中学校社会:あふれる情報をどのようにとらえるか
~情報を冷静に読み取り、たくましく生き抜く生徒の育成を目ざして~
千葉大学教育学部附属中学校教諭
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版) 2021年9月発行より〉
はじめに
携帯電話を一人一台もち、一家に一台パソコンがあるのも珍しくない、全国の小中学生にタブレット端末が配布されるまでになった現代社会。この一年間だけを見てみても、オンライン環境を利用した在宅ワークの浸透など、社会は大きく変化しています。急激に進む情報化の中で、私たちはどのように生活していけばよいのでしょうか。これは、大人である私たちにとっても難しい課題です。このめまぐるしく変わる、予測困難な時代を生きていくことになる子どもたちには、今まで以上にたくさんの「力」が求められているといっても過言ではありません。
情報通信技術が発達した現代では、たくさんの情報に気軽に触れられるようになっただけでなく、SNSを使ってだれもが情報の発信者となることができるようになりました。情報を批判的に検証し取捨選択を行う「力」は、必須ともいえるものになってきています。文部科学省からは、情報モラル教育の充実を目ざした、児童・生徒向けの啓発資料が盛んに配布されています。フェイクニュースの実態について報じるニュースなど、いわゆるメディアリテラシーの必要性を訴える情報も、現代にはあふれています。
今回は、中学校社会科の授業の中で、情報の多様性と、情報モラルに関わる力の育成を目ざして行った授業実践を紹介します。
現代社会において、多様な情報メディアが存在し、それぞれが目的に応じて、情報を伝えるためのさまざまな工夫を凝らしていることへの理解をテーマに行った授業です。公民的分野の現代社会「情報化」について扱うパートで行いました。
授業実践 導入~世論調査に答える
授業では、実際に新聞社やテレビ局が行った世論調査を活用しました。今回行った授業では、例として憲法9条改正についての世論調査を紹介しました。まず、授業ではあえて調査の結果は示さず、質問と回答項目だけを投げかけます。
次に、これらの質問に対し、実際に生徒自身に答えてもらいます。同じテーマの質問であるのに、質問の仕方や選択肢によっては回答や意見が変わる生徒もたくさんいました。選択肢の中に「どちらとも言えない」があると、それを選ぶ生徒もいました。大変興味深いことに、どの学級で実施しても、賛成、反対等の生徒の回答の比率は、報道各社がとった世論調査と近しいものになりました。
クラス内での集計結果を公表すると、生徒たちからはさまざまな反応が現れました。それぞれの反応に対してなぜそう感じたのかを説明させると、次のような言葉が出てきました。
授業実践 展開~各社の質問を考える
こうして活発に意見を言う環境ができあがってきたら、次の展開に進みます。
情報を伝えることだけが目的であるならば、質問はすべて同じでいいはずです。では、なぜ報道各社は、それぞれ違った文章や選択肢で調査しているのでしょうか。それは、報道各社の伝えたい「主張」があるからです。メディアの歴史や、情報の伝達だけでなく世論の形成というメディアの役割を理解している大人からすれば、報道各社には主義主張があることは自明ですが、なかなかそのことまで理解できている生徒はいません。この視点に到達できるかどうかが、この授業の大きなポイントになります。
そこで、この課題について考えさせる前に、「この調査結果を使ったら、どのような記事を書くことができるか」を、実際の調査結果をもとに考えさせました。班ごとに違う調査結果をもとにした記事を発表させると、当然記事の内容も大きく違ってきます。「賛成」が多い調査結果を用いた記事は、「憲法改正に賛成する人が多いので、憲法改正を進めた方がいい」という内容になります。逆に、「反対」「わからない」が多い調査結果を用いた記事は、「反対やわからないという人が多いのに、憲法改正は進めるべきではない」という内容になりました。それを互いに確認しあったうえで、もう一度「課題」に戻ります。
すると、生徒の中から次のような意見が出てきました。
さらに掘り下げていくと、報道各社ごとに実は憲法改正についての独自の考え方や意見があるのではないか、という結論に結びついていきました。
結果として、報道には多様な表現があり、各社それぞれに考え方の違いがあるという認識をもたせることができました。
授業実践 まとめ~情報モラルの視点を引き出す
授業の終わりには、報道各社によって主張や意見、記事の書き方に違いがあるという認識のうえで、「その中で生きる私たちはどのようなことに気をつけていけばよいか」という思考を深めさせました。多様な意見があるという認識がしっかりと形成されていたため、「情報を鵜吞みにしない」「複数の情報源を比較検討する」「気になったものについては自分でしっかりと調べる」といった、情報を批判的に考察する情報モラルへの意識を高めることができました。
おわりに
情報化が進む現代社会を生きるためには、あふれるように存在する情報を、自分の目的を追求するための手段として活用する力が求められます。前述したように、将来を考えていく中学生という多感な時期であるからこそ、情報モラルに関わる教育は重要であると考えます。
授業では新聞等のツールを用いましたが、SNSや友人との会話など、子どもたちの情報の入手先は多岐にわたります。その情報一つ一つをどう選択し、どう活用していくかが重要な視点となります。この実践は、社会科の授業の枠にとらわれず、道徳科など、他教科の題材として応用することもできそうです。さまざまな機会・さまざまなやり方で、情報モラルに対する意識を高めていくことが、これからの時代を生きる子どもたちに求められていると考えます。