小学校書写:ICT端末を使用した書写指導
~主体的・対話的で深い学びを目ざして~
東京都足立区立栗島小学校主任教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
はじめに
昭和33年の学習指導要領の改訂で国語科の中に「書写」が位置づけられ、「毛筆による書写の学習は書くことの指導の一環として行うものであるから、その学習によって文字の筆順や字形をよく記憶するのに役立ち、文字や文を硬筆で書写することにも正しく、美しく書けるようにすることがたいせつである。」と記されました。「書写」の学習は、整った字形、望ましい筆順で、平仮名や片仮名、漢字をそれぞれ書こうとする態度を育成すること、整った字形で文字を書くための原理・原則を見つけ、それを生活文字(ノート等に書く文字)に反映させていく態度を育成することを目的としています。64年間、書写がねらう指導内容は大きく変わっていません。
書写の学習は「課題解決学習」そのもの
書写の学習は試し書きと基準を比べ、児童が自分のふだんの文字の書き方に課題を見つけ、その課題解決に向けて練習方法を学び、めあてに向かって取り組んでいきます。つまり、この書写の学習の流れが「課題解決学習」そのものなのです。今回の指導要領の改訂で、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が求められています。そこで、書写の学習において「主体的・対話的で深い学び」「課題解決学習」を実現するために私が心がけていることを紹介します。
主な授業の流れを以下に示しました。
❶ めあての確認(「基準の確認」のあとになるときも)
❷ 試し書き(硬筆・毛筆)(基準⦅教材文字⦆を見ないで書くこと)
❸ 基準の確認
❹ 自己批正(自分の課題設定:試し書きと基準を比べて、自分の課題を見つける)
❺ 練習(個人・ペア・グループ)
❻ まとめ書き(硬筆・毛筆)
❼ 振り返り(自己評価・相互評価)
❽ まとめ 日常生活に生かす (他の文字でも同様の原理・原則があるのか確かめていく)
児童が課題を見つけられるように
図1の教材文字は、「筆順と字形の関係を理解し、字形を整えて書くことができる」ようにすることを目標としています。「一画めは短く書く」「二画めは長く書く」「はらいの方向に注意してゆっくりはらう」などといった書字のポイントがあります。「❸ 基準の確認」では、教師がこれらを教えるのではなく、児童が基準のどこを見ればよいのか、ヒントを示しながら、課題が見つかるように視点を与え、めあてに即して指導していきます。「手本を見て書きましょう。」という指示で、学習させるのではなく、「❹ 自己批正」で気づかせたいポイントについて思考させ、対話のなかで児童自身が気づき、自分の課題を見つけることができてこそ、課題解決学習に向けて主体的に取り組み始められるのです。
図1 教材文字
硬筆指導に生かすための毛筆指導
毛筆指導は毛筆で、ただ上手に書けるようにすることがねらいではありません。硬筆指導以上に点画のつながりを意識させ、筆使いをわかりやすく理解させることができるため、硬筆指導で見落としがちなポイントを毛筆指導ではおさえることができるのです。
しかし、ふだん使い慣れていない毛筆を、正しい筆使いで字形を整えて書くことは難しいものです。図1の教材文字はあくまで「字形を整えるのに筆順が大切だ」ということを理解することが目的であると意識させましょう。
学習したことを生かせるようにするために
「❺ 練習」や「❻ まとめ書き」をするときなど、話し合いや友達どうしの学び合いを取り入れ、主体的・対話的で深い学びとなるように留意しています。例えば「❺ 練習」では、書いた文字について、友達と「『右』の一画めの右はらいは短く、二画めの横画は長く書けたね。」などと、学習した書写用語を使わせて、お互いにアドバイスし合いながら行うことで、対話的な学習ができるようにしています。理解させたことを技能として身につけられるように机間指導もしていきます。
さらに、「❽ 日常生活に生かす」時間を必ず設け、書写の学習を日頃の書字活動(宿題、ノート等)に生かせるようにしています。担任が根気強く指導し続けることが大切なことだと思っています。
主体的・対話的で深い学びを支える
ICT端末の活用①
図1のような教材文字を扱う際は、分解文字を使って、画の長さや方向に着目させる指導をしています。以前は画用紙で作成した分解文字を一、二名の児童が黒板に貼り、それを学級全体で確認していました。現在は一人一台端末があることで図2のように作成したデジタル教材を使って、各自が操作することで、画の長さと筆順の関係に気づくことができ、基準への理解がさらに深まりました。
また、指導者用デジタル教科書や「まなびリンク」には、書字過程の示範動画があります。練習時には教室の電子黒板に連続再生しておくことで、児童はいつでも確認ができ、自分のペースで練習に取り組むことが可能になります。
図2 分解した点画を児童が組み立てた例
ICT端末の活用②
「「結び」の筆使いに気をつけて書こう」を目標とした教材文字『はす』では、「❺ 練習」において、近くの友達と書字過程を撮影し合い、その映像を見ることで、自分がどんな筆使いをして「結び」を書いているか、改めて確認できたようです。(図3)また、書いた文字について自ら確認したり、友達とアドバイスし合わせたりしました。
「『は』の一筆めのはねが二筆めにつながるように書けているね。」「『は』の結びは横結びになっていて終筆はいいけれど、教材文字みたいに曲げられていないね。どうしてだろう。」などと、できている点は認め合い、改善点はアドバイスを出し合い、何度も振り返り練習することで、点画の形と筆使いの関係を理解していました。図4の右のように、赤ペンで記した自分の課題も、左のまとめ書きでは、練習を生かして正しい筆使いで書けるようになりました。
図3 活動の様子
図4 まとめ書き(左)と試し書き(右)
おわりに
ICT端末を取り入れた学習は、今まで児童が各自で行えなかった活動をできるようにしたり、点画のつながりを確認することができたりと、書写の学習において大変有効です。児童の課題を明確にし、正しく整った文字の書き方を学ばせ、手書き文字を大切にできる児童の資質・能力を伸ばすためには、指導の質を高めることが大切です。そのためにも学習過程を見直し、書写の学習においてもICT端末を効果的に活用していきましょう。