避難場所の確認を行って防災マップに反映させています。避難場所として不適と思われる場所を村に伝えるとともに,避難経路の動画を防災マップにQRコードで掲載し,いつでも住民が見られる工夫しています。また,マップには住民からのメッセージ(図2)が添付され,活動が即座に評価されるようになっています。 釧路市立大楽毛中学校では,地震,津波災害の学びを生かし防災小説に取り組んでいます。2020年4月に内閣府のワーキンググループは,北海道沖の千島海溝で国内最大のMw9.3を想定し,最大で高さ約30メートルの大津波が東日本の広範囲を襲うという推計を公表しました(内閣府,2020)。道東の海岸線の学校は大きな地震が切迫していると危機感をもっています。防災小説とは,慶應義塾大学の大木聖子氏が提唱したもので,近未来のある時点で巨大地震が発生したというシナリオで,ひとりひとりが自分自身を主人公とした物語を800字程度で執筆するものです。物語は必ず希望をもって終えなければならない,というルールがあります。大楽毛中学校では,千島海溝で巨大地震が発生し,大津波警報が発令されてから避難するまでの小説執筆に全学年で取り組んでいます(図3)。理科で学んだことをもとに国語の力を使って,被災した状況を具体的に想像し,どのような行動をとるかを想定しています。その後,実際の避難訓練を実施しています。この取り組みによって,防災を自分ごと化することが促され,防災意識を高めることができているといいます。 学校によって防災教育の取り組みはさまざまです。しかし,生徒の命を守る観点から,各学校がそれぞれに防災教育の実施状況に温度差なく進めるべきです。特に理科は防災教育の要になる教科です。以下は「❶学習(以下❶)」,「❷想定(以下❷)」,「❸訓練(以下❸)」で示しています。 理科の授業で自然災害を学びます「❶」。その後,学んだ自然災害から身を守るために避難訓練を実施します「❸」。学んだことと避難訓練を接続することが大切です。また,学校の避難訓練の計画を教師側だけで練るのではなく,「❶」のあと総合等で生徒とともに,地域の災害の想定,災害が起きた場合の校舎等の被災の状況,避難場所までのルートとその被災状況などを調査し,シミュレーションします「❷」。その後,実際に生徒とともに考えた避難訓練を実施します「❸」。さらに避難訓練の後,家庭科で避難所と食事,保健体育科で怪我の処置と予防,英語科で避難所において外国人がいた場合の対応など,教科で防災教育に係る内容をできるところから補っていきます「❶,❷」。このように,教科の先生方で少しずつ連携し,実質的な横断を行うことをカリキュラムに位置づけていくことで防災教育が充実していきます。そして,それらの教科や総合等で展開される諸活動が,「自助,共助,公助」に収れん,あるいは収れんの方向で全体的な教材やカリキュラムが構造的に編成されていくことが理想です。「避難訓練を行っています」,「授業で自然災害を扱っています」,「避難所の運営をゲームで体験しています」とそれぞれをバラバラに実施するのではなく,学校教育の中で,生命尊重の意識をもち,安全の確保や,社会での一員としての態度を主体的な行動力として育むことが重要と考えています。今後,各学校の防災カリキュラムが発信されるとともに,地域の人々を巻き込んで防災・減災の意識を高めていく実践が広がることを期待しています。教科横断的な視点で取り組む防災教育参考文献文部科学省(2017)「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」内閣府(2020)「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による震度分布・津波高」,第1回ワーキンググループ資料http://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/WG/pdf/dai1kai/siryo3.pdf(2021.7.5閲覧)図2 住民の評価表図3 防災小説(生徒作文)17現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 理科特集
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