2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は,あっというまに世界中を感染の渦に巻き込み,わが国でも「限られた医療資源を誰にどのように使うか」という極限に近い選択を現実としてつきつけられました。学校教育においてもさまざまな「非日常」を余儀なくされ,2021年現在も,「安心・安全」と言い切れる状況には至っていません。こうした「今」だからこそ,「命」について正面から,道徳授業で丁寧に扱いたいと考えます。 ここでは,『中学道徳2 とびだそう未来へ』(教育出版)に掲載の「たったひとつのたからもの」「飛鳥へ,そしてまだ見ぬ子へ」「国境なき医師団・貫戸朋子」の3つの教材を総合単元的に扱い,貫くテーマを「命を大切に生きるとは」として,3時間から4時間扱いで,「生命」について正面から,生徒と共に考えていく授業を提案したいと思います。 なぜなら,未来に向かって大きく成長する時期にある中学生にとって,「死」は遠い先の,現実性を伴わないことなのではないか,「命」について切実感なく,言葉のうえだけで「考え,議論する」授業では,自分自身を深く見つめる道徳科としての,本来のねらいを十分に果たせないのではないかと危惧するからです。 したがって,生徒にとって最も身近である家族の目を通して「命の尊さ」を語っている教材から,まずは「実感」をもって「死」や「生」について考えさせ,生徒一人一人に課題意識をもたせたいと思います。そのうえで,「命」について多面的・多角的に「考え,議論する」授業を総合単元的に組織することで,生徒はより「自分ごと」として道徳的価値を見つめ,他の生徒や自分自身との対話を深められるのではないかと考えます。 具体的には「たったひとつのたからもの」「飛鳥へ,そしてまだ見ぬ子へ」の2教材を活用し,誰にも確実に訪れる「死」や「限られた命を輝かせて生きることの重要性」を生徒と一緒に感じ,考えます。テーマ学習「命を大切に生きるとは」そして「国境なき医師団・貫戸朋子」では,生徒に自由に存分に「考え,議論」させることにより,テーマ「命を大切に生きるとは」に迫っていきます。 第1次では,「たったひとつのたからもの」を活用し,生徒に「生きることのすばらしさ」を実感させます。障がいと心臓の病気をもって生まれた「秋雪くん」が6歳2か月という短いけれども,周囲の愛情に包まれて懸命に生きた姿を母親の視点で綴った感動的な教材です。教師用指導書デジタル資料集に収録されている動画や写真の活用と併せ,「秋雪くんは,周りの人に何を教えてくれたのか」等を問い,本時のねらいに迫ります。「生きることのすばらしさ」「人が生きていることが周囲の人をどれだけ幸せな気持ちにさせるか」をダイレクトに生徒の心に響かせたいと考えます。「命」について,生徒一人一人が課題意識をもつ教科の視点道徳 生徒の課題意識を大切にした「考え,議論する道徳」 ~「命」に向き合う総合単元的な道徳授業より~前さいたま市立植竹中学校校長 福ふく島しま 博ひろ子こはじめに 第2次では,がんに侵され,幼いわが子や妻,そしてもうすぐ生まれてくるであろう2番めの子を残して命を終えようとしている医師,井村さんの,家族への愛にあふれた教材「飛鳥へ,そしてまだ見ぬ子へ」を活用します。父親から子どもたちへの精いっぱいの「贈り物」として,自分の気持ちを切々と語る手紙について,「井村さんは,どのような気持ちをこめて書いたのか」と問うことで,生徒に,「生命の有限性」「命のつながり」そして,「最後まで命を輝かせて生きることの尊さ」等について,深く考えさせます。終末では,前時も合わせて振り返り,書く活動を取り入れることにより,「命」につ©加藤浩美22現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 道徳特集
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