誤解を恐れずにお伝えしたいのは、「先生は筆を持たなくても、書写の指導はできますよ。」ということなのです。大きな水書板を用意せずとも!
先生がたのお手元にある指導書に付属しているDVDには、運筆をわかりやすく示した動画が、それぞれの課題文字について用意されています。
『力』の運筆動画
基準を確認して課題を把握したり、練習の際に何度も繰り返し流したりするなど、さまざまな場面で活用でき、正しい筆使いをスムーズに見せることが可能です。
デジタル教科書が導入されていれば、「まなびリンク」で先ほどの運筆の動画などにすぐに飛ぶこともできます。また、教師用のデジタル教材には、単元によって内容に関連したデジタルコンテンツも用意されています。この動画を、話し合いの材料や児童の意見の価値づけとしたり、意欲を喚起したりするなど有効に活用したいものです。
個別学習の深まり
次に、これから児童が一人一台端末を持ち、インターネットで相互につながることのできる環境となっていくなかでのICT活用についてご提案します。
先ほど述べた自己批正(❹)や課題把握(❺)の場面では、確認したポイントをもとに基準文字と、自分が書いた文字とを照らして、自分の課題を見つけていきます。
現在ではこのとき、半紙に書かれた試し書きに、自分で赤でペンなどで気づいたことや課題を直に書き込んで意識するという方法を提案していますが、児童がタブレットを持っていれば、試し書きをあらかじめ撮影しておき、自分の端末のデジタル教科書の基準文字と並べて比較する、という使い方ができます。機能によっては、批正した内容を画面上で書き込むこともできるでしょう。
練習の際(❻)には、運筆の様子を確認したいときに自分の手元で繰り返し視聴することもできます。また、同じくまとめ書きとの比較もわかりやすくできるようになります(❼❽)。ポートフォリオとしての役割も果たし、一単位時間だけでなく、個人の中長期的な成長を残していくといった使い方が期待されます(❾❿)。
協働学習への広がり
書写の授業では、かつて個人の活動に終始し、書かれた「成果物としての"清書"(まとめ書き)」のみが目的になったり、教師による評価の対象にされたりしてきたところがありますが、児童のデジタル端末が相互につながれば、教材や児童が書いたものや、先ほどのような個別学習での気づきなどを共有し、課題について活発に話し合うことができるようになります。主体的で対話的な学びがさらに充実していくでしょう。
さらに、児童が実際に書く様子を互いに撮影し、それらを画面で共有し互いに見合うことによって、大切にしたい運筆へ意識を向ける授業の展開もできるのではないかと考えています。
おわりに
課題解決型学習としてのアクティブな活動がたくさん行われる書写は、実はICTと相性がよい場面も多くあります。しかしながらICTは目的ではなく、よりよい授業を行うためのひとつのツールです。「手書きの文字」をよりよく理解して書くことのできる児童を育てるために、ICTが有意義に活用されることを期待しています。
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