小学校英語:多様性を認め合い、共に学び共に育つ学校をめざして
~学校として、また外国語教育を通した取り組み~
神奈川県横須賀市立諏訪小学校校長
〈教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (小学校版) 2021年9月発行より〉
教育活動全体で育む「認め合い高め合う関係を築く力」
市の中心街にあり、米海軍横須賀基地に隣接する本校には、多様なバックグラウンドをもつ子どもたちが在籍しています。米国、フィリピン、中国、中東の国など、外国につながる子どもは約4割に上ります。学区外から通学している子どもの割合は約3分の1と市内で最も多いことも特徴です。居住地域、慣れ親しんだ生活・言語・文化など、様々な環境で育ってきた子どもたちが学校生活を共にしています。子どもたちには、多様性を認め合い、高め合う関係を築きながら学ぶ力が一層求められます。
よりよい関わりを育む「すわふわ」コミュニケーション
互いを認め合える関係を築く基盤となるのは学級・学年経営です。本校では「すわふわ」を合言葉に、望ましいコミュニケーションを通して互いのよさを認め合う取り組みをしています。「すわふわ」とは、学校名の「すわ」と、心が軽やかになる優しい言葉がけや態度の意味をこめた「ふわ」の2文字からなる、本校オリジナルの言葉です。先生は「すわふわ」な関わりはどうあるべきかを様々な場面で子どもたちに考えさせ、実践させています。昨年度の学校評価児童アンケートでは、全校児童の約92%が「友だちに優しく接している」と回答しました。「すわふわ」が浸透してきていることがわかります。
教室の掲示物から。友だちのよいところを書いたハート型の葉をたくさん茂らせた「すわふわの木」
多様な教育的ニーズに応える教育活動
様々な地域や環境で育ってきた本校の子どもたちは、他校に比べて就学前の共通体験が少ない中で入学してきます。1年生には5月の連休頃まで「スタートカリキュラム」を実施し、先生やクラスメート、学校生活や授業に段階的に慣れていけるようにします。
「国際教室」では、個に応じた日本語指導や学習指導に加え、ガイダンス、面談の通訳や学級通信の翻訳を行い、学校生活への理解と適応を支援します。様々な言語環境にある保護者のため、学校評価保護者アンケートは多言語対応(英語、タガログ語、中国語、日本語にはルビふり)で行います。また、欠席連絡をメールでも行えるようにしています。
市内3校に設置されている「ことばの教室」も本校で重要な役割を担っています。在籍校で自信をもって活動できるよう、言葉、聴覚、発音、コミュニケーションの学習をします。子どもたちは一生懸命言葉を発し、思いを伝えようとします。気持ちを伝えようとする意欲や態度を価値づけていくことも大切です。
多様な性自認、多様な家族のかたちを人権感覚をもって理解させることも重要です。本校では保健指導の一環として養護教諭が講話を行ったり、啓発活動をしている方々のお話を聞く機会を設けたりしています。
相手意識をもった"Good Communicator"を育てる外国語教育
小学校での外国語教育の必修化は、多様な他者との豊かな関わりを身につけさせるチャンスです。
本校は平成27年度から6年間にわたり、外国語教育の文部科学省研究開発校、市教育委員会研究指定校として、『ONE WORLD Smiles』代表著者の文教大学教授 金森強先生のご指導を受けながら、授業研究に取り組んできました。授業づくりで追求してきたのは「相手意識」と「コミュニケーションの質」です。
今年度の授業から6年生の取り組みを紹介したいと思います。
【Lesson 2:My town is beautiful.】
単元末のFinal Activityの活動内容を「横須賀の魅力をALTの先生に伝えよう」とカスタマイズしました。
単元の導入時、先生はALTに話しかけ、横須賀についてのやり取りを子どもたちに見せます。ALTは横須賀のことはよくわからないという反応をします。子どもたちは次第に、ALTに横須賀のことを知ってほしい、横須賀のよさを紹介してみたいという気持ちになっていきました。
ここで大切にしたのは、「ALTは横須賀のことを知らない」という状況です。子どもたちは、ALTがどんなことに興味がありそうか、どんなことを知りたいと思っているか、何を紹介したらよいか、伝える時にどんな工夫をしたらよいかなど、相手意識をはたらかせて考え、内容や表現の工夫をしようとします。
今回は「協働」を大切にして、グループでの活動にしました。子どもたちは、自分にはない発想等に刺激を受け、表現を広げようとしていました。最終発表を終え、ALTは「ありがとう。横須賀の魅力がわかったよ。今度はさらに日本のことを知りたくなったよ。」とコメントしました。この単元での学習はLesson 3 へとつながっていきました。
その子ならではの多様な表現をめざして
【Lesson 3:Welcome to Japan.】
この単元では、Final Activityの活動内容を「ALTに楽しく聞いてもらえるように日本の魅力を紹介しよう」「自分たちも楽しく日本の魅力を伝えよう」とカスタマイズしました。
「楽しさ」の追求は子どもたちの主体性を育みました。表現の広がりや伝え方の工夫がさらに見られるようになりました。キーワードや一番伝えたいところを繰り返して分かりやすくする、間を取る、内容によって声のトーンを変える、発表の始まり・終わりを工夫する、写真撮影などの動作をしたり寸劇を入れたりして引きつける、聞き手に質問する、ポスターを見せるタイミングを工夫するなど、その子、そのグループならではの伝え方の工夫が見られました。
その過程で、子どもたちはゴールを見据えて自分たちがすべきことを逆算し、自ら練習に取り組んだり、活動を見直したりしていました。目的をもって何度も練習した結果として、英語の語彙・表現への慣れ親しみも生まれました。英語やコミュニケーションが苦手な子も、グループで一緒に活動する中で、自分のめあてに向かって頑張りました。このように、目的・場面・状況に応じて相手意識をはたらかせ表現を工夫する中で、思考力・判断力・表現力や主体的に学習に取り組む態度は育まれていくと考えます。
「日本の魅力」をテーマに温泉を紹介しているグループ
互いのよさを生かし、共に学び共に育つ子どもたちに
本校の学校教育目標は、「夢を大切に 心豊かにみずから学ぶ子」です。校舎の通路には、子ども一人ひとりの「夢」や「目標」が写真と一緒に掲示されています。子どもたちの愛らしい笑顔は、一人ひとりのよさが生かされる多様な学びや豊かな自己実現を支える教育とはどうあるべきかを私たちに問いかけています。
全校児童の「夢」や「目標」を掲示した「ゆめたまこみち」