私達の国は,四季の変化に富み,美しい自然景観に恵まれています。そのことから,自然の恩恵を受けるとともに,いつでもどこでも厳しい自然現象による自然災害に見舞われることもあります。一方,私達は,科学技術の進歩とともに,自然災害を予見し,自然災害に対して備えてきました。現在の科学技術が,全ての自然災害に対して万全な備えになるとは言い切れません。しかし,安全で安心な生活をしていく上で,科学技術の進歩が貢献してきたことは明らかです。科学の意義や有用性を実感し,実社会や実生活と関連づけ,科学への関心を高めるという観点から,理科教育において自然災害を理解した上で防災教育を推進し,充実していくことが重要です。中学校学習指導要領(平成29年告示)・理科では,各学年の「自然災害と恩恵」の内容が充実されました。第2分野(7)自然と人間(ア)生物と環境㋒地域の自然災害では,(2)大地の成り立ちと変化,(4)気象とその変化のそれぞれの内容と関連させ,地域の災害を取り上げることで,より防災・減災への関心を高めていこうとしています。しかし,理科だけで,自然現象とその災害に関するあらゆる知識や,災害に対してどのように対応するかなど全てを網羅することは困難です。中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編「防災を含む安全に関する教育(現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容)」で教科の関連を示した表が付録6に示されています(文部科学省,2017)。この表が示しているように,防災教育は,学校教育全般で教科横断的な視点で実施する事が必要になってきます。 私は,防災教育を教科横断的な視点で実施するには「❶学習すること」,「❷想定すること」,「❸訓練すること」の『3つの「すること」』がヒントになると考えています(図1)。「❶学習すること」とは,自然災害について理解する場面です。教科や,総合的な学習の時間(以下,総合)などを用いて,自然災害におけるさまざまな現象を感覚に訴3つの「すること」と防災教育え,体で実感し,頭脳でしっかり理解する場面です。「❷想定すること」とは,学んだことを生かして,実際にどのようなことが起こるのか,どのようなことをするのかを想定する場面です。「❸訓練すること」とは,学校や地域,広域で行う避難訓練のことであり,実際に災害が起きた場合に的確に判断して行動していくことにつながります。 私が今までに北海道内で防災教育プログラムの作成に関わった事例の中から,3つの「すること」を,教科横断的に取り組んでいる事例を紹介します。 南富良野町立南富良野中学校では,各学年の教科で防災教育と関連する単元とその項目を抜き出し,防災教育の全体計画を作り上げ実践しています。南富良野町は,2016年に空知川の氾濫によって浸水し甚大な被害を受けました。そのため,防災の焦点を「水害」に当てて,小学校における空知川での体験的な学習とつなぎながら中学校理科で自然災害を学んでいます。そこで,増水によって避難することになった場合を想定し,中学生が運営者となり,避難所運営ゲーム北海道版(愛称:Doはぐ)を用いて机上訓練を行っています。また,町が主催した総合防災訓練では,中学生が自分たちでできることに主体的に関わり,「受付」,「物資の運搬」,「避難者の誘導」などを行っています。 島牧村立島牧中学校では,総合で防災マップ作りに取り組み地域に発信しています。島牧村は1993年北海道南西沖地震で津波被害を受けています。理科で学んだ地域の地質,土地のつくりをもとに,中学生が住民とともに一緒に歩いて危険箇所の確認や理科教科の視点防災教育を実践するための3つの「すること」北海道教育大学教授 境さかい 智ち洋ひろ はじめに図1 防災教育の授業像授業像災害が起きたときに,実際にどのように行動するか試す③訓練すること防災・減災に必要な情報,知識,技能を教科等を通して理解する①学習すること理解したことを生かし,実際にどのようなことが起きるのかを思考・判断する②想定すること実践的,効果的に安全教育をどう進めていくか?年齢・学年に応じて戦略的に継続すること想定したことを試す自然災害について理解する例1:防災小説をつくる例2:危険を探してみる16現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 理科特集
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