教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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 全ての子ども一人一人にしっかりと力をつけたい,これは教師にとって長年の悲願です。先の中央教育審議会答申『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して』にある「個別最適な学び」というメッセージの根幹も,同時に示されている「一人一人の子供を主語にする学校教育の目指すべき姿」に基づくものと理解するとわかりやすいといえます。 先人たちも当然取り組み,我々も何度も挑戦してきた,この古くて新しい問題に,今あらためて挑戦していくことが求められています。「個別最適な学び」の根幹をなす理念は,ある意味で永遠のゴール(目標)を示しているのであって,いきなりこのゴールを直接目ざすのは不可能に近いといえるでしょう。学校や子どもの実態をふまえ,徐々にゴールに迫っていく必要があると考えられます。「GIGAスクール構想で,個別最適な学びをどう実現するのか?」といった単純な問いでは,迫ることができません。 個別最適な学びといえば,AIドリルが話題です。正答が一つに限られる問題に関しては,短期かつ単純な繰り返しで力をつけることができ,その場合はAI分析によって最適化されたドリル学習が役立つはじめに個別最適な学びに向けた心構え「個別最適な学び」につながるICT活用東京学芸大学准教授 高たか橋はし 純じゅん 東京学芸大学教育学部・准教授 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー(2020年~)。教育工学,教育方法学,教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年~),文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員(2019年),文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年),文部科学省「学校業務改善アドバイザー」(2017~2019年)等を歴任。でしょう。しかし,そもそも求められている資質・能力はいっそう高度なものであり,AIが上手に分析できるような学習や仕事は,今後AIに置き換わる可能性もあるわけです。 本来の個別最適な学びは,一人一人の興味や関心,実態に応じて,自ら試行錯誤を繰り返したり,問題発見・問題解決を繰り返したりして,生涯にわたって学び続けるといった学びのことでしょう。資質・能力でいえば,思考力・判断力・表現力等といった高次なものを目ざしていくことになります。 また,学習に長く取り組めば,調子の良いとき,悪いときがあります。それでも,諦めずに取り組んでいれば,わずかかもしれませんが過去の自分より成長します。結局,他者の成長スピードとの関係で,調子が悪いと思い込んでいるだけかもしれません。苦手意識も同じことがいえるでしょう。他者の成長スピードと比較するから苦手と思うのであって,過去の自分から見れば徐々に上達しているはずです。 個別最適な学びを実現していくためには,指導者も子どもも,テクニカルな意味での理解度向上に学びを限定せず,「学びにより自己は必ず成長するし,苦手というものはないかもしれない」などと心構えを変えていくことが大切です。つまりは学びに向かう力なども関連するでしょう。 個別最適な学びのためには,学習目標,学習内容,学習方法,学習ペース,学習形態など,個別化すべき観点がいくつもあります。例えば,AIドリルですと,学習目標や学習内容(問題)が,学習者ごとに自動的に個別化され,学習者のペースで回答していくことになります。ただし,計算問題や穴埋め問題のように正答が一つに限定されるものは自動化しやすくても,要因が複雑に絡み合っているよう個別最適な学びに向けたICT活用の考え方デジタル時代の学び(写真:愛知県春日井市立高森台中学校)26デジタル時代の学び連載

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