はじめに 現代社会が抱えている課題は数多くあり,それらを解決するために数学は必要不可欠な存在です。ここでは,脱炭素社会と減災という視点で,数学を課題解決に活用する例を紹介します。 脱炭素社会の実現に向け,自動車市場において,従来のガソリン車から電動車への置き換えが進んできています。電動車で現在主流となっているのは,駆動においてガソリンに加えて補助的にバッテリーも利用するハイブリッド車で,燃費がよくなる一方で,車両価格が上がってしまいます。また,近年では,バッテリーのみでモーター駆動する電気自動車への注目も高まっていますが,充電スタンドの普及が進んでいないことと,車両価格がさらに上がってしまうことから,シェアは依然低い状況にあります。日本では,燃費性能や駆動方式により減税や免税を行うことで,電動車の普及を推進していますが,ここでは,車両価格と燃費性能のみに着目して,消費者がどのように行動するのかを考えてみましょう。▶課題の紹介 中学2年の「1次関数」において,自動車を購入するときに,ガソリン車(GV)とハイブリッド車(HV)のどちらにするかの検討を題材とします。自動車メーカーのパンフレットや各種ウェブサイトを調べて,自動車の用途をもとに次の情報を得たとします。自動車×1次関数 ~脱炭素社会~ 実燃費はガソリン1Lあたりで走行できる実際の距離の平均を表します。また,ガソリン価格や年間走行距離も平均を表しますが,計算するうえでは,平均ではなく確定した値と捉えます。このとき,価格に着目して,どちらの自動車を購入した方がよいかを検討します。▶授業で扱う際の工夫・留意点等 授業で扱う際には,環境への影響や減税などの話をしながらも,課題を単純にするため,最終的には表で与えた価格のみに着目させた方がよいでしょう。年間走行距離が決まっているので,この自動車をx年利用するときの総価格をy万円とすると, GVはy=9x+200,HVはy=5.4x+236と表せるので,それぞれに対応する1次関数のグラフは次の直線になります。(万円)(年) 10年まではGV,10年を超えるとHVが得ということが視覚的に分かり,購入の際は利用年数で判断するということが結論になります。 ここでは,消費者目線で考察しましたが,電動車を普及させたい国の立場では,どのように減税・免税や補助金の仕組みを作ると価格の高い電動車を購入してもらえるのかを考えています。これは,自動車を開発するメーカー側にも大きく影響し,脱炭素社会の実現は国の制度設計しだいとも言えます。数学教科の視点脱炭素社会や減災につながる数学筑波大学附属駒場中・高等学校教諭 須す田だ 学まなぶ 車両価格実燃費 ガソリン車(GV)200万円15 km/L ハイブリッド車(HV)236万円25 km/Lガソリン価格1Lあたり150 円年間走行距離9,000 km14現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 数学特集
元のページ ../index.html#14