こうして活発に意見を言う環境ができあがってきたら,次の展開に進みます。 情報を伝えることだけが目的であるならば,質問はすべて同じでいいはずです。では,なぜ報道各社は,それぞれ違った文章や選択肢で調査しているのでしょうか。それは,報道各社の伝えたい「主張」があるからです。メディアの歴史や,情報の伝達だけでなく世論の形成というメディアの役割を理解している大人からすれば,報道各社には主義主張があることは自明ですが,なかなかそのことまで理解できている生徒はいません。この視点に到達できるかどうかが,この授業の大きなポイントになります。 そこで,この課題について考えさせる前に,「この調査結果を使ったら,どのような記事を書くことができるか」を,実際の調査結果をもとに考えさせました。班ごとに違う調査結果をもとにした記事を発表させると,当然記事の内容も大きく違ってきます。「賛成」が多い調査結果を用いた記事は,「憲法改正に賛成する人が多いので,憲法改正を進めた方がいい」という内容になります。逆に,「反対」「わからない」が多い調査結果を用いた記事は,「反対やわからないという人が多いのに,憲法改正は進めるべきではない」という内容になりました。それを互いに確認しあったうえで,もう一度「課題」に戻ります。 すると,生徒の中から次のような意見が出てきました。 さらに掘り下げていくと,報道各社ごとに実は憲法改正についての独自の考え方や意見があるのではないか,という結論に結びついていきました。 結果として,報道には多様な表現があり,各社それぞれに考え方の違いがあるという認識をもたせることができました。授業実践 展開~各社の質問を考える私たち一人一人と同じように,各社にもそれぞれ考え方があって,それを広めたいと思っているから。他社と違う,個性をもった記事を書くことで,部数が伸びると思うから。読んだ人に,記事に共感してもらいたい。伝えたい内容があるとしたら,調査結果がそれにつながりやすいものだといいよね。では,各社がそれぞれの記事を公表する理由を考えてみましょう。調査を入れることで,記事の信頼度が上がる。用意された選択肢によって,調査結果が左右されることもあるのではないか。「なぜ報道各社で質問に違いが生まれるのか」課 題 授業の終わりには,報道各社によって主張や意見,記事の書き方に違いがあるという認識のうえで,「その中で生きる私たちはどのようなことに気をつけていけばよいか」という思考を深めさせました。多様な意見があるという認識がしっかりと形成されていたため,「情報を鵜吞みにしない」「複数の情報源を比較検討する」「気になったものについては自分でしっかりと調べる」といった,情報を批判的に考察する情報モラルへの意識を高めることができました。 情報化が進む現代社会を生きるためには,あふれるように存在する情報を,自分の目的を追求するための手段として活用する力が求められます。前述したように,将来を考えていく中学生という多感な時期であるからこそ,情報モラルに関わる教育は重要であると考えます。 授業では新聞等のツールを用いましたが,SNSや友人との会話など,子どもたちの情報の入手先は多岐にわたります。その情報一つ一つをどう選択し,どう活用していくかが重要な視点となります。この実践は,社会科の授業の枠にとらわれず,道徳科など,他教科の題材として応用することもできそうです。さまざまな機会・さまざまなやり方で,情報モラルに対する意識を高めていくことが,これからの時代を生きる子どもたちに求められていると考えます。授業実践 まとめ~情報モラルの視点を引き出すおわりに13現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 社会特集
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