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道徳科の授業に アクティブ・ラーニングを位置づける

道徳科の授業にアクティブ・ラーニングを位置づける

 道徳科のアクティブ・ラーニングについて,中学校の実践から述べていきたい。

◆「発達段階」「自我関与」「インクルーシブ」を意識して,「主体的」「対話的」「深い学び」のアクティブな授業をつくる

 中学校では,その発達段階から,教師の誘導に敏感であり,知っていることを言わされることを嫌ったり,逆に,教師が言ってほしいことを当てようとしたりすることがある。しかしいずれも,本当の意味のアクティブな学びにならない。目の前の子どもたちにとって(どうせあれだろう......。)という想像を超えるような,素直に自分を振り返り,葛藤や気づきのある授業をどうすればつくれるか,一生懸命考えてチャレンジしてみた。いろんな子の心が動き,追試された方にも好評だった。

 本実践では,読み物資料の展開のあと,さだまさしさんの歌に合わせて,自分たちの学校生活や世界の状況を織り込んだスライドのパワーポイントを,以下のねらいで見せた。

① 望ましいと考えられる一定の諸価値を教え込むことで内面化を図ろうとする「インカルケーション」は,受け入れにくい子がいる。自分から「主体的」に考えるしかけとして。
② 中学校の発達段階で,せっかく教材の価値に入り込んでよりよい人間の生き方を考えられていた時に,いわゆる展開後段の「あなたはできるのか」を突き付けられ,時に発表させられることにより現実の無力感を強調するのがマイナスになることがある。さりげなく,深く「自我関与」させ気づかせる方法として。
③ 学校教育全体で取り組む道徳教育の「要」の道徳科で,他の教育を(補充・深化・)「統合」する方法として。
④ 通常学級にいるさまざまな特質や課題を持つ多様な生徒にとっては「振り返る」という学習活動が容易でないことがある。この配慮を意識した「インクルーシブ」な授業づくりとして。


◆評価で大切なこと

 評価は,他教科のように数値化するのではなく,また,他の生徒との相対評価でもなく,励ましの目的で文章表記することは周知のとおりだが,大くくりで,内容項目ごとの目標準拠評価でないことは再確認する必要がある。今回は,この道徳的価値についてはここまで理解させたい,行動させたいという,パフォーマンス課題やルーブリックの評価指標基準を作って記述するわけではない。

 私は「評価」で最も大切なことは,支援の立場からも,多様な子どもたち全員を学びの土台に載せ,よりよく生きる希望が持てるような授業の原点に戻ることであると考えている。授業前と授業後に子どもたち自身が学びに気づきメタ認知できるような, 自己評価しやすいワークシートを工夫する。授業改善のための授業評価においても,全員の生徒の学びの評価からスタートすべきである。道徳の時間にも教師は皆が参加できる授業を心がけてきたが,教科になるとより一層,全員の学びの意識が必要であると感じている。


実践紹介

1 主題名 感謝【内容項目B-(6)】

2 主教材 「もったいない」(出典:『もったいない[新装版]』プラネット・リンク編,マガジンハウス,2016年)
補助資料 
・歌「MOTTAINAI」(さだまさし作詩(詞)・作曲,『とこしへ』収録,2005年)
・Wangari Muta Maathai(ワンガリ・マータイ)さんのMOTTAINAIについての演説インタビュー等

3 授業のねらい
 「MOTTAINAI」の心を考え,自分の生活を振り返らせることを通して,ものや時間の大切さ,自分の環境,まわりの人の愛情などのありがたさに気づき,感謝して生きようとする道徳的実践意欲・態度を育てる。

4 授業づくりのポイント
 人が感謝の気持ちを感じるのは,他者の想いに気づいてありがたいと感じ,素直に受け止められた時です。自分が現在あるのは多くの人々によって支えられてきたからであると自覚すると,生き方が変わります。中学生の発達段階を考え,説教でなく,自分の幸せに自然に気づくようなしかけを入れた写真とともに,音楽を聴きます。余韻の残る中,ペアや全体で,多様な価値観に基づく感じ方を活かした話し合い活動をし,振り返りでさらに深めていきます。

5 授業展開(導入と展開後半を中心に)
 まず「もったいないなぁ......。」と思うのはどういうことか,毎日の生活を振り返らせます。自分で考えワークシートに書き,ペアで交流したあと,全体で発表。生徒からは「電気のつけっぱなし「」冷蔵庫のあけっぱなし「」食べ残し「」消しゴムを最後まで使い切らない」等,総合的な学習で取り組んだ環境教育の観点で捉えた意見がたくさん出ます。「テストで,わかっているのにまちがえた時!」など,物以外のことに触れる気づきも少しありました。

 物を無駄にすることの裏にある労苦や無念を思い描くことで,勿体(もったい)=物体の本体が無い,その価値が活かされないという,次の意味につながります。

発問 「いただきます」は,何に対するどういう想いの言葉でしょう。

 ペアで話し合い,「感謝」という言葉,そして「命をいただく」「作ってくれた人」「家畜を飼育する人」「流通」,さらに「天気」「地球」も出てきました。震災後に想いをはせ,健やかな土,水,空気があってこそ食べられること, 人間を超えたものへの感謝まで気づきました。

中心発問 今,MOTTAINAIことにはどういうことがあると思いますか。

 パワーポイントの写真を見ながら歌を聴き, 少し呆然とした感じの生徒たちに,まず気づいたことをワークシートに書かせ,ペアで語り,クラス全体で交流しました。自分が全体に言うのは照れるという子もいるので,ペアで出た意見をどちらが言ってもいいことにしました。

教 師:その価値を活かしきれないことがMOTTAINAIのよね。
生徒A:休みの日にお昼まで寝てるのはもったいない。
生徒B:それはそれでいいんちゃうん? 疲れをとってるんやし。
教 師:なるほど。やりたいことがあるのにできなかったら時間がもったいないって思うね。でも,ずっと頑張りすぎてても自分がつぶれる。毎日のことで何か他に出た?
生徒C:学校に来ないのは,もったいない。(不登校ぎみの生徒のことを気にかけて想って。)
生徒D:授業をさぼるんとか,中学校生活を大切にしないのは,もったいない。
生徒全:お~。(あいつがそんなこと言うんか......という感じ。)
教 師:ふ~ん。自分の時間? 今の環境? それをちゃんと活かさないともったいないっていうことかな。
生徒E: 親から愛されてるのに気づかないで,反抗ばっかりしてるのはもったいない。
教 師:(いきなりで驚くが)あ,人との関係にももったいないことがあるのね。自分と誰かとの関係で,何かもったいないことあった?
生徒F: 自分を想って言ってくれたことを素直にきけないのはもったいない。
生徒G:人を誤解してるのはもったいない。
生徒全:うん,うん。へぇ~。(納得しながら,そんなことも言えるのか......と心を開く雰囲気。)
教 師:それはどういうこと? 何を活かしてないことになるのかな?
生徒H:まわりの人の本当の気持ち? 自分を想ってくれてるってことかなあ。
生徒I:でもそれわかってても何も言えん。あ,やってもないのに「できない」って言うのももったいないか。
生徒J:中2にもなるのにうっとうしいこと言われてけんかして楽しく生きてないのは......。
生徒全:(あれこれぼそぼそ話したり......。真剣に考え込んだり......。)

 生徒たちは,まわりの人との関係,感謝の表現,人間としての生き方を見つめ直す深い学びに向かいました。記入したワークシート,発言,振り返りシートをもとに,この時間のねらいの気づきと実践意欲をもつことができたか,その芽生えを把握して評価します。


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