小学校社会:GIGAスクールで広がる、児童主体の授業づくり
神奈川県相模原市立小山小学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 2022年9月号より〉
はじめに
1人1台のタブレットPC環境で、授業づくりの可能性も広がりました。今ある授業にタブレットPCが加わるのではなく、「鉛筆・消しゴム・ノート・タブレットPC」のように、教育の新たな前提条件となりました。今こそ、1人1台の環境下における授業づくりとは何か、学びとは何かを見つめ直すよい機会だと思います。
1人1台の環境を生かすためにはPC操作の慣れが不可欠で、常日頃から活用していく必要があります。そこで、資質・能力の育成を目ざしたタブレットPCの日常的な活用について、5年生の社会科の実践をもとに振り返りたいと思います。
Google Classroomに3種類の電子資料を準備
単元ごとに3種類の電子資料を配付しました。ファイルの名前で混乱しないように、資料提示用を「スライドA」、個人の振り返り用を「スライドB」、授業ごとに調べてまとめる活動用を「ジャムA」と名づけました。
3種類の電子資料をGoogle Classroomで配付
これらの電子資料と、教科書、ノートを中心にして学習を進めました。基本的なICT操作スキルは、適宜指導しました。3種類の電子資料の活用ポイントについては、以下のとおりです。
(1)児童が活用する資料を多様にする「スライドA」
Googleスライドを使って、教科書資料を中心にしながら児童に提示する資料をまとめました。スライド上に、学習内容に合わせて統計資料や動画やウェブサイト、地図、Googleフォームのリンクを貼り付けました。タブレットPCを使うと、児童が教科書以外の多様な資料を選ぶことが可能になります。
「スライドA」や教科書の資料をもとに、津波対策を調べる
また、資料の一部をブラインドで隠して焦点化するなど、加工編集することも簡単です。グラフの変化に着目させたいときは、段階的にブラインドを減らして予想させながら提示しました。
国内の工場数や働く人の数の減少を読み取れるグラフの提示
これらの資料は、教師が提示するだけでなく、児童と共有しておくことで、児童が必要に応じて選んで見たり、繰り返し見たりすることができるようにしました。教科書と「スライドA」の資料を自分なりに使い分けながら学習する主体的な姿が見られました。
(2)児童が調べたことをまとめる活動を広げ、リアルタイムの共有を可能にする「ジャムA」
Google Jamboardを使って、学習課題ごとに「ジャムA」「ジャムB」と名づけたホワイトボードを配付し、児童が調べたことをまとめる際に活用しました。タブレットPCを使うと、色を使ったり写真を使ったりすることが簡単にできます。要素を繰り返し移動させたり、消したり増やしたりできることも、児童の思考を促します。各地の自然災害の対策を調べるときには、比較しやすいように以下のようなマトリクスを背景に入れました。紙のワークシートと同じように、児童の実態や学習内容に合わせた工夫が必要です。
各種災害への対策について調べたことを、個人でまとめている
また、関係する資料の画像やヒントとなるキーワードを入れておくことも有効です。調べたりまとめたりすることが苦手な児童も、そのヒントを手がかりにして教科書を使って調べたり、キーワードや画像資料を並び替えてまとめたりしていました。ヒントの中に無関係な資料を入れておくのもよいでしょう。暖かい気候の沖縄県の学習では、じゃがいもなどの画像も加え、「この資料は必要?暖かい地域の作物じゃなさそうだよ。」「調べてみたら、寒い地域で育つようだから沖縄の特産物じゃないみたいだよ。」などと調べたことを根拠にしながら、使う資料を判断するようになりました。
このとき、共同編集機能を活用し、児童が必要なタイミングで他の児童の考えを参考にできるようにしました。写真や図を中心にまとめたり、文章を中心に表現したり、自分にとってわかりやすい方法を参考にして、まとめていました。
画面の上部に他の児童の編集状況がリアルタイムで表示される
(3)振り返りにより学習を深める「スライドB」
Googleスライドを児童に個別配付して、児童の毎時間の振り返りを単元を通して蓄積しました。授業内で使った資料やホワイトボード、板書などの画像も添付することで、前時や単元の学習を思い出しやすくなります。紙での「振り返り用紙」も用意して児童のわかりやすさに応じてデジタルと紙を選べるようにしました。下に例示した「自然災害とともに生きる」単元では、地域ごと、災害ごとの対策が結びつき、理解を深めていました。
A児の振り返り(スライドB)※紙幅の都合上、一部を掲載
おわりに
主役であり、児童の学習を広げる手段です。1人1台のタブレットPC環境で児童の学習が広がれば、今まで以上に一人一人のわかりやすさに合った授業づくりができるようになると思います。
この実践を取り入れたある先生が、児童のスライドやホワイトボードを見て、「あの子もこんなふうに考えていたんだね。今まで気づかなかった。」と話していました。1人1台のタブレットPC環境を生かした学習の可能性を感じる一言です。
本稿が、先生方の授業づくりの役に立てば幸いです。