小学校社会:社会科の指導に役立つデジタル・ICT
~学校現場における活用についてインタビュー~
新宿区立四谷小学校校長
〈小学教科通信 2021年5月号 ウェブ版より〉
―学校のICT環境の整備が進んできています。社会科の授業では、デジタル版の教科書・教材、インターネットやデジタル端末をどのように活用しているのか?学校現場の実際の様子をおうかがいしました。
―最初に、「デジタル教科書(指導者用)」の利用実態についてお聞きしたいのですが。御校では、社会科の授業の中で、どれぐらい使っていますか?
石井先生 単元のまとめの時間以外は、ほとんど毎時間使っています。5年の担任は「デジタル教科書がないと、不安になる」とまで言っています。
―そこまで浸透しているんですね。どういう使い方が多いのでしょう。
石井先生 社会科はやはり、写真や図の拡大表示ですね。これまで「教科書の〇ページの右上の写真を見て...」と、一つの資料に注目させるのにも時間がかかったのですが、デジタルで拡大表示すれば一発で視線が集まります。これだけでも、教師としてはだいぶ助かります。
これまでも、大事な資料は教科書を拡大コピーするなどして掲示していましたが、デジタルはそういう準備の手間や費用も省けます。
―授業の始めから、デジタルで拡大表示した資料に注目させる、という使い方が多いですか。
石井先生 そうですね。授業や単元の導入で見せることで、その後の方向付けがしやすくなります。社会科では「今」と「昔」、「暖かい気候」と「寒い気候」など、資料を比べて疑問や関心をもたせることが多いですが、デジタル教科書では複数の資料を「並べて比べる」ことも簡単にできるので、便利です。
―疑問や関心をもたせる、という点で、ほかにも効果的なところはありますか?
石井先生 たとえば、5年p.143の「国内で使う原油にしめる輸入の割合」ですが、最初は輸入と国産の割合が表示されていません。
まずはこれを見せて、「どれぐらい輸入していると思う?」と投げかけます。予想させたあと、右下のボタンを押して輸入の割合を表示すると...
ほぼ100%が輸入とわかり、自分の予想と違った子どもたちは驚きます。この驚きから、「他にも輸入がほとんどの資源があるのでは?」「貿易がストップしてしまったら、生活はどうなるの?」といった問いが生まれてきます。こういう効果的なグラフの見せ方も、デジタル教科書なら簡単です。
教科書紙面を見たらもちろん答えは書いてあるわけですが、デジタルでは紙面を伏せたまま、資料を順に見せていくコツもあります。授業の前に、重点的に見せたい資料をあらかじめ拡大表示させておくのです。そうすると、画面下のタブで各資料をすぐ切り替えて表示できるようになります。細かいところですが、こういう機能も活用することで、授業が組み立てやすくなります。
―デジタルと紙の教科書で違うところといえば動画資料がありますが、どれぐらい使っていますか。
石井先生 事前に動画の内容を確認する時間がとれなかったときは、使わないケースもあるようです。ただ、働く人の話や作業の動画は、事前に見なくてもある程度内容がわかりますし、やはり写真よりも臨場感がありますから、ほぼ全部視聴しています。子どものほうが動画アイコンを見つけて、「見たい!」と訴えてくることもあります。動画コンテンツはやはり興味をそそられますよね。「教材への働きかけが、主体的になる」と、先生方も感じているようです。
使い方としては、「農家の三輪さんに、米づくりの中で気をつけていることを聞いてみましょう」と投げかけてから見せたり、「資料から読み取ったことを、映像を見てみんなで確かめて、わかったことをまとめましょう」というように目的をもたせて見せたりしています。
―デジタル教科書のほかに、社会科の授業でICTを活用する場面はありますか?
石井先生 オンライン会議システムを使って、遠隔地の人に話を聞く機会を設けました。例えば5年の食料生産の学習では、当校の姉妹校がある山形県天童市のJAの方とオンラインでつなぎ、米づくりの新しい取り組みについてインタビューしました。
映像+音声のやりとりはデータ通信量の面で従来のインターネット環境では使用に不安がありましたが、「GIGAスクール構想」のもとで環境が整備されれば、その不安はなくなります。リアルかオンラインかにかかわらず、実社会の人たちから話を聞く機会をもつことは、社会科では特に大切です。当校の先生方も、実際にやってみると「オンラインでも違和感なくできた」と言っていました。まずはやってみる、人とつながることが大事だと思います。
―見学や調査活動の幅が広がる、というのは、社会科でICTを活用するメリットの一つですね。子どもがデジタル端末を使う場面もあるのでしょうか。
石井先生 これまでは端末が2クラス分しかなかったので、使う時間に制限がありました。ただ、社会科嫌いの子どもでも、パソコンを使って調べると、やる気を出す場合があります。関係図にまとめる時に、内容の記述ではなく、線や図を描くのが苦手でつまずくケースがありますが、デジタルではそういった技能の差が緩和されます。多様な子どもたちがいるのだから、ツールも多様なほうがいい。そういう意味でも、「1人1台端末」はメリットがあります。
最初は目新しさもあってデジタル端末を使うことに関心が集まるでしょうが、使い慣れてくれば、子ども自身で紙に書いてまとめるか、端末を使ってまとめるか、考えて選ぶようになっていくでしょう。
―デジタルばかりに頼る必要はないし、実際に使ってみるとそうはならない、ということですね。
石井先生 教師が学習のねらいに応じて、ICTを柔軟に活用する姿勢が求められます。デジタルは修正・加工・提示がしやすい長所がありますが、裏返せばすぐに消えてしまう短所になります。板書では重要な資料は従来同様、紙で出力して掲示することも必要です。これまでの先生方の指導技術とICTの機能を融合して、わかりやすい授業が期待できます。