教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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教師用指導書デジタル資料集よりいて自分なりの思いや課題を一人一人が確認できると思います。 第3次では,生徒一人一人の課題意識をもとに,「国境なき医師団・貫戸朋子」を活用し,「命を大切にする」とはどういうことなのか,多面的・多角的に考えさせます。ボスニア・ヘルツェゴビナで「国境なき医師団」の一員として働いていた貫戸さん(右写真・前列中央)のもとに,助かる見込みがないと思われる5歳の男の子が運ばれてきました。残された酸素ボンベが1本しかないという状況下,看護師の「ボンベを切ってはダメ」というジェスチャーに葛藤しながら,貫戸さんは5秒数える間待って,酸素ボンベを切る決断をします。 「貫戸さんの判断をどう思うか,自分だったらどうするか」,生徒に自由に意見を出させ,考えを深めていきます。話し合いでは,「酸素ボンベを切る」「切らない」が中心となると思われますが,その際「その理由」を十分生徒に語らせることが大切です。また,貫戸さんの行動は,目の前の「命」こそ救えなかったけれど,決して「命そのもの」を軽んじていたのではないことを,押さえておく必要があります。「命」について,生徒と共に多面的・多角的に考える 授業の後段では,デジタル資料集の中の動画を活用します。映像の最後で,貫戸さんは,「君たちならどうするか?」と問うたあと,「答えは自分も出ていない。ただ,わからなくても,悩み続けることが大事」と結んでいます。「命」についての「ミニ論文」を分かち合う 今回は一例として,3つの教材を総合単元的に扱い,テーマに迫る授業構想を提案しました。各学校や学級の実態に合わせて,特別活動や他教科との関連を図るなど,さまざまな工夫が考えられます。いずれにしても,「考え,議論する道徳授業」を目ざしたとき,「討論」というてだて,方法などの活動のみに目がいかないようにすることがなによりも大切です。 学習指導要領解説には,「内面的資質としての道徳性を主体的に養っていく時間である以上,人生の意味をどこに求め,いかによりよく生きるかといった人間としての生き方に関わって,生徒と生徒及び自分自身との対話が深まるよう,表現する活動の内容や場面の工夫が一層求められる」(『中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』第4章第3節4の(2))とあります。現代的な課題についても「討論ありき」という発想ではなく,生徒の課題意識を大切にし,教材に応じて柔軟に考えること,そして,なによりも,教材を媒介として,教師が生徒と共に感じ,考え,共に語り合おうとするその姿勢こそが道徳授業の肝であると考えています。おわりに そこで,「命を大切に生きるとはどういうことか」というテーマでそれぞれ,今までの3時間分の授業を振り返ってミニ論文を書き,総合単元のまとめとします。これら3つの教材は,すべて実話です。実話である重みと,このコロナ禍にある「今」を踏まえ,生徒に自分ごととして深く「命」を考えさせます。「ミニ論文」は全員分を掲示したり,印刷したりして,全員で共有します。可能ならば,第3次を2時間扱いとし,4時間めは,「ミニ論文」の発表会とできるとさらによいでしょう。学年全体で取り組んでいるようなら,合同の発表会形式でさらに多面的に深めることもできます。©貫戸朋子23現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 道徳特集

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