教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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 日本は世界有数の地震多発地帯です。多くの人命を奪い,多くの被害をもたらした東日本大震災は特に,記憶に新しいことでしょう。 大災害時,回線が混雑するため携帯電話での通話は難しくなりますが,電話番号を利用したテキストメッセージ送受信サービスのSMSであれば比較的連絡しやすいと言われています。インターネットが切断され,携帯電話のSMSだけが頼りになった状況を想定し,限られた情報から正しい判断をする場面で考えてみましょう。▶課題の紹介 中学3年の「円」において,大地震発生時に限られた情報から震源が海底かそうでないかを推定することを題材とします。もし海底であった場合には,津波が発生する可能性が高いからです。携帯電話のSMSだけが利用できる状況において,地震発生後すぐに連絡のとれた4地点に住んでいる親戚のメッセージで初期微動継続時間が次の通りであることが分かったとき,震源が海底かそうでないかを考察します。【初期微動継続時間】地点A地点B地点C地点D20秒20秒20秒10秒▶授業で扱う際の工夫・留意点等 授業で扱う際,まず,初期微動継続時間が地震のP波とS波の速度の差によって生じるため,初期微動継続時間は震源からの距離に比例することを確認します。必要に応じて,原点を通る傾きの異なる1次関数のグラフを考えるとよいでしょう。また,震源は地中にありますが,計算を簡潔にするため,その真上の地表の地点を表すものとみなし,それを地点Oと表します。地点A,B,Cの初期微動継続時間地震×円 ~減災~が同じことより,OA=OB=OCであるから,Oは線分AB,BC,CAの垂直二等分線上にあるので,その位置が確定されます。つまり,三角形ABCの外心で,3本の垂直二等分線が1点で交わることも分かります。作図すると,Oは海にあるので,震源は海底であると結論できます。 Oの位置だけを調べるのであれば,地点Dの情報はなくても構いませんが,Oの位置を決定した後に,OA:OD=2:1を確認することで,判断の正確性を上げられます。 難度を上げた課題として,地点A,B,Dの情報からOの位置を決定することも考えられます。線分ABの垂直二等分線上にあり,OB:OD=2:1をみたす点Oを決定できればよいのですが,高校で学ぶアポロニウスの円を用いると,2点が候補となります。最終的に地点Cの情報も利用して,OB=OCをみたす点をOとして確定できます。おわりに 脱炭素社会や減災につながる数学の活用事例を紹介しました。授業で扱うには多少の単純化は必要ですが,未来を生きる子どもたちに数学を活用する機会を数多く作りたいと考えています。今後直面するであろう現実の問題解決の場面で,これらの経験を生かせるようになることを期待します。①②15現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 数学特集

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